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  2. 自著を語る【3】 長岡弘樹『教場』『教場2』
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【PROFILE】
1969年山形県生まれ。筑波大学卒。2003年『真夏の車輪』で第25回小説推理新人賞を受賞。08年『傍聞き』で第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞、同作を収録した文庫『傍聞き』は40万部を超えるベストセラーとなる。13年に刊行した警察小説『教場』は、週刊文春「2013年ミステリーベスト10国内部門」第1位に輝き、14年本屋大賞にもノミネートされた。他の著書に『線の波紋』『波形の声』『群青のタンデム』などがある。
教場
長岡弘樹
教場
630円(税別)
7pt
君には、警察学校をやめてもらう。この教官に睨まれたら、終わりだ。全部見抜かれる。誰も逃げられない。 警察学校初任科第九十八期短期過程の生徒たちは、「落ち度があれば退校」という極限状態の中、異色の教官・風間公親に導かれ、覚醒してゆく。 必要な人材を育てる前に、不要な人材をはじきだすための篩、それが警察学校だ。週刊文春「2013年ミステリーベスト10」国内部門第1位、宝島社「このミステリーがすごい! 2014年版」国内編第2位、2014年本屋大賞にノミネートされ、90以上のメディアに取り上げられた既視感ゼロの警察小説!
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教場2
長岡弘樹
教場
0pt
週刊文春「2013年ミステリー部門」第一位に輝き、2014年本屋大賞にもノミネートされ、警察小説に新機軸を打ち出したベストセラー、いよいよ続編登場!●第一話 創傷(そうしょう) 初任科第百期短期課程の桐沢篤は、風間教場に編入された不運を呪っていた。医師から警察官に転職した桐沢は、ゴールデンウイーク明けに最初の洗礼を受ける。●第二話 心眼 風間教場では、備品の盗難が相次いでいた。盗まれたのは、PCのマウス、ファーストミット、マレット(木琴を叩く枹)。単独では使い道のないものばかりだ。●第三話 罰則 津木田卓は、プールでの救助訓練が嫌でたまらなかった。教官の貞方は屈強な体格のスパルタ教師で、特に潜水の練習はきつい。本気で殺されると思ってしまうほどだ。●第四話 敬慕 菱沼羽津希は、自分のことを初任科第百期短期課程のなかでも特別な存在だと思っている。広告塔として毎回白羽の矢が立つのは、容姿に秀でている自分なのだ。●第五話 机上 仁志川鴻は、将来の配属先として刑事課強行犯係を強く希望している。元刑事だという教官の風間には、殺人捜査の模擬実習を提案しているところだ。●第六話 奉職 警察学校時代の成績は、昇進や昇級、人事異動等ことあるごとに参照される。美浦亮真は、同期で親友の桐沢篤が総代候補と目されるなか、大きな試練に直面していた。
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横山秀夫『陰の季節』に衝撃を受けた日
長岡弘樹は横山秀夫のエピゴーネンです
◆終わりの1行は早い段階で決めていた
四六版・ハードカバーのミステリー『教場2』が初版第一刷5万部。出版不況が言われる中で異例の部数だ。
『教場2』第六話「奉職」より ラストの一文
「一つ言い忘れていたな。わたしが奉職している理由だ」
「……教えていただけますか」
「会えるからだよ。きみのような学生に」
 そんな短い言葉と微かな笑みだけを残し、担任教官は背を向け、人ごみの中に消えていった。
――文庫が20万部、累計38万部に達した前作の『教場』は書き上げるまでに4年かかったそうですが、続編の『教場2』はそれから2年半ほどで上梓されました。
長岡 前作の経験があったので、「2」はそれほど迷うことなく、第五話までは自分でも意外なほどスラッと書けました。ところが最後の第六話「奉職」は、エピソードが難航して何度も何度もプロットの段階からやり直し、この一話だけで半年ぐらいかかってしまいました。
――その甲斐あって、と言うべきでしょうか。終わりの一文は非常に余韻が残ります。
