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屋根の上のマンガ読み

屋根の上のマンガ読み


 僕は前歴が通信社の記者だったんですけど、あるとき経済マンガの監修をやらせてもらったんです。そこで「ストーリーを作る面白さ」を感じながら勉強させてもらったのが、作家として独立する転機でしたね。僕はみんなでストーリーを作るのが大好きなんです。昔ながらの編集者と作家の関係のように「では先生、半年後に原稿取りにうかがいます」って放任されるよりも、編集さんとがっぷり四つに組んで、意見をぶつけ合って作りたい。ビッグコミックオリジナルで連載していた『フラグマン』では原作を書いていましたが、作画の中山昌亮さんと担当編集さんと、ワーワーやりながら作りましたね。それが楽しくてしょうがないんです。


©相場英雄・中山昌亮/小学館
『フラグマン』は企業のPRのプロの話です。イメージ戦略のプロ。かつてアメリカ大統領のイメージづくりをしてた男が、イヤイヤながらも、自分が住んでる町の人たちを救うためだけにその力を使う。すごくマンガチックですよね。この作品は、僕の小説『震える牛』にも共通するテーマがあります。今、地方の都市って、どこも同じような風景なんですよ。たとえば新幹線が停まるような駅でも、駅前にあるのは全部シャッター街。駅から少し離れてバイパス道路まで行くと、大型ショッピングモールが建ってて、どこの町でもそう。ちょっとこれ、おかしくないですか?って。逆に言うと、特徴ある街並みが今いちばん残っているのって、実は東京の私鉄沿線なんです。昔ながらの食堂とか中華料理店がまだある。そういうお店が残ってる社会が大事ですし、それを絶やさないために、そこへ行く人がいないと……ということを応援するのが僕のテーマなんですね。
 東京だって、ひとつのローカルなんですよ。東京の商店街って特徴的で、売りになるんじゃないかなって思います。実際に、地方の商工会の人たちが観光バスで神楽坂を見学に行ったりしてるんですよ。だから地方を活性化するにも、ショッピングモールを建てるんじゃなくて、それぞれの街にある資源でやればいいんです。
 たぶん僕は今、日本でいちばん書店回りをしてる作家だと思うんですが(笑)、本の営業でも取材でも、いろんな土地に行くんです。そうすると、面白いことがいっぱいあるんですよ、独特の風習があったり。書店員さんとか、地元のテレビ局の人と飲みに行くと、すごくよくわかります。なかには、「別に俺ら、東京になりたいわけじゃないから」っていうプライドがある人もいるんですよ。そういう町を後押ししていきたいですね。


 子供のころ大好きだったのは、『ブラック・ジャック』ですね。間違いなく。ドクター・キリコがいいんですよ。彼は彼なりの正義感があるじゃないですか。キリコは悪者なんだけど、悪者なりのポリシーがあって、しかも全然ぶれない。で、ブラック・ジャックと対立しつつも、協力するときもある。キリコがいると、もっと立つんですよ、ブラック・ジャックが。これはすごいなって。
 大人になってからは『編集王』ですね。僕が今まで読んできたマンガとまったく一線を画してた。なかでも、少女マンガの編集部から異動してきた明治くんのエピソード。ほんとに嫌なやつで、最初は主人公のカンパチとやりあうんですよ。この対立の構図でいくのかなと思ったら、後半は明治くんの生い立ちを一気に描いた。すごくびっくりしたんですよ。今になって思えば、とんがった作者と、とんがった編集さんがギャーッとやりあった結果、あんなすごいものができたんだなっていうのがなんとなく見えますね(笑)。


 自分が小説を書くうえで参考になったのは、『ハロー張りネズミ』です。ミステリーとして謎解きの構造がしっかりしてて、旅の要素も入ってて。プロット作ってるときには、作家の自分と、編集者の自分がいるんです。「自分の都合のためにキャラとストーリー回してない?」「そのセリフ、無理に言わせてない?」って、葛藤があるんですよ。そういうときに『ハロー張りネズミ』を読み返すと、エピソードの処理の仕方なんかでヒントがあって、すごく助かりましたね。
 『震える牛』では、わざと地味な、冴えないおじさんを主人公にしたんですよ。普段は冴えないけど、いったんスイッチが入るとすごいぞっていう。そういうキャラクターづくりとかストーリーの回し方とかひねり方とかは、マンガで勉強させていただきましたね。これからもそれは続けていこうと思います。とくに、重いテーマの作品でページをめくってもらう技術は、完全にマンガから得たノウハウかなと思うし。他の作家さんにはない強みなんじゃないかなと自負してます。
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ブラック・ジャック
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相場英雄(あいばひでお)
●1967年新潟県生まれ、作家・経済ジャーナリスト。
タブーに斬り込んだ推理小説『震える牛』、最新刊『ナンバー』が大ヒット中。

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取材・構成:根本和佳・油井一道(DAN) 撮影:富田浩二