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2016/09/09更新
『君の名は。』を補完する外伝小説集
君の名は。 Another Side:Earthbound
著者:加納新太 カバーイラスト:田中将賀 イラスト:朝日川日和 原作:新海誠
 さて親愛なる読者諸兄におかれましては、ちゃんと評者がおすすめしたとおり、『秒速5センチメートル』を読まずに『君の名は。』を見に行ってくれたものと思う。
 中には、よせばいいのに『秒速』を読んだり観ちゃったりして山崎まさよしの歌がエンドレスで流れまくっている人もいるかもしれないが、評者としては「だから止めたのに」というほかないので、しったことではない。自己責任でなんとかして頂きたい。
 そんなわけで(どんなわけだ?)、今週も先週に引き続き、新海作品……というか『君の名は。』の話をするぞ。取り上げるのはコレだ。

加納新太・著、新海誠・原作『君の名は。Another Side:Earthbound』(角川スニーカー文庫)

 新海誠監督の新作映画『君の名は。』については、先週取り上げた『秒速5センチメートル』同様、新海監督自身によるノベライズ『小説 君の名は。』が存在するが、今回取り上げるこれは、もうひとつの小説版『君の名は。』。
『ほしのこえ』『秒速5センチメートル one more side』や『ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる』などで、たびたび新海作品のノベライズを手がけてきた加納新太が『君の名は。』の主人公コンビの片割れ、瀧君をはじめ、ヒロイン三葉の友人であるテッシーや、妹の四葉、そして父である俊樹ら四人の視点から描くもうひとつの『君の名は。』だ。
 そんなわけで小説の内容はもちろん本編のネタバレ全開であり、読むのは必ず映画の方を観てからにして頂きたいのだが、本コーナーの読者の皆さんには、先週あれだけ『君の名は。』を観てくれとお願いしたのだから、きっと絶対必ず観に行ってくれたものと思う。そういう前提で以下、いきます(なので本書評は、以下、映画『君の名は。』のネタを割りますので未鑑賞の方ご注意下さい。ていうか、こんなものを読んでいないで、一刻も速く映画館に走るのです)。





 というわけで、『君の名は。Another Side:Earthbound』ですが、1話目のタイトルからして「ブラジャーに関する一考察」とぶっ込んできています。まさにタイトルどおり、おっぱいとブラの話です。ほら、瀧君、三葉の体に入ったときに揉むじゃないですか。あれを。おっぱいを。それが実際どういう感触なのかが延々数ページにわたって描かれています。


 うむ。
 結構、ある。
 決して巨乳ではない。
 ぽよんぽよんだの、たゆんたゆんだの。そういう感じではない。
 手のひらできゅっと持ち上げて、ぱっと手を離し、ぽんと落ちるような質量感もない。
 しかし、
(おお、おっぱいだ)
 と納得し、深くうなずけるくらいには、充分にある。
 うむ。
 充分だ。
 これだけあれば、触った感じ、わりと嬉しい。
 真剣な顔をして、瀧はおっぱいを揉んでしまう。
 これをやっていると、なぜだか分からないが妙にリラックスする。


 ってな感じで延々、おっぱいのある体の素晴らしさが語られます。アホか。アホです。しかしアホでいいじゃないですか。どんな男だって、朝起きて女の体になっていたらおっぱいを揉む。都会のオサレボーイでやるときはやる瀧君だって、やっぱりそんなアホな男の子の一員であることがよくわかり、より一層本編に感情移入できると思います。他にも、女の体の弱さ、軽さ、柔らかさ(主に関節のですよ)などが、「女の子になってしまった男の子」の感覚が非常に精緻に描かれており、なんかというかフェティシズムのにおいまでしてきます。そしてもちろんタイトルにある通り、ブラジャーの話もあります。「着け方分からんし、着けたら一線超えそうな気がする」とノーブラで登校していた瀧ですが、ブラ着用に挑むのです。つまり瀧くんバージョンの三葉は、すくなくともはじめの頃はノーブラ。そう思って観ると、また新鮮な気持ちで二回目三回目の鑑賞に挑めそうです。
 とにかくそんな神は細部に宿るを地で行く1話に続き、三葉の友人、テッシーの視点で、市長と土建屋がガッツリ癒着して金を回し合い、そんな場所から出て行きたいと思っても、長男、跡継ぎという立場に縛られてどこへも行けないしがらみだらけの田舎のイヤさがたっぷりと描かれ……けれどもそんな田舎を少しずつでも変えていこうとする小さな一歩が描かれる2話、三葉の妹、四葉が「姉がおかしくなった理由」をあれこれ考えては妄想を暴走するコメディ……と見せかけて、突如途方もなく壮大なビジョンが挿入され、本編の伝奇的設定を補完する3話と、どの話も大変よく出来ているのですが、やはり本書の白眉は4話「あなたが結んだもの」でしょう。