長岡 そう言っていただけると成功ですが、あれはそれほど苦労して出てきたわけではなく、割と早い段階から決めていて、プロットを変えても残りました。実は前作も、書き進めている時は個々のエピソードを成立させることに精一杯で、短編の連作として1冊にまとめるという頭が全くなかったから、最後にめちゃくちゃ苦労しました。
『教場2』第六話「奉職」より
美浦亮真の机の上には、こんな落書きがある。
1、桐沢篤……医者
2、内倉俊司……忍者(テーマパーク職員)
3、保崎あすか……米のソムリエ
4、福井洋太郎……花火師
5、薬師寺研……エレクトーン奏者
「きみの机に落書きがしてあるな。『前職が意外な学生ベスト5』というやつだ」
「……はい」
「わたしは常々、あれには異論を持っている。なぜだと思う」
「分かりません」
「ランクインしていないからだよ、きみがな」
「するはずがありません。わたしの前職は警備員です」
 しかも正規のではなくアルバイトの、だ。
「警察官の前職として、これほどありふれている仕事もないと思いますが」
「とぼけなくてもいい。大学を出て警備員の職を得る前の話だ。高校を卒業したあと、きみは一度就職している。まさか忘れたわけでもあるまい」
 美浦は、知らず拳を握り締めていた。
――警察学校の学生は、さまざまな経歴の人物が登場します。実在のモデルがいたのでしょうか。
長岡 ほとんどすべて創作ですが、武道の授業で同僚と本気で殴り合うよう命じられても、どうしても手が出なくて立ち往生してしまった学生・美浦というキャラクターには、モデルがいます。警察学校の教官だった方に取材した時、実際にそういう学生がいたという話を聞きました。
『教場2』第六話「奉職」より
「遠慮はいらん。どこを狙ってもいい。顔でもな」風間はグローブの親指を立て、それを自分の右目に向けてみせた。「ここでも構わんぞ」
 生身の人間に向かって拳を突き出すことには、相変わらず抵抗があった。それでも右のグローブを風間の胸元に向かって、恐る恐るとはいえ伸ばすことができたのは先ほどまでやっていた巻藁トレーニングの余韻が体に残っていたからだろう。
 こちらの緩いパンチを、風間は赤いグローブで受け止めた。ポスンと間の抜けた音が広い道場の空間に束の間こだまし、すぐに消えていった。
「わたしをあまり退屈させんでくれ。きみが遠慮するなら、こっちからいくぞ」
素早く腰を屈めた風間の動作を受け、美浦はほぼ反射的に一歩後退し、息を呑んだ。すっと細められた風間の両目は、これから始まることが単なる遊びではないと告げている。
◆卒業アルバムの写真からイメージを膨らませていった「風間公親」という教官
――白髪で隻眼(せきがん)の主人公・風間公親という人物像は、どのようにして組み立てたのでしょうか。
長岡 『教場』をスタートするにあたって主人公のキャラクターをどうしようかと迷っていた時、取材した警察学校を卒業したばかりの警察官の方から卒業アルバムを見せていただいたんです。そのアルバムに載っていた教官の方々の写真を見て、この教官の目がいいなとか、この教官の髪の毛が白髪で格好いいなとか、実際の教官の方々の写真からイメージを膨らませて出来上がったのが風間というキャラクターです。ただし、元刑事という前歴と隻眼の部分は卒業アルバムの写真とは関係なく、後から自分で作ったフィクションです。心の底まで見抜く観察眼――警察官としての資質に欠ける学生を、早い段階ではじき出すための篩(ふるい)≠ナある警察学校の教場で、学生を不安にさせるようなキャラクターにしたいと考えました。
――警察学校で学生をあれほど厳しく篩にかけるというのは、警察官の不祥事を防ぐという意味合いもあるのでしょうか。
長岡 それが教官の使命の一つなんだろうな、と思います。警察官が不祥事を起こすと、「あいつはどこの教場出身だ?」と言われるそうです。○○教場出身というのは退職まで付きまとうらしい。だから、将来問題を起こしそうな人間をはじき出すのは、教官自身の自衛策でもあるのかもしれません。
『教場』第一話「職質」より
職務質問の実習の成績が最低で、次の退校候補者と目されている宮坂定と風間教官が初めて言葉をかわす。
 まだ俯いたままの風間が、持っていた手帳を渡してきた。
 手帳と風間を同時に視界に入れながら、宮坂は続けた。
「お手数ですが、私が調べるところをずっと見ていてもらえますか。顔をそらさないでください。そのあいだは両手をポケットへ入れないように願います」
「よし、そこまででいい」風間が顔を上げた。「荷物をまとめる必要はないようだな」
