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『ツマヌダ格闘街』大特集 ≪上山道郎インタビュー≫

メイド×古武術  〜武術がつなげる人と人の物語〜
『ツマヌダ格闘街』上山道郎
美人メイドさんが、パッとしない自分を鍛えてくれる――。そんな夢(妄想)が描かれるのが『ツマヌダ格闘街』だ。でも、本作のメイド・ドラエさんは、強くなるという夢を簡単に叶えてくれるわけではない。ドラエさんはあくまで成長を促してくれるだけだ。ドラエさんという夢の指導者に導かれたミツルが見つけた道とはなにか? 『ツマヌダ格闘街』で描かれるのは武道を通じてつながる人と人の物語である。

メイドさんが普通の少年を徹底的に鍛えてくれる
『ツマヌダ格闘街』上山道郎インタビュー
メイドが手取り足取り教えてくれる武術教室
――10年に及んだ長い連載を終えられ、今はどのような感想をお持ちですか?
上山  すぐに『オニヒメ』の新連載がはじまっているので、終わったという実感はないですね。気づいたら10年経っていたというのが正直なところです。その回その回で、一番面白いと思うものを描いていたら、いつのまにか10年続けさせてもらったという、それだけなんですよ。
 当初の予定では10話単行本2巻ぐらいの分量で、知る人ぞ知るマンガになれば御の字かなと考えていたくらいです。
 じゃなきゃ、ドラえもんをメイドにした女の子をヒロインにしたりしないですよ(笑)。
――本作のヒロイン・ドラエさんはやはり、ドラえもんをモチーフにされたのでしょうか?
上山  ドラエさんは、もともと趣味のブログで描いていたドラえもんをメイド化したパロディ的なキャラクターで、そのキャラがすっごく気に入ってたから新連載『ツマヌダ格闘街』(以下、ツマヌダ)の主役にしようと思ったんです。
 青年誌での連載ははじめてだったから、とにかく自分が描ける一番可愛いキャラクターを出そうと探したら、それがドラエさんだったんです。
――『ツマヌダ格闘街』を企画された経緯を教えてください
上山  ツマヌダ以前は、SF的要素がある漫画ばかりを描いていたんですが、掲載される「ヤングキング」本誌は、不良漫画がメインの雑誌。ここは、現代の日本・現実をベースにしたマンガを描くべきだろうと思ったんですね。
 そのなかで、自分が描けそうなアイディアの中で一番面白くなりそうなのが、武道・格闘技だったんです。
コマ絵01
© 上山道郎/少年画報社
和やかな笑顔に完璧な気遣い、そして想いの強さ…。ドラエさんこそ理想(妄想)のメイドである
いじめられっ子が強くなる方法
――武道・格闘技に興味を持ったきっかけを教えてください
上山  やっぱり、『拳児』(作画:藤原芳秀 原作:松田隆智)(※1)なんですよ、きっかけは。それから、夢枕獏さんの『キマイラ吼』シリーズや『闇狩り師』(※2)シリーズも読んで影響されましたね。中学から高校生ぐらいのときです。
 これらの作品が発表されるまでは、中国拳法は忍者漫画の忍法ぐらいファンタジーな存在だったんですよ。それが、リアルに存在する技術であることを教えてもらった。そのなかに、体が小さい、力が弱い少年でも大男を倒せる技術が実在するらしいとわかって、それから興味を持ち始めた。
 僕自身、体も小さくて、どちらかと言えば、いじめられる側の人間。他人に気づかれない特訓で、いつの間にか強くなる展開に夢があったんですよ。
 だから、ツマヌダを描く時には「メイドさんが教えてくれる特訓で、読者も本当にできるもの」というのが自分の中に明確にあったんです。
――『ツマヌダ』でも読者が実際にできる技術が数多く紹介されていますね
上山  僕が小学生の頃(1979年)に「月刊少年マガジン」で連載された『真田一平命がけ!!』(ヒロナヤスシ/原作 高田まさお/画)というマンガがありました。主人公のいじめられっ子が、自分にそっくりな喧嘩番長と入れ替わって生活しなければならなくなるという話なんです。
 番長だから当然ケンカをしなければならなくなって、そこに喧嘩番長から、ケンカの訓練法が手紙で届くんですね。それを読んで実践すると自然に強くなっていく…というマンガなんですよ。つまりケンカの通信教育なんですが、これが滅法面白かった!