 先週すでに述べた通り、「これまでの新海」から脱出し、万人に向けたエンターテインメントを志向することで大ヒットした『君の名は。』。ですが、ではこれまでの新海、彼が書き続けていた「失った彼女の思い出に縛られる格好いい俺」というテーマはどこに行ってしまったのか……なんということでしょう。すべてはヒロイン三葉の父親・宮水俊樹が引き受けていたのです。
 ここで描かれる彼は、濃度百二十パーセントの「いつもの新海」です。民俗学者としてフィールドワークに訪れた神社で運命の女性・二葉と出会い、あった初日にいきなり「私はあなたと結婚するような気がしたのです」なんて言われるという小学生の妄想レベルの展開で結婚。けれども二葉は不治の病に冒され、三葉と四葉というふたりの娘を残してこの世を去る。その後の俊樹くん(なぜかくんづけ)がスゴイ。


 ある時、ほんの一瞬のことだが、どこかの何かと取引をして娘二人と二葉の命とを取り替えることはできないのかという考えが脳裏にきざしておのれのその考えに怖気を震った。


 キター! これ、これですよ、このどうしようもなく暗い欲望。『君の名は。』から巧妙に排除されていたそれが、この外伝小説で見事に全開になってます。原作の新海監督とノベライズの加納先生がどういう関係にあるかはわかりません、しかしなんというかおふたりの間で、「いつものおまえは全部こっちで描いてやる、だからおまえはいつもの映画じゃなくて撮りたい映画をとれ!」なんてやりとりがあったのではないかと妄想してしまうレベルです(こんなことばかり書いているから、みんなに「気持ち悪い」と言われるのだ……)。
 んでですね、最愛の人を失った俊樹くんはどうするかと言えば、二葉の死を運命だとか神の導きだかとあっさり受け入れている宮水の人々が許せん、こんな非科学的な村だから二葉は死んだ、こんな村はオレが村長になって近代化してやらにゃならん、とか考え始めるのです。いやはや神主から市長への転向がそんな理由だったなんて最高です。この「いやそれどう考えても逆恨みじゃないですか?」的なこじらせハードボイルドっぷり、たいへんいい「新海汁」が出てます。『雲の向こう』のヒロキに『秒速』の貴樹に『星を追う子ども』の森崎に続く、新たな「オレたちこじらせ系ボンクラ」の依り代、その名は俊樹。『君の名は。』の俊樹。「キ」のつく新海キャラはいつだってオレたちを裏切らない。たぶん。

 さて、『君の名は。』をごらんになった皆様、三葉は一体、どうやって父親を説得できたのか、疑問ではありませんでしたか? いくら娘の言葉だからって、「村に彗星が落ちてくる」なんて話、信じるなんてありえなくない? 三葉より瀧くんの方が弁も立ちそうだし、入れ替わらない方がよかったんじゃねーか? とか思いませんでした? 評者は実はちょっとだけ思いました。
 ですが本作を読めば、そうした疑問も氷解します。三葉の説得に俊樹が耳を貸さないわけがないのです。それどころか、三葉が村を救ったあの時、俊樹もまた、救われていたのです。その意味では、原作『君の名は。』は「いつもと違う新海でいつもと違うエンディング」なのに対し、この4話は「いつもと同じ新海なのにいつもと違うエンディング」という驚くべき作品になっています。「失った妻を蘇らせるために一度は、幼い少女を生け贄に捧げることまで考えた男が、その妄執から解き放たれ、喪失を受け入れる話」として考えると、これは本当はこうあるべきだった『星を追う子ども』と言えるかもしれません。
 ほかの話も原作の補完としてよくできていますが、特にこの4話は、必読レベルの出来です。ぜひとも、手に取っていただきたいです。

 そして、できることならば……
 親愛なる新海監督におかれては、もし時間があるのなら、是非、この四話を……「いつもの新海」なのに「いつもの新海」とは異なる爽やかなラストにたどり着いた本作を、是非、アニメ化して頂きたい。三十分ぐらいのOVAとか、いっそテレビスペシャルとかどうですかね! 『君の名は。』は現在十代に圧倒的にウケているようですが、この話なら、その親世代を狙い撃ちに出来ますよ。間違いなしですよ。
 よろしくご検討下さい。
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