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新編 日本の面影 II

代表作『知られぬ日本の面影』を新編集する待望の第2弾。「鎌倉・江ノ島詣で」「八重垣神社」「美保関にて」「二つの珍しい祭日」ほか、日本に対するハーンの想いと細緻な眼差しを感じる新訳十編。

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スペシャルレビュー

見えないが確かに感じられる気配

《「髪の毛三本動かす」ほどの風が吹けば、加賀への船は出せない、といわれている》
 ラフカディオ・ハーンの代表作『日本の面影』に収められた珠玉の随筆「子供たちの死霊の岩屋で」はこんなふうに始まる。
 松江に暮らしていたハーンはある日、日本海の加賀浦に突き出した岬にある、潜戸(くけど)という海蝕洞窟の話を聞くが、風にはばまれ何か月も待たされている。ようやく風がやみ、松江から山越えの難路を行き、小さな漁村から岬めぐりの船に乗ることができた。待ちに待ったこの一日の出来事を、目の前にくりひろげられる光景と、土地の人が語りおろす伝説が響き合う、神話的な文体で織り上げたのが本作だ。
 潜戸は、死んだ子供たちが寄り集まって来るといわれる霊場である。恐山を思わせる賽の河原は《奥の薄闇の中で、青白い石地蔵の顔が微笑んでいる。その前にも、その周り一面にも、灰色の形なきものたちがたくさん集まっている》と描かれる。灰色の形なきものとは暗がりで見る石塔婆、これを崩すと《子供たちの霊は泣いてしまうだろう》と案内人から教わる。ハーンはそれでも3つの塔を崩してしまい、償いに6つの塔を積み直す。
 かつてある雑誌で、ハーンの特集を組んだことがある。そのとき作者と同じ体験がしたくて、写真家、記者とともに潜戸へ渡った。ところがそこで恐るべき光景を見てしまった。縫いぐるみ、ランドセル、リコーダー、筆箱、セーター、お稽古バッグ……幼くして亡くなった子供たちが愛用した、華やかな色使いの奉納品が洞窟を埋め尽くしていたのだ。さらに翌朝、3人で朝食をとっていたら女性記者がぽつりと言った。「夜中に突然電気がついたのよ」。潜戸の風景も、その地で喚起された物語も、現代のほうがハーンの時代より力を増していた。
『日本の面影』は、1890年(明治23)4月、ハーンが来日した日(「東洋の第一日目」)から松江を去る91年11月(「さようなら」)まで、わずか1年7か月の間に体験した、夢のような時間をかたちにした随筆集だ。
 ギリシア人の母とアイルランド人の父、ともに神話の国の血を受け継ぐハーンは、土地のにおいをかぎとる鋭い力があると思う。さまざまな土地に漂う〝見えないが確かに感じられる気配〟について、時に繊細に、時にずばりと描き出す。
 ハーンが『日本の面影』に書き残した霊場、神社、寺、祭り、そして風景にさえも、その地に長く蓄積されてきた人間の生々しい感情の余香が、今も残っているような気がしてならない。そのうちのいくつかは、潜戸のようにさらに熱を帯びていたりする。私は彼の著書を昔話ではなく、普遍の土地案内書として、追体験し続けている。

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