 ただ、あの頃の漫画なので内容は荒唐無稽な特訓が多くて、バッティングセンターで玉を避ける特訓なんて可愛いもんで、「眼力」をつけるためにいろんな動物にメンチ切るって特訓があったり(笑)。だけど今なら、もうちょっとリアルな特訓を描けるんじゃないかと。
 『ツマヌダ』はそこを目指してはじめた、というところがあります。
――格闘技経験者というよりは、強くない人たちに向けて描かれているのでしょうか
上山  僕の漫画の読者はやっぱりオタク的な子が中心層だと思うんです。いつも、イジメられる側の子がね、こっそりと読んでくれる。いじめっ子が読むマンガじゃないんですよ。
 僕と同じ、のび太ポジションの子がこっそり読んで、いじめっ子となんかのタイミングで勝負するってときに、マンガで学んだ技術で勝てたら面白いなあ、なんて考えていました。
 読者に対して、「自分だけにコツを教えてくれる」っていう、通信教育のようなイメージですよ。
――のび太を相手にするんなら、先生はやっぱりドラえもん…ということでしょうか
上山  まあ、今考えればそういうことになりますけど、そこまで関連させてはいなかったですね。結果的にその形になりましたけど。
 のび太というキャラクターは実はドラえもん以上にデフォルメされた、極端なダメ男。青年漫画の主人公にすえるのは難しいんですね(笑)。
 『真田一平』の先生はキビシイ喧嘩番長だったけど、それが可愛い女の子で、しかも手取り足取り教えてくれたら最高じゃないですか。真田一平にルナ先生(※3)までついてくる。ちょっとエッチなね!
コマ絵02
© 上山道郎/少年画報社
ドラエさんのカンタン武術コーナーでは、ちょっとしたコツで体の動かし方が変わる技術を紹介している
※1 正義感の強い少年・剛拳児が、祖父の手ほどきで八極拳を学びながら人間的にも成長していく物語。祖父の失踪後は中国大陸に渡り、太極拳、心意六合拳、はじめさまざまな中国拳法が登場する。

※2 『闇狩り師』『キマイラ・吼』両シリーズは、世界観・登場人物が共通していて、双方に中国拳法を使うキャラクターが登場する。

※3 『いけない!ルナ先生』(上村純子)に登場する葉月ルナのこと。エッチな個人授業で有名。「月刊少年マガジン」に連載されていた人気漫画。
『ツマヌダ格闘街』から生まれた明道流と衛府流
――『ツマヌダ格闘街』には明道流と衛府流という架空の武術が登場しますが、なぜ架空の流派にされたのでしょうか
上山  やっぱり実在の武術を持ち込んでしまうと、現実に修行されている方がたくさんいますから、いろいろな軋轢を生んでしまうかなと。主人公が学ぶのは、あくまで架空の武術にしようと思いました。
 それに、連載開始の時点で、自分の中の武術観が今よりも未完成だったわけですよ。一つの武術だけでも、完全に理解しようとすれば、それこそ何十年も修行して研究しなければいけない。そんな時間はないから、いま知っている部分を継ぎ接ぎしていくしかないと。そのためには架空の流派が都合がよかった。いろんな武術の資料から、いいとこどり、つまみぐいをした結果出来上がったのが明道流なんです。
 本当は明道流にものすごく大きな武術の本体があるらしいけども、それは作者も知らない(笑)。作者が知っているのはその一部だけという状況でしたね。
――明道流自体も連載中に出来あがっていったのでしょうか
上山  そうですね。研究が進むのにあわせて段々と成長していった感じですね。2000年代に入って、いろんな武術・武道の情報公開が進んだんですよ。特にDVDが安価で手に入るようになったことは大きくて、それまでは「あの武術が最強だ」っていう噂でしかなかったものが、動く映像という形で見られる。しかも、様々な武術を見比べることができるようになった。
 見比べるとそれぞれの武術は表現方法が違うだけで同じことを言っているのだと思えることがたくさん見つかってきました。それは武術の本職ではなくて、門外漢の立場でいろんな武術を見ている人間だから気づけた部分だと思いますが、それをマンガに描こうと思いました。
――ネットでは実際に作者は学んだ人ではないかと推測するファンもいますが、学ばれていたのでしょうか?