「恐れ入ります」
「なぜだ」
「はい?」
「なぜ、わざと下手なふりをした」
 この前の授業について言っている。やはり見抜かれていたようだ。教場のドア越しに風間の目を見たときから、そんな予感はあった。
 今度は宮坂が下を向いた。正直に答えなければという気持ちもどこかで働いているが、それでも目を伏せ続けた。
「言いたくないか」
「はい。申し訳ありません」
「分かった。黙っていろ。その代わり、きみに一つ課題を与えよう。それはきっちりこなしてもらう」
「何でしょうか」
「放課後になったら教官室へ来い。そこで教える。心配は無用だ。別に難しいことではない」
――前作の『教場』は、元小学校教師の宮坂が登場する第一話「職質」と元インテリアデザイナーの楠本しのぶが登場する第二話「牢問」で、警察学校とは思えないショッキングな事件が相次ぎます。
長岡 あの2作は、いま考えると、最初だからと気負って肩に力が入りすぎていたかな、という感じはします。でも、結果的にはそれで読者の皆さんに強く印象づけることができたと思います。
『教場』第二話「牢問」より
楠本しのぶが岸川沙織を相手に取り調べの実習をしていた時、突然、沙織が倒れた。
「そう。でも、おかしいな。実は昨晩、青い車が人をはねちゃってね。その現場に落ちていた塗膜片が、あなたの車のものと一致したのよ」
「それは思い込みでしょう。同じ色の車は世の中にたくさんあります」
「ないよ」
「……え?」
「だって日焼けするから、車もね。外を走っていれば、どうしたって少しは褪色する。だから、おなじように量産された車でも、一台一台、微妙に色が違ってるんだよ。ところで、あなたが県庁前の交差点を車で通ったのは、何時ごろなの?」
「そうですっ」
 服部の声が割り込んできた。
「いまのも上手いですよ。ここで『県庁前の交差点を通ったかね』などと訊いてはいけません。被疑者が車を運転していたことを既成事実にして、ズバッと切り込む。それが効くんです。こういう意表をついた質問が……だから……心理的に……」
 服部の言葉がまた途切れて聞こえるようになった。もう限界だった。クビを覚悟で、しのぶは目蓋を閉じようとした。
沙織の姿が目の前からふっと掻き消えたのは、そのときだった。同時に自分の耳は、教壇の床に何かが転がるごろんという鈍い音を捉えていた。
 沙織はこちらの耳元に口を寄せてきた。
「最近、嫌な手紙が届くの。匿名で、脅迫状みたいな内容で、もう五通ぐらい受け取ったかな。だから、怖くてさ、よく眠れない晩もあったりして……」
 ここ数日は特に体調が悪かったのだという。
「脅迫状って、もしかして不幸の手紙みたいなやつ?」
「それとは少し違うかも」
「じゃあ、どんな文面?」
「何て言ったらいいかな……。『昔おまえがやった悪事を知ってるぞ』みたいな」
「こわ……。差出人の目星はついてるの?」
 沙織は首を横に振った。
「でも、ここの学生だと思う。なんとなくだけど」
――全体を通じて感じたのは、それぞれの物語が思わせぶりというか、寸止め%Iな終わり方が多くなっていることです。次、あるいはその次の話で「ああ、そうだったのか」とわかる仕掛けになっていますが、人物描写もあまり詳しくは書き込まれていないので、読者の中には最初は何となく物足りないと感じる人もいるのではないかと思います。そういうふうに意図して書かれているのでしょうか。
長岡 ええ、あまり本筋に関係ない部分は筆を割かないというスタンスで書いています。できるだけ読者に想像してもらうというのが、自分の創作のスタイルです。
――「バンかけ(職質)」や「マルB(暴力団)」といった警察の業界用語≠焉Aほとんど説明なしに物語は進みます。他の作家の警察小説とは一味違うように感じますが、それも意図的ですか?
長岡 その場で流しても後でわかるという書き方が必要なところはそうしているつもりです。そこは個々の作家のやり方だと思います。僕は物語が停滞してしまうのが嫌なので、後でわかりますよという匂いだけは残して進めるようにしています。それがうまくいっているかどうかはわかりませんが。
――文章のスピード感を大事にされているということでしょうか。
長岡 物語の流れを重視して、説明不足なところはできるだけ後に出てくるシーンでわかるように、さりげなくフォローするというやり方が僕は非常に好きです。
――それは作家になった時から強く意識されていたやり方ですか?
