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死愁記

世界の薄皮を一枚剥げば、異形のものどもが蠢いている「風邪ひくぞ。連れてってやるよ、家はどこ?」私はいらついて少年の肩をゆすった。こっちも遭難しそうなのだ。やっと小さな……紫色の唇が開いた。「道に迷っちゃった……木下くん家へ行く途中だったの」「君の家はどこ?名前は?」答える代わりに、少年はふり向いた。それまでの反応の鈍さからは想像もできない迅速な身のこなしだった。「来る!」短い叫びが私の耳に灼きついた。小さな身体は私のかたわらをすり抜け、通りの反対側へと水を跳ねとばしつつ走り去った。雨のせいでよく見えなかったが、横町でもあるらしい。追いかけながら、異常だ、と思った。巻き込まれるのは真っ平だ。私のやってきたのとは反対側の奥から、足音と人影が近づいてきた。(「雨の町」より)現実の向こうに息づく怪異幻想の誘惑。怪奇SFホラーの第一人者が1年半にわたり「異形コレクションシリーズ」に書き下ろした10篇を、本人の解説と共に収録。・貢ぎもの・雨の町・姉が教えてくれた・断頭台?・水の記憶・ちょっと奇妙な・去り行く君に・欠損・指ごこち・踏み切り近くの無人駅に下りる子供たちと、老人●菊地秀行(きくち・ひでゆき)1949年、千葉県生まれ。青山学院大学卒業後、雑誌記者の傍ら同人誌に作品を発表し、1982年『魔界都市“新宿”』でデビュー。1985年、『魔界行』三部作が大ヒット、人気作家の座を不動のものとした。伝奇・幻想・バイオレンス小説の第一人者。著作は300冊を超える。

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