上山  有るか無いかと言えば「有る」ですけど、特定の流派に師事したことは無いです。本やビデオを見て、真似してやってみる程度のものです。
担当編集  でも、それが耳学問で終わらないのは、編集者の僕となじみのデザイナーさんを呼んで、実際に試してみるところなんですよ。「本にはこのように書いてあるけれど、本当にそうなるのか試させて欲しい」って研究会やるんです。
上山  もう10年位、月一でやってますよね。今でもやっています。公民館を借りたり少年画報社の会議室を使ったりして、本に書かれていることを実際に試してみます。3人共ほぼ格闘技経験のない素人です。たま同じ雑誌に描いている他の漫画家さんにゲスト参加してもらったりもしました。
――実際に体験されてどのようなことがわかるのでしょうか
上山  やはり体感できるのは大きい。こんな練習の後はここが筋肉痛になるとかは、本ではわからない。また、普通の人には極まる関節技が、極まらないような人がたまにいるんですよね。本の通りいく人もいるし、いかない人もいるし。ツボがきかない人もいる。人間の個体差はすごく大きいから、検証のためにいろんな人を呼んでやりましたね。
コマ絵03
© 上山道郎/少年画報社

コマ絵04
© 上山道郎/少年画報社
(上):沖縄古流空手から派生した衛府流
(下):明道流は古流の剣術から生まれている
古武術の情報解禁と『ツマヌダ格闘街』
――『ツマヌダ格闘街』には武道の中でも特に古流と呼ばれる格闘技が多く紹介されていますね
上山  2000年頃から甲野善紀(※4)さんが中心となって、古流武術で伝えられていた身体技法の公開が、進んでいったんですよ。桑田真澄選手がトレーニングに古武術を取れ入れたのも話題になったりして、古武術がじわじわと世間に浸透していったんです。
 自分でもその手の本を買っていろいろ試してみたら、書いてあるとおりにできることも多かった。その驚きをみんなにも味わって欲しいという気持ちがありました。
――古流である明道流とシステマとがつながっていくのはとても面白いですね
上山  連載が続くうちに、実在のシステマの情報公開が進んだので、漫画の中にも登場させられるようになったんですね。関連書籍を調べてみたら、日本の古流武術と共通する部分が多いことがわかった。
 ロシアの奥地で生まれた新しい武術と、日本の古流柔術とがつながったのがわかったときは、現実とマンガがごっちゃになるような不思議な感じでしたね。
――明道流の奥義が「脱力」にいたったのは現時点での結論でしょうか?
