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「社会が高齢化するから日本は衰える」は誤っている!原価0円からの経済再生、コミュニティ復活を果たし、安全保障と地域経済の自立をもたらす究極のバックアップシステムを、日本経済の新しい原理として示す!!

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里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動くのレビュー一覧

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  • 「新書大賞2014」(中央公論新社主催)で2位以下を大きく引き離す得票を得て大賞に選出された『里山資本主義』(藻谷浩介・NHK広島取材班著/角川oneテーマ21)が、刺激的で面白い。筆者は、日本総合研究所調査部主席研究員の藻谷浩介(もたに・こうすけ)氏とNHK広島の井上恭介氏、夜久恭裕氏。「里山資本主義」は筆者たちによる造語。現代社会を覆い尽くしている「マネー資本主義」の対極に位置する新しい考え方です。中国地方の山間(やまあい)に芽生えた実践の思想にいち早く注目した筆者たちは「里山資本主義」という言葉を与えて、地道かつ広範な取材を重ねて中国地方限定のドキュメント番組として放送。さらに中国地方ばかりではなく、もっと広い地域の人々にもその考え方とそれに基づく実践活動を伝えようと取材内容を一冊にまとめたのが本書です。「里山資本主義」とは、理念として構想されたものではありません。あくまでも経済活動の現場で発想され、試行錯誤を重ねて鍛えられてきた実践の思想です。これまで日本人が当たり前に持ってきたエネルギー観を根底から覆そうではないかという提案です。原発を肯定するかどうかという、私たちの将来を大きく左右する問題にも深く関連してきます。その最先端を走るのは、岡山県真庭(まにわ)市の製材所です。岡山市から車で北へ向かうこと1時間半。標高1000メートルを超える山々が連なる中国山地の山間にひろがる真庭市は、岡山県下でも屈指の広さを誇りますが、人口はわずか5万、面積の80%を山林が占めるという典型的な山村地域です。地域を支えてきたのは林業と製材業ですが、長びく不況の中で市内に30ある製材所はどこも苦しい状況にあります。〈厳しい製材業界にあって、「発想を一八〇度転換すれば、斜陽の産業も世界の最先端に生まれ変われる」と息巻く人物が真庭市にいる。交じりけのない、真っ白でさらさらの髪がとても印象的な人物。還暦を迎えたばかりの、中島浩一郎さんである。中島さんは、住宅などの建築材を作るメーカー、銘建工業の代表取締役社長だ。従業員は二〇〇名ほど。年間二五万立方メートルの木材を加工。真庭市内の製材所で最大、西日本でも最大規模を誇る製材業者の一つである。そんな中島さんが、一九九七年末、建築材だけではじり貧だと感じ、日本で先駆けて導入、完成した秘密兵器が、広大な敷地内の真ん中に鎮座する銀色の巨大な施設だ。高さは一〇メートルほど。どっしりとした円錐形のシルエット。てっぺんからは絶えず、水蒸気が空へと上っている。 これが今や銘建工業の経営に欠かすことができない、発電施設である〉本書によれば――山の木は、切り倒されると、丸太の状態で工場まで運ばれてきます。工場で樹皮を剥(は)ぎ、四辺をカットした上で、かんなをかけて板材にする。その際にでるのが、樹皮や木片、かんなくずといった木くずです。その量、年間4万トン。これまでゴミとして扱われていたその木くずが、ベルトコンベアで工場中からかき集められ、炉に流し込まれます。銘建工業は専門用語で「木質バイオマス発電」と呼ばれる、木くずを燃料とする発電事業に取り組んで10年あまり。いまや経営の柱に成長してきている――というわけです。〈発電所は二四時間フルタイムで働く。その仕事量、つまり出力は一時間に二〇〇〇キロワット。一般家庭でいうと、二〇〇〇世帯分。それでも一〇〇万キロワットというとんでもない出力を誇る原子力発電所と比べると、微々たる発電量である。