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その2 恐怖漫画の誕生の巻 (1)
顧みれば、アラマタは小学生で楳図漫画に遭遇して以来、半世紀を超えて読み続けてきた読者なのだが、なぜそんなに長く楳図作品を読んでこられたのだろうか、と自分ながら考え込んでしまう。 大人の頭で理屈をコネくることはできるだろうが、小学校の低学年であった自分が楳図かずおに魅せられた理由は、たぶん理屈ではない。いま思い出せるのは、楳図漫画に登場する人物がすべて異常に抑圧された状況下にいることと、その異常さが人物の「絵」に表れているということだった。 まず、人物の絵柄から書こう。漫画ではふつう、人物はたいてい善人か悪人かに描き分けられる。人相だとか喜怒哀楽の表情だとかは、漫画家の個性やセンスによってさまざまに描かれるが、性格付けとなると「善・悪」のふたつしかない。ところが、昭和30年代の貸本漫画を読んでいた私は、善・悪とは別の「第三の性格」を漫画の中で発見するようになる。それが「異常性」だった。つまり、善・悪の道徳倫理では評価できない異質な性格、よく言われる「何を考えているのかわからない」というフレーズに通じる理解不能な人格だった。 そういう非常に奇怪な性格付けが、なぜ漫画に必要になってくるかは、おいおい論じることにするが、このような不可解な人格を、小学生さえ本能的に怯(おび)えるような分かりやすい絵で表すには、どうすればいいのか。アラマタが知っている限りでは、これに成功した漫画家は二人しかいない。一人は、つげ義春(つげ・よしはる 1937〜 ※1)。それも貸本時代のつげは、『四つの犯罪』など犯罪物を描いた点でもユニークだが、それらの作品のなかに、手塚治虫における「オムカエデゴンス(スパイダーというキャラクター名)」や赤塚不二夫の「レレレのおじさん」によく似た一種の「意味なしキャラクター」を好んで描き入れていた。それは、いつも歯をむき出しにしてニヤニヤ笑っている男の姿だった。別に大切な役柄を背負うわけでもなく、気がつくとコマのどこかでニヤニヤしているだけなのだ。私はこの意味不明の人物に気づいて、つげ義春の漫画を穴の開くほど眺めた。なんだか、いちばん忘れられない不気味なキャラクターとなった。 そして二人目が楳図かずお、なのである。つげのキャラクターが「意味不明」ならば、楳図キャラクターは「正体不明」と言える。正体不明の「異人」は、いつも異質な身体的特徴を具えていた。『別世界』では「有尾人」に「退化した火星人」、『底のない町』では髪の毛に意志があって勝手に地面に張り付いてしまう怪老人など、デビュー時から異人を登場させていた。とくに「退化」という設定が恐ろしい。手塚治虫も宇宙人はいろいろと登場させているが、背景に文明を背負っている(正体が分かっている)ので、「別世界」というよりも「別文明」を表す絵柄になっていた。ワンダー(驚異)でありストレンジ(異質)はあるが、意味不明や正体不明ではない。つながらない者同士がつながる物語になる建設性もある。
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