上山  そうですね。全20巻の研究の結果ですね。もし、連載が続いていたら、また違った明道流になっていくと思います。現時点では、いかに無駄な力を廃して本来の力を出せるか、ということが結論になっています。
 例えば、ボクシングでも、昔は強い握力で握り込んだ石のように固い拳が、強いボクサーの代表的なイメージでした。でもロンドン五輪で金メダルを獲得した、ミドル級の村田諒太選手は「相手にパンチが当たる最後に力を抜く・当たった結果、拳が握られるイメージ」と自著『101%のプライド』(幻冬舎)で語っています。それも同じことだと思います。
 現代の最先端最高峰のアスリートが、古い武術の術理と同じことを言っているのを知ると、「コレだーっ」とわくわくしますね。
――吉田沙保里選手のタックルについても早くから古武術との関連を指摘されていたとのことですが…
上山  『ツマヌダ』を書き始めた頃にはすでに、吉田選手は世界一のレスラーでした。吉田選手の高速タックルは、沈み込まずにストンと前に進むけれど(普通の選手のタックルは、いったん体が沈んでから前に出る)、どうしてそれができるのかには誰も言及していませんでした。
 ロンドンオリンピックの頃は、TVのスポーツ科学番組なども、吉田選手のタックルが速い理由について、単に足腰が強靭であるからだと曖昧な説明しかできていなかった。
 しかし、武術を知っている目から見れば、あれは落下のエネルギーを利用していることは当時からわかっていました。『ツマヌダ』では明道流の「歩法浮舟改・雪崩」として描いています(単行本6巻「尊敬する相手」)。
――さまざまな武術の情報解禁が『ツマヌダ』の連載と連動しているんですね
上山  いいタイミングで描き始められたということですね。『ツマヌダ』に関しては、早すぎても遅すぎても、また違ったものになったでしょう。
コマ絵05
© 上山道郎/少年画報社
明道流の歩法雪崩の詳しい解説。落下の速度を利用して間合いを詰める
※4 身体技法の研究家。日本の古流武術研究から再発見した身体技法を紹介し、それらはたくさんのスポーツ選手が注目している。著書は『古武術に学ぶ身体操法』、『分の頭と身体で考える』(養老孟司との共著)『武』(井上雄彦との共著)など多数。
ミツルと道郎
――キャラクターに寄り添う10年だと思いますが、ミツルの顔もだいぶかわりましたね
上山  やっぱり修行していくと変わる、ということですかね。
 はじめのうちはただの頼りない男の子だったんですけど、描いているうちに、意外とそうじゃないなと。芯がないとここまで強くならないよなって段々後からわかってくるような感じです。
 最初にミツルを描いたときの外見のモデルは、『ウォーターボーイズ』に出演してた頃の妻夫木聡のイメージなんですが、段々と、顔の骨格がしっかりしてきましたね。
――ミツルのモデルはのび太でないとすると、どのように設定されたのでしょうか
上山  実は、ミツルの名前も自分の道郎からとっているんですよ。だから連載初期の縛りとして、ミツルが出来ることは道郎も出来るようになってから描くってことにしていました。
 吊るした新聞紙をパンチで貫く「紗貫き」(単行本2巻「穴蔵」)も、さんざん練習した結果、なんとか出来るようになったんですよ。
 出来てからも、ひたすら観察して、どのような体の使い方が必要なのか確認して、はじめて描けるようになるんですよ。
――「紗貫き(うすぎぬぬき)」が実際にできる技術というのが驚きです
上山  そもそも、新聞紙をつらぬく技術は、それ自体が目的では無くて、修練の結果を確認するための方法としてあるみたいなんです。正当なものではないけど、そういう遊び稽古をする流派があることを知っていたので取り入れました。
担当編集  そのあと我々も延々やらされましたよ。出来るときと出来ないときがあるんですよ。
上山  そこが、面白い。昨日できたのに今日できないってことあるんですよ。出来始めは特にね。
――それ以降もミツルが出来る技術は上山先生も出来るようになったのでしょうか
