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屋根の上のマンガ読み
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屋根の上のマンガ読み


『半神』©萩尾望都/小学館文庫
 1986年に萩尾望都さんの『半神』を芝居にした当時、マンガを演劇にするのは一種のタブーっていうか、「そんな“低い”ものを題材にするなんて」っていう考え方の人が演劇界には多かったんです。自分たちあたりが、マンガというものに影響を受けてものを作る人間が出てきた最初の世代だと思うんですよね。
 萩尾さんの作品は、選ばれている言葉が非常に優れていて、たいへん刺激的です。それに構成が演劇的ですよね。物語のひっくり返し方とか、時間というもののとらえ方も。たとえば芝居だと、一幕が終わって二幕が始まったとたんに、もう時間が飛んでるわけですよね。それを萩尾さんはうまくマンガの中で使うような気がする。
 萩尾さんの芝居好きはすごいですよ。『半神』の舞台をイギリスのエジンバラでやったときもわざわざ来てくれた。僕は萩尾さんの目を信じてるんで、芝居の感想を聞くのが楽しみなんです。じっと考えてから、「今回の芝居は〜」って解説が始まりますからね。かなり“言葉の人”っていう印象がある。そこにひとつの魅力があります。毎公演3回くらい来てくれてるんですが、2回目以降に新しい発見をしたときは嬉々として語ってくれるんですよ。たぶん、仕掛けとか構成に対するあり方が、萩尾さんの作り方と通じるところがあるんじゃないですか。だから萩尾さんも好んでくれるんだと思います。


 高校のときは『がきデカ』を毎週楽しみにしてました。日本のギャグマンガの歴史を変えたでしょ。きれいな顔をした男の子や女の子が、ページをめくると一瞬にして怪物のような顔に変わる。あれは山上たつひこって人が考え出した演劇的な仕掛けじゃないですか。当時は自分が演劇を始めた頃でもあり、価値観が根底からひっくり返るような経験でした。
 ちばてつやさんの『茂助じい』(※1)という短編も傑作でしたね。漁師さんと若者が船に乗っていて、ずっと波の上で揺れてるんですよ。実際はそんなに長くなかったかもしれないんですけど、延々続いてたような気がする。能のようでさえありましたね。

 手塚治虫さんの作品は自分の子供のころのひとつのエポックですから、マンガを語るに欠かせない人ですよね。僕が手塚さんを面白いなと思ってたのは、いつも最初にものすごい大風呂敷を広げるでしょ。どんな話になってしまうんだと。そしてきちんと完結しないものもあって、そこが手塚さんの魅力でもあるんだけど、『火の鳥』は見事に完結した作品ですよね。圧倒的に完成度の高いシリーズになっている。なかでも僕は「鳳凰編」が大好きで、そのまま舞台にすることはできなかったけど、坂口安吾の『桜の森の満開の下』『夜長姫と耳男』をあわせて作り変えた芝居で、「鳳凰編」のように鬼瓦を彫るシーンを入れたりしました。コマが能舞台を見ているような視点で構成されている「羽衣編」も印象的ですね。
 手塚治虫さんは『W3』も素晴らしかった。ブレヒトの芝居で『セチュアンの善人』という作品があるんですけど、おそらくそこからヒントを得たと思うんです。3人の神様が、この世は生きるに値する場所かどうか見に来るという。『W3』も、3人の宇宙人が動物の姿になって調査をする。演劇好きの手塚さんが、しかもブレヒトという世界的な劇作家ですから、これを知らなかったはずはない。僕は逆に『セチュアンの善人』を初めて観たとき既視感があって、それが『W3』だったんですけど。手塚さんは宝塚が大好きだった人ですから、作品にも非常に演劇的なものを感じますし、そこがうれしいですね。
ポイント10倍(セットは20倍)にて販売中!!(9/26〜10/9)
半神
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(※1)『練馬のイタチ』 ちばてつや (講談社漫画文庫全1巻/講談社)
※『茂助じい』収録。現在、新刊では入手困難。)




野田秀樹(のだひでき)
1955年生まれ。劇作家・演出家・役者。韓国人キャストによって生まれ変わった舞台『半神』を上演中。ソウル公演は10月5日まで、東京公演は東京芸術劇場にて10月24日〜31日。NODA・MAP第19回公演『エッグ』が2015年2月〜4月公演決定。

■次回予告:第61回 宮沢章夫(劇作家)
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