書籍の詳細

高度経済成長の尖兵たちが夜ごと集まるバーでは嫋々たる演歌が流れ、ゴキブリのように日本人社会のおこぼれにあずかって放浪する若者たちは胸を張ってアメリカン・ドリームを口にする。人種のるつぼニューヨークに生活する様々な日本人の人生を通して、“ひよわな花”日本の繁栄を望見する、バブル崩壊後の今こそ読みたいノンフィクション秀作!

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ニューヨークの日本人のレビュー一覧

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  • 本田靖春が本書『ニューヨークの日本人』のもととなった連載「世界点々」を週刊現代で始めたのが1975年(昭和50年)の新年号。読売新聞社をやめてフリーランスのライターになって4年たっていました。その頃、ライバル週刊誌で編集の仕事についていた私には毎週月曜日、「世界点々」が掲載された週刊現代の発売を心待ちにしていた記憶が残っています。読売社会部エース記者からフリー・ジャーナリストに転じた本田靖春が手がける、一見気楽な旅の雑記帳に見えながら、人間に対する飽くなき好奇心、つきぬ興味をもって対象の内面に迫っていくホンモノのコラムに思えたからです。本田靖春は本書前書きでこう言っています。「わざわざニューヨークで日本人を題材として採り上げたのは、この人種のるつぼに拠り込まれて適合不能をおこしている同胞が、好むと好まざるとにかかわらず世界へ出て行かなければならないわれわれにとって、格好の被験体だと思われたからである。ときに物悲しく、ときに滑稽な登場人物は、私自身の投影でもあろう」――気ままな旅にあこがれ、気楽に書いたが、ただひとつ、「人間」に対する興味だけは失っていないつもり、「人間」こそ人間にとっての永遠のテーマと言いきる本田靖春だけに、対象を見つめる眼はどこまでもやさしく、それでいて厳しい眼差しで自己をも投影していきます。訪米した昭和天皇も宿泊した最高級ホテル、ウォルドーフ・アストリア・ホテル。きらびやかなシャンデリアがともるロビーをまだ足元のおぼつかない幼児の遊び場にした小柄な日本女性サトミ。その理由(わけ)を追って、本田靖春はサトミの半生をたどります。アメリカの大学を卒業した日米の女性たちでつくっている「カレッジ・ウィメン・クラブ」がスポンサーとなる留学生に選ばれ、出発の羽田では記者会見までしてアメリカにやってきたサトミはしかし、入学したカレッジに1年しかいなかった。休暇で行ったシカゴで日系2世の青年と出会って恋におち、いったんは大学に戻ったものの、退学してシカゴで結婚。ウエートレスとして働くレストランの進出にともなってニューヨークへ。ニューヨーク行きをためらった夫とはあっさり離婚した。NYの店で知り合った中国系の男と再婚して男女2児をもうける。ギャンブルに狂った2番目の夫とも別れて、サトミは子どもたちを女手一つで育てている。ウェートレスをしながら上の二人を高額な費用のかかる私立校に通わせ、そしてウォルドーフ・アストリア・ホテルのシャンデリアの下で遊ばせる3人目の幼児。挫折を繰り返してきたサトミは子どもたちにどんな夢をかけているのか。本田靖春はニューヨークに集まる人たちの夢と苦悩とを鮮やかな群像劇の中に描き出しています。(2011/4/8)
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    投稿日:2011年04月08日