上山  マンガのなかのミツルと一緒に歩めたのはそのくらいですかね。その後ミツルは相手の動きを見切る能力がめちゃくちゃ高くなってきますが、あれは無理ですね。実際にドラエさんがいて目の前で教えてくれないとね。
 悲しいけど、ドラエさんは実際にいないですから(笑)。
コマ絵06
© 上山道郎/少年画報社
吊るした新聞紙を拳で貫く「紗(うすぎぬ)貫き」。作中では、ミツルが三日三晩の試行錯誤でたどり着いた
ミツルとライバルたち
――ライバルであるジロー・王の格闘技を太極拳にされたのはなぜでしょうか
上山  2巻で登場するライバル・ジローの修得している拳法・太極拳は、もちろん実在するものなのですが、太極拳は流派がものすごくたくさんある。メインの流派だけで5つもある、ものすごく裾野が広い拳法。ジローの太極拳は陳氏をベースにして、いろんな流派が混じっている架空の流派にすることができると思ったんです。
 他に日本で最強イメージの強い拳法に八極拳がありますが、仮にそう設定してしまうと、やはり『拳児』をこえられないじゃんないかと思って……。それに八極拳は一撃必殺が基本ですから、マンガにしづらい。太極拳は相手の攻撃をそらすのが主眼なので、強さの表現にしても、対戦相手が死ななくてすむというのもあります。それに愛好者が多いということは、それをきっかけに読みはじめてくれる人も多いだろうという狙いもありました。
――もう一人のライバル、鷹羽和義について教えてください
上山  鷹羽和義というキャラクターは初登場から非常に強かったですからね。まだ初心者で三戦(サンチン)しかできないのにプロレスラーよりも強いという無茶な設定なんだけど…。
 それだけ強いライバルだから、王子杯でミツルが鷹羽と戦う(14巻)のが決まった時点では、ちょっとミツルに勝ち目は無さそうに見えた。だからミツルと鷹羽が試合するまでに、どちらが勝つかわからないところまで、ミツルを成長させる必要がありました。
 そのために、ミツルは鹿児島で示現流を学び、ドラエさんの育ての親・橘明道との関係性が明らかになり、明道流を学ぶ動機づけが強化される…。鹿児島のエピソード(12〜14巻)はそういう意図があったんですよ。
――鷹羽に勝てるまで成長させる必要があったということですね
上山  ただ、勝ち負けだけが大事なことではない、ということは一貫しているんですよ。物語を通して、ミツルは結果としてジローにしか負けていないんですが、描いているときは、負けは負けで得るものは多いし、それでよかろうという気持ちでいたんですけどね。あくまで勝ち負けは結果でしか無い。読者がそれを読んで納得してくれて、その上で面白いと思ってくれればいいので。
 その一方で、読者にとって勝利は絶対の快感ですから、それを無視することはしない。だから、ミツルが勝てるようになるまで、なにを頑張らせないといけないかってことを考えていましたね。
コマ絵07
© 上山道郎/少年画報社
薬丸自顕流の横木うち。トンボの構えから裂帛の気合とともに横木を滅多打ちにする
キャラクターと自分との距離感
――描かれていてご自身の予想以上の展開になった試合はありますか
上山  ターニングポイントとなったのはジローと孫安福(スン・アンフー)の太極拳対決(9巻)です。これを描けたのが自分にとって大きかった。
 孫安福がとにかくめちゃくちゃ強いんですよ。悪そうな顔をしていてね。モデルが『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造ですから、強いにきまっています(笑)。
 ジローがどうやったら勝てるのか。当初は全く見当もつかなかった。でもキャラクターの立場になって一生懸命考えていると、孫安福のスキが見えてきました。
 ジローは太極拳しか使えないのですが、孫安福は内家三拳をすべて使える達人。そこが逆に弱点になりうるんだということに僕の中のドラエさんが気づいてくれて、ようやく突破口が見えたんです。純粋な太極拳士である自分を信じることで勝てるという形に辿り着いたときはやった!と思いました。
 それ以降、自分のキャラクターたちは相当無茶ぶりしても、なんとか応えてくれるだろうという、キャラクターに対する確かな信頼感を得ることができました。
