書籍の詳細

三十年近くコンビナートの荷役をし、酒を飲むだけが楽しみ。そんな男のもとに、十五夜の晩、偶然、転がり込んだ美しい女──出会うはずのない二人が出会ったとき、今にも壊れそうに軋みながらも、癒しのドラマが始まる。表題作ほか、青少年の鑑のような高校生が、ふと足を踏み入れた極道の世界で出会ったヒットマンとの、短くも充実した日々──「銀色の雨」。子供のころ、男と逃げた母親との再会をイタリアを舞台に描く「ピエタ」など、“浅田マジック”が冴える全七篇。

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月のしずくのレビュー一覧

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  • 観測史上最大、マグニチュード9.0の大地震、そしてその直後の大津波によって蹂躙されてしまった海沿いの町。そのつめ跡を俯瞰的に、あるいは微視的に伝える報道写真に目を奪われて週末を過ごしていて、ある短編小説がひらめくように頭に浮かんだ。浅田次郎の『月のしずく』です。かつては海の近くにあって栄えた漁師町が湾岸コンビナートの町に変わって、そこで30年も働いてきた中卒の43歳。パッキンをトラックに積み込む荷役(かえき)が辰夫の仕事だ。フォークリフトと並んでコンビナートのなかを動き回る様子が似ているところから「蟻ン子」と呼ばれている。そのさえない蟻ン子に、秋も初めの十五夜の晩、椿事が訪れた。シルバー・グレーのベンツが止まり、美しい女が降りた。〈「いいかげんにしろよ。こっちが甘い顔してりゃつけ上がりやがって」「ふん、あんたに亭主ヅラされる覚えはないわ。じゃあね、バイバイ」男はいきなり女の二の腕を引き寄せて、頬を殴りつけた。・・・・・・倒れ伏した女に向かって、男はさんざ悪態をついた。運転席から手提げ鞄を取り出し、乱暴にひと?みの札束抜き出すと、女の上に撒き散らした。・・・・・・ベンツは唸りをあげて行ってしまった〉女がどこの誰で、どうして自分の前にいるのか、そんなことはどうでもよかった。何とかしてやらなくてはと、辰夫は思った。それが十五夜の満月が真上に輝いていた夜、自分には何一つ取り柄がないと思いこんでいる辰夫が、銀座の女リエを背負ってアパートへ帰ることになるきっかけだった。月夜の晩に出会って、コンビナートのずーと先にある海へ、喪われてしまったふるさとの海へ回帰する辰夫とリエの間の癒しのストーリー、表題作「月のしずく」のほか「聖夜の肖像」「銀色の雨」「琉璃想」(リウリイシアン)「花や今宵」「ふくちゃんのジャック・ナイフ」「ピエタ」を収録。短編の名手だからこそ実現した「浅田ワールド」傑作選。(2011/3/18)
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    投稿日:2011年03月18日