書籍の詳細

1945年、焼け野原の東京。敗戦で2人取り残された美人姉妹の有希子と久美子。食べるため、家を守るために彼女たちが選んだのは、自分の家を進駐軍の慰安所にし、肉体を武器に、失ったものをアメリカ人から奪い返すこと!特攻帰りの男との恋に生きる姉、アメリカ兵と手痛い初体験をし、うら若い娼婦となる妹、姉妹の家に転がり込んだ秋田美人の祥子、銀座の「夜の女」だったお春。優雅なあばずれ女たちの破天荒な“戦後”をあざやかに描く会心作。伊藤整文学賞受賞。

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退廃姉妹のレビュー一覧

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  • 1961年(昭和36年)生まれの作家・島田雅彦は『退廃姉妹』(2005年出版)に次のように書いています。〈1946年1月1日。この日を境に、天皇は自ら現人神であることを否定し、人間になった。まるで、新たに天皇陛下を人間の仲間にお迎えすることを祝うかのような元旦だった。父のいない家で迎える初めての正月を有希子と久美子は、一人一個の目玉焼と塩鮭とズルチンで甘くしたお汁粉で祝った。それが精一杯の贅沢だった。注連飾り(しめかざり)も門松もなく、年賀状も届かなかった〉映画制作会社の重役だった父がアメリカ兵の肉を食べたという戦犯容疑によって占領軍によって連行された後、残された二人の姉妹が東京・目黒の屋敷をアメリカ兵相手の娼館「スプリング・ハウス」と名付けて戦後の混乱期を逞しく生きていくという物語です。戦争を体験した世代による戦後の日本人の変容を描いた作品は、太宰治『斜陽』や田村泰次郎『肉体の門』などが映画化もされてよく知られていますが、『退廃姉妹』は1961年生まれ、戦争を知らない世代による戦争文学として注目される作品です。経済白書が「もはや戦後ではない」と高らかに宣言したのが1956年(昭和31年)ですから、その5年後に生をうけた島田雅彦はいわゆる団塊世代を中心とする戦後生まれの世代より、もう一世代若い作家です。妹の久美子が女学校をやめてアメリカ兵相手の娼婦になることを決意する夜を、島田雅彦は次のように描写しています。〈ベッドが軋む音はそのまま自分の体が軋む音だった。これほどの苦痛に耐えなければ、闇の女として生きていけないものなら、それはあまりに理不尽だった。久美子は遠のく意識の中で、念じていた。みんな通らなければならない道なんだ、処女は死に、新しい久美子が生まれるんだ、と。(中略)これでやっと自分の戦後が始まる〉東京はアメリカ人に占領されたけど、(自分たちは)アメリカ人の心と財布を占領する――心の内で闘争宣言をする久美子ですが、ここにアメリカをどう見るか、戦後世代らしい視点があらわれています。島田雅彦はデビュー作『優しいサヨクのための嬉遊曲』が第89回(1983年上期)芥川賞候補となって以来、第90回、第91回、第93回、第95回、第96回と毎年候補になりながら受賞をはたせず、第144回(2010年下半期)――西村賢太『苦役列車』、朝吹真理子『きことわ』ダブル受賞で話題となったことは記憶に新しい――からは選考委員となった実力派です。敗戦から六十年が経過した2005年、優雅なあばずれ娘たちの祖母となった「退廃姉妹」は何を思うか、はここでは触れないでおきましょう。(2011/7/22)
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    投稿日:2011年07月22日