著:藤沢周平

文藝春秋

ジャンル:歴史・時代

570円 (税別)

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eBookJapan発売日:2013年03月22日

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本書『暗殺の年輪』は表題作によって第69回直木賞(1973年上半期)を受賞した藤沢周平が初めて出版した作品集で、日本食品加工新聞(日本食品経済社)記者の仕事をしながら書きためた短編をまとめたものです。この頃の作品について、藤沢周平自身は「私自身当時の小説を読み返すと、少少苦痛を感じるほどに暗い仕上がりのものが多い。男女の愛は別離で終わるし、武士が死んで物語が終わるというふうだった。ハッピーエンドが書けなかった」と述懐しています。翌74年に業界新聞を退社して作家専業となって以来、数多くの秀作を生み出して多くのファンを獲得していったことはあらためていうまでもないと思いますが、この最初の作品集が電子書籍としてリリースされた機会に読み返してみて、もっとも藤沢周平らしい作品というか、藤沢時代小説の原点との思いがわき、一気に読み通しました。直木賞受賞の表題作「暗殺の年輪」は、無役の平侍、葛西馨之介が藩の実権を握る中老の暗殺を対立する家老らから命じられることから物語が始まります。馨之介の亡き父、そして父亡き後女手ひとつで馨之介を育ててきた母と、問題の中老との間には声高には語れない因縁があり、馨之介の耳にも妙な噂として届くようになります。「女の臀で拾った家名」。周囲の冷笑を感じ取った馨之介はその謎を知ろうと関係者に聞いて回り、母に中老との関係を問い詰めます。観念した母は自害し、馨之介は暗殺を決意して指示された場所へ。「葛西源太夫の息子、馨之介でござる」中老と対峙して名を名乗った馨之介に対して返ってきた答えは――「葛西だと?知らんな」という思いもしなかった言葉でした。母が自害して果てるほどの思いを長い間持ち続けてきた側との、この落差。これを藤沢周平は生死を分ける緊張の場面におけるたった一言の会話によって際立たせています。そして中老刺殺を果たした馨之介を取り囲む白刃。横死した源太夫の息子を中老暗殺に仕向けた陰謀の存在に初めて気づいた馨之介。藤沢周平自身が言うように、何ともやりきれない結末です。時代小説の形をとってはいますが、藤沢が切開して見せる人間社会の醜悪さは現代社会にも通底しています。表題作の他には直木賞受賞前の1971年に第38回オール讀物新人賞を受賞し、初めて直木賞候補にもなった『溟(くら)い海』、『黒い縄』、『ただ一撃』、『囮(おとり)』の4篇が収録されています。巻頭の『黒い縄』は互いに想いながら別れていかざるをえない男と女を描いて秀逸です。(2011/8/5)
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