開高 健 電子全集7 小説家の一生を決定づけたベトナム戦争

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ベトナム戦争の従軍経験から『輝ける闇』『夏の闇』その他多くの作品が生まれた。ベトナム戦争を取材するため、開高健が朝日新聞社の臨時海外特派員としてベトナムを訪れたのは1964年~65年のこと。このとき開高健はジャングルでベトコンに包囲され、集中砲火を浴び、九死に一生を得る経験をする。その後68年、73年にもベトナムを訪れているが、「ヴェトナムでは徹底的に教え込まれることがおびただしくあった。三度訪れて、三度とも、それぞれ異なる場所と異なる様相で、とことん注入されることがたくさんあった。」(『開口閉口』より)。とことん注入されたものを素材にし、テーマにして、『ベトナム戦記』や『サイゴンの十字架』などのルポルタージュが生まれる。『輝ける闇』『夏の闇』などの純文学の傑作が生まれる。そして多くのエッセイが生まれることになるのである。“ベトナム”をキーワードに数多くの開高作品を収録した。【収録数】ルポルタージュ:2作小説:10作エッセイ他:38篇付録:担当編集者などによる解説6点、ベトナムで死を覚悟して座り込む開高健の写真など5点【ご注意】※この作品はカラー写真が含まれます。

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ベトナム戦争の従軍経験から『輝ける闇』『夏の闇』その他多くの作品が生まれた。ベトナム戦争を取材するため、開高健が朝日新聞社の臨時海外特派員としてベトナムを訪れたのは1964年~65年のこと。このとき開高健はジャングルでベトコンに包囲され、集中砲火を浴び、九死に一生を得る経験をする。その後68年、73年にもベトナムを訪れているが、「ヴェトナムでは徹底的に教え込まれることがおびただしくあった。三度訪れて、三度とも、それぞれ異なる場所と異なる様相で、とことん注入されることがたくさんあった。」(『開口閉口』より)。とことん注入されたものを素材にし、テーマにして、『ベトナム戦記』や『サイゴンの十字架』などのルポルタージュが生まれる。『輝ける闇』『夏の闇』などの純文学の傑作が生まれる。そして多くのエッセイが生まれることになるのである。“ベトナム”をキーワードに数多くの開高作品を収録した。【収録数】ルポルタージュ:2作小説:10作エッセイ他:38篇付録:担当編集者などによる解説6点、ベトナムで死を覚悟して座り込む開高健の写真など5点【ご注意】※この作品はカラー写真が含まれます。