――ご自身が生み出したキャラクターに対する信頼感が生まれるというのは長期連載ならではな気がします
上山  キャラクターは自分自身ではない、別の人格として存在していますからね。僕自身から生まれたはずのミツルに、今ではまったくかなわない(笑)。劇中じゃ、一年しか経っていないのにね。僕の10年分の修行を吸い取ってるから、もう勝てない(笑)。
 彼は厳しい修行と、ドラエさんという存在によって、強くなってきました。ドラエさんは完全にファンタジーな存在で、そこにリアリティはないのですが、こんなメイドがいたなら、頼りなかった少年もそりゃ強くなるというものです。
――いつも完璧なドラエさんの、素の感情がほとばしる瞬間はとてもかわいかったですね
上山  16巻で、ドラエさんが初めて自分の気持ちに気がつくシーンですね。ドラエさんもああみえて視野が狭いというか思い込みが激しい人間ですから、ミツルに対しては恋愛対象と考えたこともなかった。
 外からの何気ない一言で、自分の気持ちに気づいた瞬間、ドラエさんが「はわわ」って驚く。あれを描けた瞬間、勝ったなって思いましたね(笑)。あれは読者の評判も非常によかった。
――主人公たち若者だけでなく、橘明道や衛府流の創始者・朝倉藤十朗といった“先達”たちも非常に魅力的ですね
上山  自分の中では武道・武術に関して、強い人は優しいという大原則があります。あくまで、『ツマヌダ』で描いたのは、強い人はどうして強いのか?どの部分が強いのか?ということ。
 強い人って必ず他人に対して優しいんですよ。悪いことをする人は自分の悪い心に負けているので、その時点でもう強くない。
 上山漫画には悪人が登場しないって言われるんですが、嫌な人間の嫌な部分を描くというのは嫌な気分になるんですよ。強いキャラほど描いていて楽しいです。
コマ絵08
© 上山道郎/少年画報社
熟達した孫安福に翻弄され続けるジロー・王。逆転のためには身を捨てる必要があった…
エスパー魔美は人生のバイブル
――上山先生は非常に藤子・F・不二雄作品をリスペクトしていると伺っています
上山  『ドラえもん』が自分の原点で、血肉になっていますからね。生まれて初めて自分の小遣いで買った漫画が『ドラえもん』の11巻。6歳のときかな。それからずっとですね。15巻くらいまではセリフを全部暗記するくらい読み込んでいました。
 自分の中の漫画の表現、文法というかセリフの呼吸は、完全に藤子作品をベースにして組み立てられています。たまに長台詞があっても基本的には「セリフは短めのものをテンポよく」を意識しています。
――『ドラえもん』以外にはどの作品を愛読されていましたか
上山  『エスパー魔美』が大好きで、マミの話なら一晩中でもできるぐらい。人生のバイブルですよ。特に『エスパー魔美』の高畑和夫くんは、僕に男の生きざまをいうのを教えてくれた。いや本当に冗談ぬきで、人生のロールモデルでもあるんです。ミツルの最大のライバルがO次郎以外にもう一人いるとしたら、やはり高畑くんしかいないと。
――高畑にものすごいリスペクトがありますね
上山  高畑君は自分自身は超能力者になりたいけどなれなくて、ドジで雑なマミのフォローをすることになります。自分自身に特別な能力は何も無い。頭は猛烈にいいんだけど、腕っ節はからっきし。でも大事なところでは、マミの危機には体をはる男気がある。そこがかっこいいんですね。
 風貌ではなく中身が本物の男。野犬の群れにかこまれたときに「生まれて初めて僕は死にものぐるいになるぞ」って立ち向かおうとする。
 本当の男とは、立ち上がるべき時がわかる男なんですよ。それを教えてくれたのが高畑くんです。
――鷹羽にも高畑と同じ魂が入っている?
上山  鷹羽と高畑くんは本質的に同じだと思っています。高畑くんの興味を持った対象が超能力ではなく空手だったらどうだろう、と考えて生まれたのが鷹羽です。
コマ絵09
© 上山道郎/少年画報社
朝倉阿弥の空手は、鷹羽和義にとって理解の及ばない技術だった
常に全力投球だった『ツマヌダ格闘街』
――ツマヌダ格闘街で心残りはありますか?
