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2017/01/31更新
これはゲームであってゲームでないが、それでも彼らは遊ぶのである。
遊者戦記
著者:紙城境介 イラスト:40原
 2017年、あけましておめでとうございます、前島賢です。
 本年も全力で最新の注目作を紹介したり、往年の名作を取り上げたり、あと、どう見てもラノベじゃない作品を強引にラノベと言い張ったりして行きたいと思っています……が、新年初更新が1月も最終日というこのテイタラク、誠に申し訳ありません。
 このままでは、皆様に存在を忘れられてしまいかねないわけですが、公私ともにいろいろありまして書評どころかラノベを読む時間さえもろくにとれない。こういう時に読むのは、なるだけ脳が疲れないヤツがいい。なんかこう適度にテンプレなやつならあらすじ紹介するも楽だし……なーんてよこしまな思い(スイマセン)で手に取った一冊が、意外や意外、逆に思わぬ異色作。こりゃあ、本腰入れて読まねば/書かねば、と襟を正して正座するハメに。というわけで、本日取り上げるのはこれ。

紙城境介『遊者戦記 #君とリアルを取り戻すRPG』(ダッシュエックス文庫)

 電源ゲームと非電源ゲームという得意分野の差異はあれ、大のゲーマーであるリオとサクラのふたりが、とあるVR−MMO RPGをプレイすることになる、というのがあらすじ。
 はじまりを「始めに言おう。これはゲームであって遊びである。」なんて巻頭言が彩っていたり、あるいは作品世界に『SAO』ならぬ『MAO』なんて小説がベストセラーになっていたりすることからもわかるように、明らかに川原礫の『ソードアート・オンライン』を下敷きにした作品である。
 が。巻頭言が「これはゲームであって遊びである」なんて述べるとおり、描かれるのは、ただの楽しいVR−MMOのプレイ風景である。
 別にゲーム中で死んでも現実世界で死ぬわけではなく、10分経てば復活できる。
 ゲーム世界に閉じ込められるわけでもなく、任意のタイミングでいつだって現実に戻れる。
 別に主人公たちがチーターだのビーターだの言われて他のプレイヤーから敵視されることもない。
(むしろ年下ヒロインのサクラは、依頼のオタサーの姫属性を最大限に発揮してプレイヤーたちの中心&アイドル的存在になる。このサクラ、完全に自分の可愛さを自覚した上で振る舞う小悪魔系といった感じで、普段は完全に主人公を尻にしいているわけだが、意外と純情で口先だけのところもあり、その様が非常にカワイイ)

 そんなわけで、全部で百人ほどが選ばれたプレイヤーたちはゲーム内チャットやゲーム外のSNSなどを駆使して、作戦を立て、仕様を解析し、時にゲーム世界とリアル世界の双方で支えあいながら、ゲームを攻略していく。
 言ってみれば「ただゲームをしているだけ」だけなのだけど、参加者の中に超有名実況プレイヤー(過去に炎上経験あり)なんて存在もいるせいで、シリーズ開始直後の大作オンラインゲームに挑むトッププレイヤーたちのゲーム風景の実況を聞いているようで実に心地よい。
 「なんか脳が疲れない緩いラノベが読みたい」という評者の気分は完全に満たされ、「こういうのでいいんだよ、こういうので」と思っていた。

 ところが……いや、もちろん、というべきか。
 中盤を過ぎて、そこかしこにばらまかれていた不安な伏線が表面化し、やっぱりこれはゲームであってゲームではないことが明らかになるのである。プレイヤーたちのゲームには、彼らの生死……どころか人類の未来まで……がかかっていたのである。
 正直、前半の「ただゲームをしているため」感が好きだっただけに、ちょっと残念だったのも事実。けれどもここからが本書の真骨頂であって、登場人物たちはこのゲームがゲームでないと気づいた後も、なおのこと、ゲーマーたることをやめないのである。


 世界なんてものは遊ぶついでに救うくらいでちょうどいい――


 なんて一文が本書のテーマを端的に代弁しているが、彼らはゲームでないゲームをそれでもゲームとして遊ぼうとする。もちろん世界を救おうともするのだが、それは前述の通り「ついで」というか、世界の存亡とかのせいで、このゲームをゲームとして遊べなくなっているのは間違っているから、ゲームで遊ぶために世界を救ってやる、みたいな感じで、とにかく「遊ぼう」という態度を最後まで貫こうとするのだ。
 以前、「エンジョイ勢」の主人公が、ゲームを楽しむために「ガチ勢」のヒロインの誘いを断る小説として葵せきな『ゲーマーズ!』を紹介したが、本作の登場人物には、それと同様のゲーマー魂を感じたのだ。

 しかも……これはちょっとネタバレになってしまうのだけど……この小説、ちゃんと一冊で完結する。『SAO』の一巻目のように、きっちり最終目標のクリアまで描ききってしまうのだ。いやはや、これはさすがに驚いた。何せ、「モンスターを倒せ」なんてまんまチュートリアルそのものなクエストや、「●●をつくるための××をもってこい」なんてお使いクエストみたいなのにかなりの紙幅を使っているのである。
 ところが本書の場合、終盤にかけてにわかに畳みかけていく。そして実は、何の意味もないように見えたチュートリアルクエスト、お使いクエストがちゃんと伏線だったことが明らかになる。その畳かけがなんとも小気味よいのである。冒険の序盤をヘタをすると複数冊かけて書くような作品が多く、本書もてっきりそのたぐいだろうと思っていただけに、なんだか完全に騙された感がある。テンプレどおりのVR−MMO小説と見せかけて、きっちり独自のテーマを展開し、テンポよく1冊でたたむ。いやはやお見事である。

 ……ただこれ、ちゃんと届くべきところに届いているのだろうか、と少し不安だ。VR−MMOとか異世界転生とか、もういいよ、とか思っている方。そういうあなたにこそ、読んでほしい本だ。くれぐれも読み逃しなきよう。
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