こうした話になると、とりわけ震災後は「それで原子力発電がいらなくなるのか?」といった議論ばかりされるが、問題はそこではないのだ、と中島さんは語気を強める。「原発一基が一時間でする仕事を、この工場では一ヶ月かかってやっています。しかし、大事なのは、発電量が大きいか小さいかではなくて、目の前にあるものを燃料として発電ができている、ということなんです」会社や地域にとってどれだけ経済効果が出るかが大事、なのだ。中島さんの工場では、使用する電気のほぼ一〇〇%をバイオマス発電によってまかなっている。つまり、電力会社からは一切電気を買っていない。それだけでも年間一億円が浮く。しかも夜間は電気をそれほど使用しないので、余る。それを電力会社に売る。年間五〇〇〇万円の収入になる。電気代が一億円節約できた上に、売電による収入が五〇〇〇万円。しめて、年間で一億五〇〇〇万円のプラスとなっている。しかも、毎年四万トンも排出する木くずを産業廃棄物として処理すると、年間二億四〇〇〇万円かかるという。これもゼロになるわけだから、全体として、四億円も得しているのだ〉1997年末に完成した発電施設の建設費用は10億円。渋る銀行を説得して融資を得てようやく実現したプロジェクトでしたが、それによって銘建工業の経営は持ち直しました。時代の最後尾を走っていると思われていた製材業がいまでは時代の最先端を走っているというわけです。20世紀のエネルギー観を塗り替えるエネルギー資源の登場であり、それを活用した里山資本主義の成功事例ですが、じつはこうした実践は日本だけで行われているわけではありません。筆者たちはヨーロッパに足を運び、オーストリアを徹底的に取材しました。オーストリアはじつは、ギリシア、スペイン、イタリアに象徴されるEU経済危機のなかで、安定した経済運営が行われている健康優良国です。〈それは数々の指標が物語っている。ジェトロが公表しているデータ(二〇一一)によれば、失業率は、EU加盟国中最低の四・二%、一人当たりの名目GDP(国内総生産)は四万九六八八米ドルで世界一一位(日本は一七位)。対内直接投資額は、二〇一一年に前年比三・二倍の一〇一億六三〇〇万ユーロ、対外直接投資額も三・八倍の二一九億五〇〇万ユーロと、対内・対外ともにリーマンショック直前の水準まで回復した。では、なぜ人口一〇〇〇万に満たない小さな国・オーストリアの経済がこれほどまでに安定しているのか?その秘密こそ、里山資本主義なのだ〉オーストリアの国土はちょうど北海道と同じくらいの大きさで、森林面積でいうと、日本の約15%にすぎません。それでいてオーストリアは日本が1年間に生産する量よりも多少多いぐらいの丸太を生産しています。本書に教えられたのですが、オーストリアは知られざる森林先進国で、木を徹底活用して経済を活性化する取り組みに国を挙げて取り組んできた「里山資本主義」の先駆者だったのです。しかも、その従来型の経済運営から転換したのはわずか10年前のことでした。先駆者としてのオーストリアの詳細は本書をお読みいただくとして、最後にオーストリアの脱原子力の憲法を紹介しておきましょう。〈一九九九年に制定された新憲法律「原子力から自由なオーストリア」では、第二項で原発を新たに建設することと、既に建設された原発を稼働させることを禁止している。ちなみに第一項では核兵器の製造、保有、移送、実験、使用を禁止している。つまり、オーストリアは、軍事利用であれ、平和的利用であれ、原子力の利用そのものを憲法で否定している数少ない国の一つなのだ〉自分たちの足下に豊富にある木を利用して経済を活性化しようというオーストリアにおける「里山資本主義」の先駆的な試みは、原子力に対する極めて現実的な判断を背景に成果を挙げつつあるのです。3年目の3.11を前に「原発ゼロ」の徹底的な議論を避けて、再稼働に向けて動き出した日本を見直すための大事な一冊だと思います。(2014/2/28)
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    投稿日:2014年02月28日