書籍の詳細

初秋の温泉宿で、美貌の女性、柳倭文子を間に挟み、世にも奇妙な死闘が執り行われようとしていた。やがて舞台を東京に移すや、彼女をつけ狙う不気味な唇のない男が出現し、怪事件が続出する。明智と『黒魔術』事件で知り合った美人助手文代、それに小林少年が加わり怪人を向こうに回した死闘の幕が切って落とされる!挿絵・岩田専太郎

まだユーザーレビューはありません。最初のレビューを書いてみませんか?

吸血鬼のレビュー一覧

絞込み条件
  • レビュアー絞込み
表示形式
  • 表示件数
  • 表示順
  • 江戸川乱歩がその絶頂期ともいえる昭和5年(1930年)の報知新聞(現在のようなスポーツ新聞ではなく、東京三大新聞の一つ)に連載した作品ですが、いま読んでも決して旧い感じはしません。日本の推理小説の古典中の古典と言っても過言ではありません。書き出しが秀逸です――「ティーテーブルの上にワイングラスが二つ、両方とも水のように透明な液体が八分目ほどずつ入っている。それが、まるで精密な計量器ではかったように、キチンと八分目なのだ。二つのグラスはまったく同形だし、それらの位置も、テーブルの中心点からの距離が、物さしをあてたように一分一厘ちがっていない。(中略)さて、このテーブルを中にはさんで、二脚の大型籐椅子が、これまた整然と、まったく対等の位置に向きあい、それに二人の男が、やっぱり人形みたいに行儀よく、キチンと腰かけている」塩原温泉に投宿した三人の男女――美青年と中年紳士、そして美貌の未亡人。女をめぐって二人の男が「決闘」をするシーンから物語が始まります。その手段が二つのワイングラス。一方には中年紳士が毒を入れてあり、したがって青年にだけグラスを選ぶ権利がある。それが決闘のルールというわけです。ロシアンルーレットですが、先にワインを飲んだ青年に異変は訪れず、敗れた中年紳士は失踪し、半月後水死体となって発見される。その後、その美貌の未亡人の周りで怪死事件が相次いで起こり、明智小五郎が登場し、事件の謎に挑むことになるわけですが、この長編小説にはスリリングで意外な結末という楽しみの他に、江戸川乱歩ファンにとっては知っておきたい三つの特徴があります。一つは後に少年探偵として活躍するキャラクター、小林少年が初めて登場すること。第二は、明智探偵の結婚です。そして何より、挿絵――新聞小説のために描かれた岩田専太郎画伯の挿絵がたっぷり入っています。普通、新聞や雑誌連載時の挿絵は単行本にする時に省かれてしまうのですが、本書の場合、江戸川乱歩の作品世界を表現する岩田専太郎の絵がふんだんに盛り込まれていて、ミステリーファンにとってはまたとないサービスとなっています。(2010/12/3)
    • 参考になった 2
    投稿日:2010年12月03日