書籍の詳細

夏の終わりを告げるねぶた祭りの夜、二人は出会った。男は女を抱きたいと思い、女も男に抱かれることを欲して、一夜限りの激しい情事に。東京で偶然の再会を果たすが、男には家庭があり、女には暗く忌まわしい過去があった。ロマンチックでエロチック、一途な大人の性愛を通し、人間の情念を描く超官能小説。

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幻花祭のレビュー一覧

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  • 勝目梓は、純文学同人誌活動を経て、1970年代に入って官能バイオレンス小説を量産してきた作家ですが、1990年代後半には生と性を極限まで突き詰める作品を生み出し、その延長線上に自らの文学遍歴を赤裸々に描く私小説(『小説家』、『老醜の記』)を発表して再評価されてきました。本書『幻花祭』もそうした作品群の一つで、復讐劇をベースとする勝目梓バイオレンス作品群とは肌合いがだいぶ異なります。夏の青森ねぶた祭りの夜――「ラッセラッ、ラッセラッ、ラッセ、ラッセ、ラッセラッ」の掛け声と熱狂の中で男と女が出会い、365日の中に入っていない「幻の夜」をともに過ごすことから始まった、狂おしいまでの大人の恋を描いた作品です。主人公は大手広告代理店を退社して独立、小規模なデザイン事務所を経営する加治修平。事業も順調なら妻と高校生の長女、中学生の長男の4人家族にも問題はなく、平穏な生活を営んでいる加治が恋に落ちた相手は、忌まわしい過去を持ち、女であることをどこかに封じ込めているかに見える女・佐竹真保子。激しい情事の一夜が明けた朝、真保子は加治が眠っている間に姿を消す。「狂っているときだけが花です。醒めた顔を見合わせたくはありません。ほんとうにすばらしい夢を見せていただきました。お礼を言うのは変ですけど、ありがとうと言いたい気持なのです。さようなら。織姫より。 彦星さまへ」ホテルの小さなメモ用紙に達者な文字で書き残されていた。この一夜だけで終わっていれば、妻子ある男と独り身の女の文字通り一夜限りの夢で終わったのでしょうが、9月に入って偶然再会したことで、加治の思いは募り、かたくなに加治を拒み、生きる屍として生きることを覚悟したかに見える真保子の心の内の壁を、そして体を溶かしていきます。再び燃え上がる二人。勝目梓はこの二人を世知に長けた大人の不倫として描いていません。むしろ、生真面目で不器用な男と女が情愛の極地に行きついたとき、何が始まるのか――。生と性の極限を突き詰めようとする勝目梓の表現力に圧倒される思いです。〈・・・・・・加治は待った。心がはげしく高まっていた。それが性的な興奮のせいなのか、それともそのことを二人の心の契りを示す秘密の儀式のように思うことから湧き上がってくる気持の昂揚のせいなのか、加治にはわからなかった。体がふるえだしそうな気がした(中略)・・・・・・加治は思わず吠えるような声を放ち、真保子の肩と首のうしろのところを手でつかんだ。真保子もほとんど同時に喉の奥に声をひびかせて、加治の腰を抱きしめた。体の緊張がゆるむにつれて、加治は心までがやわらかくほぐれていって、甘美な温かいものでくるまれるような思いが生まれてくるのを覚えた。それもまたセックスと同様に、しかしセックス以上に深く強く二人の心を一つにする行為であることを、加治は有無を言わせない思いの中で実感した〉官能バイオレンス小説を量産しながら、現代文学における“性”の描写を開拓してきた勝目梓は、本書で新しい領域に踏み込みました。セックスの歓びだけでは満たされない男と女が行きついた世界とは? セックスとは異なる男と女の交わり――セックス以上の何かとんでもないほどの一体化を求める情愛の世界。その極みで勝目梓は真保子にこう吐露させています。〈あなたとならどんなに恥ずかしいことだってできちゃうのね。どんなことでもしたくなるの〉生と性の極限を描出する勝目梓の恐るべき描写力を堪能してください。(2012/1/20)
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    投稿日:2012年01月20日