書籍の詳細

〈……方丈より一尺せまき九尺四方すなわち四畳半はいにしえより色のにぎわい。香りゆかしき閨のうち、いくよの夢は宝舟、立てし帆柱いとめでたきありさま、つたなき筆に写して、雨の振袖しっぽりと、濡色みするよしなしごと書きつづらんと、珍腐山人しるす……〉雑誌「面白半分」編集長として伝・永井荷風作の名作「四畳半襖下張」を再録し、刑法一七五条わいせつ文書販売人の判決を受けた著者が、憤然、筆のかぎりを尽くして男女の営みを活写し、わいせつとは何かを世に問う問題作。

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四畳半色の濡衣のレビュー一覧

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  • 「かの長明は、日野山方丈の庵にこもり、安元治承の世の乱れうちながめ、流れに浮かぶうたかたと観じて、無情転変を嘆きぬ。されど乱世は方丈の内にあり、大火大風飢饉に地震など、天変地異をまたずして、乱れ易きは人の心、そのもといすべて色に出づ、これ有情転変と申すべきか」――野坂昭如が鴨長明「方丈記」になぞらえた書き出しで始まる本書表題作「四畳半色の濡衣」を発表したのは1972年(昭和47年)、『オール読物』9月号でした。野坂昭如は当時編集長を務めていた雑誌『面白半分』に永井荷風作といわれる『四畳半襖の下張』を掲載。これが刑法175条のわいせつ文書販売の罪に当たるとされ、起訴されていた。この裁判は最高裁まで争われ結局野坂昭如は敗訴することになりますが、「四畳半」をキーワードにした連作は、「猥褻(わいせつ)とは何か」「ひとにとって性のいとなみとは?」をつきつめていった野坂昭如の存在を賭した作品群といっていいと思います。その頃、駆け出しの週刊誌編集者として働き始めていたこともあって、小説雑誌に発表されるごとに読んだのですが、幾つの作品は見落としていたものもあり、今回、電子書籍となってリリースされたのを機会に読み直して、まるで音読しているような感覚の野坂昭如の文体を久しぶりに堪能しました。あとがきにあたる「猥褻記」に野坂昭如はこう書いています。〈ぼく自身は、ポルノ解禁とか、あるいは厳禁とかに、まったく興味はない。お上の意向によって、左右されるほど、器用な物書きでもないから、自分の性意識に忠実にふるまうだけのことだが、猥褻感という、まったく個人の感情について、お上がいちいちお節介をやくとなると、これはやはり只ごとではない。猥褻感は、生きているしるしみたいなものではないか、何かに触発されて、味な気分を起すから、この世は楽しいのである、そしてそれは、クラシック音楽によってひき起こされる場合もあれば、漫画が刺戟になることもあり、杓子定規に、因果関係を設定できるものではない。できもしないことを、社会秩序の名のもとに、できるが如く装って、世間に押しつけてはいけないと思う〉性表現についての規制強化が声高に論じられている今、読み直すべきは野坂昭如です。(2010/10/29)
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    投稿日:2010年10月29日