上山  描き残したエピソードは、本当に細かいのしかないですね。ドラエさんがはじめて日本に来た時に感じたであろうカルチャーショックとか、パーマンをモチーフにしたハリケーンマスクの3号、4号とか…。
 その時々で一番面白いものを順番に出していただけなので、想定していた“本筋”と呼べるものは無いんですよね。進み方が違ったら別のエピソードが生まれたかもしれないけど、今の20巻に出し惜しみはないですね。描き終わってみれば、これしかないなって感じますね。
――先のことは考えず、常に全力ということですか
上山  連載前に設定していたのは橘明道のシベリア抑留のエピソードくらいで、それも始めのうちは本編では描かずに裏設定で終わるだろうと思っていました。連載が長期化したおかげではじめてそこまで到達できたんですね。
 ただ、15、6巻からはじまる最終章はエピソードをかなり細かく事前に計画してつくりました。どこかで伸びたり縮んだりするだろうなと思っていたので、計画通りいって自分でもおどろいています。それも、キャラクターに無茶振りしてみたら、彼らがなんとかしてくれた、そんな感じです。
コマ絵10
© 上山道郎/少年画報社
当初は描く予定はなかったという朝倉阿弥のバトルシーン。その強さをみせつけた
新連載「オニヒメ」について
――現在連載中の「オニヒメ」の企画はどのようにはじまったのでしょうか
上山  二本同時連載という形に憧れていたんですよ。『ツマヌダ格闘街』が15巻くらいの時に別のマンガを考えはじめて、結局、妖怪退治モノに固まったのは2年くらい前ですね。
――同時連載という形に結局ならなかったのはなぜでしょうか
上山  これまでの人生で売れることを目標にマンガを描いたことはなかったんですけど、今回はそこを目標にしているんです。目標にしたからといって、売れる保証はもちろん何も無いんですけど。
 とにかくやれるだけ準備をしようと、ネームも相当な数ボツにしたんです。当初の予定では『ツマヌダ』の終盤と同時に開始して、二本同時連載にできればいいなと思っていたんですが結局、これでいけると思うネームが出来たころには『ツマヌダ』が完結のタイミングになっちゃってました。
――「オニヒメ」では剣術が重要なファクターになっていますね
上山  剣豪ディスクというアイテムで過去の剣豪の技を使えるようになるという設定なんです。このギミック自体は2年くらい前に考えていて、それを基にストーリーを練っていた。ところがそうこうしている間に『仮面ライダーゴースト』が始まってしまって……。
――『仮面ライダーゴースト』には宮本武蔵など過去の偉人の魂を蘇らせるアイテムが登場しますね
上山  「あーパクられたー」って(笑)。いや、マンガって何年もネタを温めていると他で似たようなことがはじまるというのは、よくあることなんです。でもそれって実は、逆にいいことで、自分と同じことを考えている人がいるということは、時代の要請に合ったネタだということですから。
 『仮面ライダーゴースト』が出たからには、逆に剣豪ディスクを押すしかないなと気持ちをあらたにしましたね。
 でも、僕が『仮面ライダー』が大好きだってことを読者は皆知ってるから、『ゴースト』のことパクったって思われちゃうなあって危惧も無くは無い(笑)。『仮面ライダー』が好きだから、逆にまんまパクったりはできないんですけどね。
――剣豪ディスクでどんな剣豪が登場するか楽しみですね
上山  例えば『fate』シリーズは、サーヴァントとして過去の英霊を召喚するというフォーマットが秀逸で、みんなが自分だったらどんな英霊を召喚するか…と想像できるじゃないですか。
 同じように剣豪ディスクも、自分だったら誰の剣豪ディスクが欲しいか、誰と誰を戦わせるか等、自由に想像して楽しんで欲しいですね。
――今後、登場する剣豪を教えてください
上山  おおまかに考えてはいますが、今の段階ではまだなんともいえません。話の進み方によっては、剣豪だけではなく、槍や手裏剣や弓の名人、西部劇の早打ちの名人なんかも剣豪ディスクにあるかもしれない。何が登場するか、楽しみにしてほしいですね。
コマ絵11
© 上山道郎/少年画報社
新作『オニヒメ』では、女子高生が剣豪たちの技を宿して、妖怪変化をぶった斬る!


上山道郎さん
■上山道郎(うえやま・みちろう)
1970年生まれ。『怪奇警察サイポリス』で第27回小学館新人コミック大賞児童部門佳作を受賞。同作品を「月刊コロコロコミック」で連載する。2006年から10年にわたって連載していた『ツマヌダ格闘街』は、はじめての青年誌連載。現在は『オニヒメ』を「月刊ヤングキングアワーズGH」で連載中。
ツマヌダ格闘街 (全20巻)
ツマヌダ格闘街
八重樫ミツル、18歳。イラストレーターを目指して上京したが、住もうと思った妻沼田市は町おこしの為、ストリートファイトを制度化した変わった所だった。謎のメイド・ドラエと出会い、その導きのもと、格闘技の世界に足を踏み入れたミツルの運命は……!?上山道郎が満を持して放つ実践格闘アクション!!
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