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〈二〇〇人の第一大隊はあちらこちらの木の根もとに放心している兵士を数えてみると、たった一七人になってしまった。私はしゃがんだまま小便を一回やり、バグを整理した。にぎりめし半個。『正露丸』。クロロマイセチン。防虫薬。ライター油。航空券。ドルなどポケットというポケットにつめこみ、さいごに日ノ丸の旗(引用者注:ベトナム語で『私ハ日本人ノ記者デス』、『ドウゾ助ケテ頂戴』と書いてある。東京へ留学にきているチク・マン・ザック(釈満覚)という詩人僧侶が、万一ベトコンにつかまったときの用心にといって書いてくれたもので、開高健はベトナム取材中、常に所持していたという)をねじこんだ。ジャングルは深く、濃く、広大で、十メートルさきが見えなかった。太陽は白熱していた。私はここで渇死するかも知れないし、餓死するかも知れないと思った。けれど私の手のしたことは生を決意していた。体力を節約するためにいつバグを捨ててもよいようにしたのだ。東京の杉並区にいる妻子のことは考えるまいとした。考えると消耗すると考えたのだ。けれど、努力する必要もなかった。前夜の不眠で削がれた体力、精神力は、ほぼ限界に達していた。私はただ汗で色の変った麻袋のようになって土によこたわり、静かに息をついていた。秋元キャパ(引用者注:朝日新聞社特派のカメラマン。ベトナムでは開高健と行動をともにした)と一口ずつ水を飲みあった。(中略)私たちはたがいの写真をとりあった。シャッターをおしたあと、ふたたび枯葉に体をよこたえた〉開高健は、1964年11月から1965年2月下旬に帰国するまでの約100日間を南ベトナムで従軍記者としてベトナム戦争の最前線に立ちました。上掲は、『週刊朝日』(65年1月8日号~3月12日号)に連載した現地レポートを1冊にまとめた『ベトナム戦記』の一節です。サイゴン(現在のホーチミン)の北方52キロにある田舎町ベン・キャット。この小さな町に築かれた砦から北方16キロのジャングルを目指して三個大隊構成一個連隊の南ベトナム政府軍500人が出発した。深くて濃いジャングルで、全延長数十キロに達するトンネルが地下四メートルに掘りめぐらしてあるといわれている。入口も出口もわからない。ワナも無数にあるだろうし、地雷も仕掛けてある。そのベトコンの拠点と見られるジャングルを、500人の地上部隊で制圧しようという、三晩四日がかりの大作戦です。未明に大型軍用トラック20台で基地を出発した作戦部隊に開高健と秋元カメラマンの二人も同行します。6時に目標のジャングルの入口でトラックを降りた兵員は、静まりかえったジャングルに足を踏み入れます。そして6時間。一発の銃撃を受けることなく、昼食(ベトナム米のおにぎり)を終えた12時半――。〈とつぜん木洩れ陽の斑点と独得の白熱と汗の匂いにみちた森のなかで銃音がひびいた。マシン・ガンと、ライフル銃と、カービン銃である。正面と右から浴びせてきたのだ。ドドドドドッというすさまじい連発音にまじって、ピシッ、パチッ、チュンッ!……という単発音がひびいた。ラスがパッとしゃがんだ。そのお尻のかげに私はとびこんだ。それから肘で這って倒木のかげへころがりこんだ。鉄兜をおさえ、右に左に枯葉の上をころげまわった。短い、乾いた無数の弾音が肉薄してきた。頭上数センチをかすめられる瞬間があった。秋元キャパはカメラのバグをひきずって一メートルほどの高さのアリ塚のかげにとびこんだ。枝がとび、葉が散り、銃音の叫び、トゥ中佐の号令、砲兵隊士官が後方の砲兵隊に連絡する叫びなどのほかは何も聞えなかった。私は倒木のかげに頭をつっこみ、顔で土を掘った〉四方八方からいままでにない至近距離の乱射。そのなかを逃げまどった開高健たち――200人の第一大隊が17人になっていたという。暗くなってようやくジャングルを抜け出すことができた。満月のハイ・ウェイを戦略村に向って歩きながら、中学生のように小さい砲兵隊将校に〝Oh. What has happened?〟(どうしたんです?)と問うと その将校はぽつりと、ひとこと〝My country is war.〟(私の国、戦争です) とあやまるようにつぶやいた、と開高は書いています。「戦争」の中で生きてきた、そしてその中で生きるしかない人の悲哀が胸に迫ります。いまからちょうど50年前の1963年11月にアメリカのケネディ大統領が暗殺され、翌64年8月にトンキン湾事件(北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件)が発生。ケネディの後を受け継いだジョンソン大統領によるベトナム戦争への本格介入が始まっていました。国際情勢が緊迫するなかで、1958年に芥川賞を受賞していた気鋭作家・開高健は朝日新聞社の臨時特派員としてベトナム戦争の最前線へ。多くのノンフィクション作品、小説を残しましたが、この『ベトナム戦記』はその最初のもので、生身の体で知った「戦争」というものを週刊誌を舞台に描いていく若き開高健の筆力に圧倒されます。そもそも開高健はなぜ、ベトナム戦争の最前線に立ったのか。何が、彼をかりたてのか。サイゴンに赴くばかりか、そこからさらに死地に赴いたのは、なぜか。ジャングルで四方からベトコンに乱射され、銃弾の下をかいくぐって、倒木の下に倒れ込み顔で土を掘った時のことを太平洋戦争中の爆撃体験に重ねて、こう書いています。〈そんな瞬間でも眼はふと枯葉のなかをうごくアリの群れを見た。昔にもそういう瞬間があった。水田の泥の霧しぶきをこして眼は殺到してくる戦闘機の機首でパイプをくわえて力こぶをつくっているポパイや、風防ガラスのなかで笑っているアメリカ人のバラいろに輝く頬や、夏空の積乱雲などを、一瞬のうちに見た。(……豆腐だ、豆腐だ、豆腐なのだ!) ピシッ、パチッ、チュンッのなかでふるえながら眼はアリの群れを眺めた〉太平洋戦争中のグラマン戦闘機による機銃掃射を逃げ回った体験から根強い「私の頭蓋骨は豆腐よりもろく、やわらかいらしい」という恐怖感がよみがえったと告白しているのです。本書には、ルポルタージュ2作品、小説9作品、エッセイなど37作品のほか、中田耕治、柴田翔、石川文洋らの、開高健記念会における講演録などが併録されていて、「開高健とベトナム」を考える手助けとなっています。(2013/11/15)
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