兵士に聞け

「戦後五十年という年月を偽善的に過ごしてきた私たちの戦後を告発する記録」

杉山隆男

 三十六年も昔、それもまた、地震の被災現場での話である。伊豆半島を襲ったM7・0の地震の取材で全国紙記者二年生、若干二十五歳だった私は、配属先の静岡支局から山崩れで多数の行方不明者が出た南伊豆に派遣されていた。地震からすでに十日がたち、現地発の記事は新聞の一面や社会面から追いやられ、早々と記者を撤収させていた社もあった。とは言え、先輩たちの交代要員として現地入りした私としては、県版用に何か「ネタ」を見つけて記事を送らなければならない。
 バイクの試験に七回以上落ちている私はもとよりクルマの免許がない。現地で「足」を確保したくても、非常時にタクシーなど走っているわけもなかった。このため山崩れ現場へは毎日自衛隊のジープで運ばれていた。地震による断水で休業中のホテルにたまたま同宿していた災害派遣部隊の施設大隊の大隊長に先輩記者が頼みこんでくれたのだ。温暖な南伊豆だが、一月の山中はさすがに底冷えがする。雨が降れば、氷雨となる。そんな中、自衛隊員は泥につかりながら連日行方不明者の捜索をつづけていた。彼らを記事に書こうと私は思った。ところが先輩記者に一蹴される。
「いいんだ。自衛隊は憲法違反の存在だからとりあげなくていい」
 社会面トップを張る数々のスクープを連発し、ライバル紙の記者から一目も二目もおかれる存在、尊敬していた先輩だった。その彼の問答無用の一蹴だけに私は言い返すことができなかった。
 しかしそれは彼だけの考えではない。一九七八年の、というよりそれ以前もそれ以降も日本のメディアを支配しつづけた、それが空気であり、考え方だった。
『兵士に聞け』を書いたとき、歴史学者の故阿部謹也氏は本書についての書評の中で、『戦後五十年という年月を偽善的に過ごしてきた私たちの戦後を告発する記録でもある』としるしている。
「知る権利」を言う前に、私たち「戦後日本人」は「兵士」を知ろうともしなかったのだ。

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自衛隊員の生の声に耳を傾けた渾身ルポ。25万もの兵力を擁し、核兵器以外のあらゆる兵器を有する巨大組織でありながら、軍隊として存在することは許されない自衛隊。戦う相手も見えない中で「日蔭者」として生きることを強いられた隊員たちは、日々何を思い過酷な訓練に従事しているのか。様々な基地を訪ね歩き、訓練にも同行し、彼らの生の声に耳を傾けた渾身のルポ。日本を守る存在ながら、日本人があまりにも知らない自衛隊の実情に深く迫る。‘96年新潮学芸賞受賞作。(2007年発表作品)

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