書籍の詳細

随筆の名手がつづる懐かしい日々、豊かな人生、味な旅、取材の旅、そして人生の旅。人に会い、町を知り、明日の食事を想う著者の伸びやかな心が溢れ出る名篇49篇を収録。池波正太郎のラスト・エッセイ。

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池波正太郎未刊行エッセイ集2 わたくしの旅のレビュー一覧

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  • 「池波正太郎未刊行エッセイ集」は池波正太郎が書きためた雑文を5冊に編纂した作品集で、それぞれに「おおげさがきらい」(第1巻)、「わたしの旅」(第2巻)、「わが家の夕めし」(第3巻)、「新しいもの古いもの」(第4巻)、「作家の四季」(第5巻)というタイトルが付けられてはいるが、中身がそれによって区切られているわけではありません。どの巻もいわば生身の池波正太郎がそのまま、読者の眼前で食べ、飲み、感動し、悔しがったり懐かしがったりしているかのようです。どれもごく短い文章です。しかも一つずつが独立した話となっていて、1ページあたり文字数を少なくした電子書籍組版とあいまって実に読みやすい本となっています。
     ここでは第2巻「わたしの旅」から、その一端を紹介しましょう(「現代新婚図」より)。池波正太郎の若い友人は新婚3か月。晩ご飯を一緒に食べることになって「何がいい? 鰻か、天ぷらか・・・・・・」と聞く池波に新婚の友人がリクエストしたのは〈ナスの味噌汁と、たっぷりネギとカラシをそえた納豆と、焼海苔〉。
    〈お安い御用だが、そんなもの、毎日食ってるんだろ。第一、そりや朝メシのメニウだ〉といぶかる池波に、新婚男は味噌汁、納豆、焼海苔をどうあっても食べたいと懇願する。池波の奥さんが用意してくれた夕食を食べ終えて男は〈ああ、うまい。生き返った。ほんとに生き返った。ありがとう、奥さん……〉の一言。そして〈結婚以来食べていないのです。生き返りました〉と付け加えた。両眼は心なしか、うるんでいた。。
    〈彼の新妻は朝から晩まで、彼女が習得したとかいうフランス料理の一点張りで、アパートの台所(兼)食堂には、朝からナイフとフォークが並ぶといった寸法・・・・・・〉
     体によくないから白米の配給もうけないという事情を聞いた池波正太郎は、単純明快なアドバイスを与えます。
    〈めしの膳を引っくり返すんだ。こんなものは食えんと叫ぶんだ〉
     池波正太郎自身、結婚第一夜にやったんだといって太鼓判を押したのですが、8日後に悄然として池波家に立ち寄った新婚男は「殴りました」と一言。そうか、えらいと池波。友人はさらに一言。
    〈いえ、ワイフがぼくを殴りました。食卓の上の、花瓶で。ぼく、二日も会社を休みました。ここのところが腫れあがって、熱が出てしまったもんで……〉
     草食男子のはしりでしょうか。
    (2010/11/5)
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    投稿日:2010年11月05日