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屋根の上のマンガ読み
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屋根の上のマンガ読み



『ママはテンパリスト』 © 東村アキコ / 集英社
 2013年に嫁が出産しまして。やっぱり大変で、イライラしてたんですよ。そんな時に、東村アキコさんの『ママはテンパリスト』(※1)がいいって聞いたなって思い出して、買ってきたんです。そしたら嫁が読んで「これは面白い」って、すごい上機嫌になって。以前も少し読んだことあったんですけど、子供産まれてから読んだら全然リアリティが違ったんですよ。何がいいって、赤ん坊を憎たらしく描いてるんですよね。お母さんのストレスってどこにあるのかなと思ったときに、「自分はものすごく大変なのに、まわりからは祝福しかされない」というギャップだろうなと思ったんですよ。「かわいいでしょ、うれしいでしょ、おめでとうね」って言われながら、いやいや寝られないし、疲れてるし、こんなに大変なのに愚痴れない。悔しい。でも赤ちゃんに対してイラっとしたらいけないんじゃないか、自分はひどい親なんじゃないか、って思うんですけど、やっぱり疲れてるときに泣かれたらイラっとするよね、というようなことがちゃんと描かれてて。イラっとしてもいいんだ、普通なんだって思えるし、でも作品は愛にあふれてるので、すごく笑えて。『ママはテンパリスト』は、育児するうえでセラピーになる本だなと思いましたね。
 それから僕は、女性作家が描く男の世界というのが、かなり好きなんだと思うんですよ。雲田はるこさんの『昭和元禄落語心中』は舞台に出てるときの緊張感にリアリティがあって、うまいんです。ネタってすごく人間性が出るんですよ。ボケをきっちり作りたい人とか、絶対にスベりたくない人とスベっても関係ないっていう人とか、いろんな人がいて。人柄がネタに出るということを、この作品はうまく描いてて、演芸やる側としても共感ができるんです。それに、落語家が艶っぽいんですよ。雲田さんが、ネタをやってるときの落語家ってセクシーだな、と思って描いてるんだろうなというのが伝わってきて、それがおしゃれに描かれていますね。
 羽海野チカさんが描いてる『3月のライオン』っていう将棋マンガもいいんです。バトルとしての将棋よりも、棋士が背景にこんなものを背負ってて、こんな憧れがあって、戦って敗れて、こんなふうに傷ついている、という表現のほうが分厚くて。それがすごく面白いなと思います。


 押切蓮介さんの『ハイスコアガール』は、うれしかったですね。押切さんは僕と同世代なんですよ、きっと。よく話題になるインベーダーゲームやファミコン初期の話じゃなくて、「スト2」とか「鉄拳」とか、セガサターンの悲劇とか、その時代のあるあるに共感できるんです。それにうまくギャグをまじえつつ、ボーイミーツガールのストーリーになってるんですね。ちゃんと2タイプの女子が出てきて、美少女ふたりがゲームを通じて僕を取り合う。こんなことないですから(笑)。でも、格ゲー(対戦格闘ゲーム)がめちゃめちゃ強い女子と、主人公のことが好きだから格ゲーをやり始めた女子に、板挟みになりながらゲームするって、ほんと鼻血出るぐらいの環境だと思うんですよ。僕ら世代の男子の、夢の塊みたいな本だなーって思います。
 僕のフェチ心をくすぐるのが、望月ミネタロウさんなんですよ。デザインがハンパなく良くて、絵やカット割がアートなんですけど、それだけじゃなくて。ただ女性がしゃべってるカットで、ポンって急にパーツに寄ってったりするんです、カメラが。関係ないのに。そこがなんか刺激されるんですよ。ついつい入りたくなっちゃう店みたいなんですよ、望月ミネタロウさんの作品。今回の『ちいさこべえ』(※2)はかなり期待してますね。


 『火の鳥』鳳凰編を読むと、創作や表現ってなんだろうって考えさせられますね。我王と茜丸というふたりの仏師を通して描かれる話なんですけど、最後に茜丸は綺麗で美しいものを作り、我王はまがまがしい迫力を放つものを作った。やっぱりテクニックに走っちゃうんですよ、ネタ作りでも。こうやったらお客さんはウケるよねーっていう考えで作ったネタは、やっぱりウケるんですよ。ウケるんですけど、どうも記憶に残らない。迫力がない。プロが見ると、技術が透けて見えちゃう。そうじゃなくて、「これを表現したいんだ!」という気持ちで作ったものだけがブレイクスルーできるってことを実感してます。茜丸になってはいけない。我王であるべし。

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(※1)『ママはテンパリスト』東村アキコ(愛蔵版コミックス全4巻/集英社)
(※2)『ちいさこべえ』望月ミネタロウ 原作・山本周五郎(ビッグコミックススペシャル1〜2集/小学館)




中田敦彦(なかたあつひこ)
1982年生まれ。お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」を藤森慎吾と結成。インテリ芸人としても知られている。妻はタレントの福田萌。初の著書である自伝的青春小説『芸人前夜』が発売中。

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取材・構成:根本和佳(DAN) 撮影:松原康之