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私の少女漫画史 辻本吉昭
私の少女漫画史 辻本吉昭

辻本吉昭(つじもとよしあき)
●1950年1月31日生まれ。1972年、小学館入社。「少年サンデー」編集部を経て「少女コミック」編集部に異動。以後、少女漫画編集者として多くの漫画家のデビューに立ち会う。「少女コミック」編集長、「ちゃお」編集長、「別冊少女コミック」編集長の後、少女マンガ部門の統括、小学館のコミック部門全体の統括である執行役員などを歴任し、2011年1月に同社を定年退職。
 1983年「別冊少女コミック9月号増刊」掲載の『オレたちの絶対時間』で、デビューした田村由美だが、その後、半年間、エンターテインメントとして作品を作っていくために、苦労することとなった。小学館の近く(後楽園)に、和歌山県から出てきて、一人暮らしをして、デビューを目指し、ようやく念願がかなったわけだが、本当に大変だったのは、デビュー後だったかもしれない。

 私は、新人には、毎回3本のプロット(あらすじ)と、キャラクター表をつけて持ってくるように指導していた。プロットだけでは、OKが出せないと、ペンで絵を描く機会が失われてしまうので、キャラクターだけでも、ペンを入れさせようと思ったからだ。もちろんペン入れしたキャラクター表があったほうが、プロットを見る時にイメージが湧くこともあったが、お互いのために、役に立ったと思う。3本持ってこさせたのには、理由がある。3本のうち1本は、雑誌で受けると思うものを描いてくるように、1本は、雑誌の読者を意識して、描いてくるように、1本は、こんなものは無理だろうと思うものでも自由に描いてくるように指導した。そうすることによって、新人が、雑誌のイメージや、どんなことを考えているか、わかるからだ。同じようなものを3本描いてきても、本来の力は見えてこないことが多いのだ。

 田村由美がすごかったのは、このキャラクター表つきのプロットを、毎週3本持ってきたことだ。「別冊少女コミック」という雑誌でなければ、OKしたであろうプロットもいくつかあったが、まだ「別冊少女コミック」で、面白く見せられるだけの実力が伴っていなかったので、「このプロットは面白いので、取っておいて、時期がきたら、もう一度考えて使っていいよ。でも、今は、まだこのプロットを面白く見せられるとは思えないから、次のプロットを持ってきて」とダメだしをした。こうして、半年近くは、プロットをOKして、作品にすることができなかった。とりあえず、面白くなるかもしれないと、ネームにしてみてもらったこともあったが、やはり読者に受け入れられると思うものにならなかった。こうして、半年間、毎週3本のプロットを持って、田村由美は小学館に通い続ける。なかなか面白いものができないので、私自身、自分の教え方が悪いのではないか、編集に向いていないのではないかと、悩んでいたのも、この時期である。

 しかし、ある日、持ってきたプロットをOKする時がきた。「やったじゃん。これだよ。コツをつかんだね」と言った時、田村由美は「自分では、わかりません」と、頼りない返事をしたのだが、この時以後、プロットをボツにすることがなくなった。

 こうして、何作か読みきりを描いた後、1985年1月号より始まった「第一回愛読者杯争奪フレッシュ競作」にエントリーする。これは、新人5人で毎号一人が31ページ読みきりを描いて、読者投票トップの新人に本誌に40ページの読みきりを描かせる企画だった。田村由美は5回目に『西向きの部屋』で、結果を待つこととなった。作品的には、編集者としてトップの自信はあったのだが、絵柄が受けるかどうか心配だった。ふたを開けてみると、読者投票のナンバーワンは、田村由美だった。この時、受賞記念作として描いた41ページ読みきりが、『天使かもしれない』なのだが、この作品は、「のーこ」という少女が主人公の作品で、この後、シリーズ化していくこととなった。1986年に100ページ前後編という長い作品を描く機会がめぐってくるのだが、この時に描いた『神話になった午後』は、タイムスリップして、織田信長の時代へ飛ぶのだから、当時では、受けないとされているSF・時代物であったわけだ。しかし、読者の気持ちをつかめるようになった田村由美なら、面白く見せられると思ったので、OKした。この作品は、田村由美を、「別冊少女コミック」のメイン作家に押し上げる原動力になったと思う。『のーこのシリーズ』は、この後も、何作か描いて、人気のシリーズとなった。コミックス「タムのなんでもカプセル(1)」に、それらの作品が収録されているので、見て欲しい。

 田村由美の例で、いかに読者の気持ちをつかむことが大事か、わかったと思うが、自分がデビューして活躍していこうというわけだから、最初に、どの雑誌に投稿するか、見てもらうかは、今後の人生さえも決めてしまう重要な選択であると知って欲しい。ただ、そこが唯一の雑誌ではないので、遠回りになるかもしれないが、自分に合わないと思ったら、他の雑誌をあたってみればいいのだ。

→第13回『漫画家デビューへの道(3)』へつづく

関連書籍

タムのなんでもカプセル
(1)
神話になった午後

※『天使かもしれない』収録

タムのなんでもカプセル
(3)
17日めのショパン

※『西向きの部屋』収録
 


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