書籍の詳細

和服にパラソルをさして、日本から母は帰って来た。貧しいなかをおおらかに生きた母の生涯を清冽な文体で描く鎮魂の譜。ひろく共感を呼んだ芥川賞受賞作品。この表題作と表裏をなす「人面の大岩」は、喜怒哀楽ははげしかったがきわめて平凡な人生を送った父の肖像を感動的に綴った。ほか、在日朝鮮人の哀切な魂の唄を歌い上げ、著者の文学的基点を示す珠玉の短篇「半チョッパリ」「長寿島」「奇蹟の日」「水汲む幼児」の四篇を収録する名品集である。

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砧をうつ女のレビュー一覧

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  • 2011年1月30日の深夜。カタール・ドーハで行われた日本vsオーストラリアのアジアカップ決勝。延長戦に決着をつけた左足ボレー。イギリス・プレミアリーグでプレーするゴールキーパーが一歩も動けずに見送った。決めたのは在日韓国人4世で、2007年に日本国籍を取得して日本代表初選出の李忠成。そのワールドクラスのファインゴールに多くの人が鳥肌が立つような興奮を覚えたのではないでしょうか。サムライブルーのユニフォームに「LEE」の名を背負う日本代表選手の存在、そしてその見事なゴールによって日本はアジアカップを手にしました。親戚中が帰化に反対するなかで、母親は「親戚から縁を切られても私たちはいい。自分の思うようにしなさい」と背中を押してくれたという。「在日」をめぐる状況に思いをはせるとき、思い起こすのが李恢成の芥川賞受賞作『砧をうつ女』です。戦中の樺太で暮らす在日の母と少年の物語で、「砧をうつ」とは洗濯した衣類の皺をのばすために棒状の道具で叩くことを意味します。作品の一節にこうあります。〈・・・・・・重ねた衣服類に布地をかぶせて、砧で気長にうつのである。毎日のように見る光景であった。見飽きているはずなのに母がトントン、トントンとやっているのを眺めるのは楽しみであった。故郷の川辺で見かけた白衣の女達をぼんやりと思い出し、遠くへ惹き入れられていく気持になっていく。砧をうちながら、母は何を考えていたのだろう。〉李恢成は、父との諍いのなかで母が諦めたような口調で「流れてきたのよ。故郷を出てきたときからなんだ。ヒュー。そうなのよ。望みも体もすりへらしてさ」と暗い眼差しでじいっと考えこんだと描写しています。故郷を離れ流れてきた人々の心情、異境で生きていくことの意味を問う、在日文学の到達点を示す傑作です。李恢成は1998年、金大中政権が発足した機会に、韓国国籍を取得しています。(2011/2/4)
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    投稿日:2011年02月04日