長岡 物書きを始めた頃は、そんなテクニックを使う余裕もなく、ただ頭に浮かんだことをがむしゃらに書き連ねていました。ある時から、そうしたほうが読者が余計なものを読まずに済むなと考えるようになり、それ以来、なるべく無駄なことは書かないように気をつけています。
◆長岡弘樹は横山秀夫のエピゴーネンである
――『教場2』は前作の『教場』に比べるとバイオレンス描写のインパクトが薄まり、その分、人間ドラマとしての面白さが増したように感じます。
長岡 『教場』の頃はバイオレンス描写に重きを置いて、それで読者を惹きつけてやろうという気持ちがありました。最初は『教場2』でも前作のテイストを維持しようかなと思っていたんですが、その後の取材で実際の警察学校では、昔はともかく、今は学生を殴ったりすることはない、それはご法度だと現場の警察官から聞きました。その話を聞いた後は暴力的な描写が嘘っぽく感じられて書けなかった。だから『教場2』は、前作に比べると、読後の印象としてはソフトな作品になっていると思います。
――『教場』も『教場2』も、連作短編集という構造です。
長岡 前のエピソードで説明不足だったことを後ろのエピソードでフォローできるのが、短編の書き手としては連作のありがたいところではありますね。
――人物像を掘り下げたりすれば長編にできる作品もあるように思いますが、それをあえて短編の連作にしているのは、ある種の計算があっての話でしょうか。
長岡 いえ、自分が短編を好きだからというのが一番です。物語よりアイデアが好きなんですよ。できるだけいろいろなアイデアを盛り込みたいので、そのためには長編よりも短編という形式のほうがいいだろうと考えています。
――短編の警察小説といえば、管理部門の警察官を主人公にして新境地を開いた横山秀夫さんという名手がいます。長岡さんにとって横山さんは、どんな存在ですか?
長岡 遥かなる目標、という感じですね。根本的なアイデアの作り方、プロットの立て方……ありとあらゆる面でものすごく影響を受けています。横山さんが1998年に発表した『陰の季節』という短編を読んだ時、強烈な衝撃を受けました。「短編はこう書けば成り立つのか」ということが、あの作品を読んで初めてはっきりわかったんです。それ以来、横山さんの短編は『動機』『第三の時効』『半落ち』『臨場』『真相』など、すべて読みました。こんな言い方は適切ではないかもしれませんが、ある意味、僕は横山さんのエピゴーネンです。
――横山さん以外では、これまでどのような小説を読んでこられたのでしょうか。
長岡 僕は読書少年でも文学少年でもありませんでした。高校時代までは本を読んだことなく、大学に入ってから初めて小説の面白さに触れました。最初の頃に好きだったのは長めの冒険小説です。今の僕の作風とは全く違いますが、逢坂剛さんや船戸与一さんの小説を読み漁っていました。読書遍歴を重ねているうちに、いつの間にか短編のミステリーが好きになっていました。
――大学の専攻は?
長岡 社会学類です。普通の大学でいえば法学部や政治学部みたいなところで、文学とは全く関係ありませんが、いつか作家になりたいと思っていました。卒業後は作家になるまでの腰掛けのつもりで、公共用地を買収する団体に就職しました。ところが、職場の居心地がよかったので、9年間ぐらい長居してしまった。いま考えれば、もっと早く辞めるべきでしたね。
――その間に小説を書いていたわけですね。
長岡 習作というか、どこかに発表するというあてもなく、ちょこちょこと書いてはいました。でも、最後まで完結せず、途中でポシャッた作品ばかりです。残骸が山ほど残っていますが、文章も下手すぎて使い物にはなりません。
――ずっと郷里の山形にお住まいですが、1日の仕事のサイクルを教えてください。
長岡 実家で両親と妻と猫2匹と暮らしています。普通に生活しないと妻に叱られるので、できるだけ昼間に仕事をするようにしているんですが、締め切りが近くなると昼夜逆転します。僕の場合、たとえば時間が10日あったら、そのうち9日はネタを考えてメモを取り、最後の1日で一気に書くという感じです。1日何枚という平均ペースでは絶対に書けません。だから、新聞や週刊誌の連載小説は、もし依頼があったとしても無理ですね。全部書き終えてから分載してもらうしかありません。
――次はどういう作品を?
長岡 もう警察小説はうんざりです(笑)。警察以外だったら何でもいいです。ただ、今は月刊小説誌『STORY BOX』(小学館)で『教場』のスピンオフ作品『刑事指導官・風間公親』に取り組んでいます。
――あくまでも短編にこだわる?
長岡 長編は下手なので、下手な分野で努力するよりは得意な分野を伸ばしていったほうがいいかなと思っています。今後も連作短編を中心に書いていくつもりですが、もっと書き慣れてくれば、中編というか、長めの短編のような方向に変化していくかもしれません。
(インタビュー・構成 中村嘉孝)

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