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2016/05/20更新
希代のヒットメーカーの原点にして、原液
クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識
西尾維新
 3期にわたるテレビアニメ化を経て劇場版も公開された大ヒット作『物語』シリーズをはじめ、実写ドラマ化された『忘却探偵』シリーズ、週刊『少年ジャンプ』に連載された『めだかボックス』など、日本有数のヒットメーカーである西尾維新。その作品が、この度、30週連続で次々に電子化されることとなった。めでたい。

 そんなわけで、今日紹介するのはこちら。

西尾維新『クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識』(講談社文庫)

 本書は西尾維新のデビュー作にあたる、本格推理小説(……少なくとも序盤は)「戯言」シリーズの2作目にあたる(ともあれ、ほとんど独立した話なので、なんだったらこの本から読んでもほぼほぼ問題ない)。
 西尾作品の特徴と言えば、なんと言ってもその強烈なキャラクターたちだろう。戯言シリーズも例外でなく、「蒼色サヴァン」「人類最強の請負人」といった多くの奇人・変人が登場する。しかしそんな中にあって、例外的に本作『クビシメロマンチスト』は普通の人たちの物語である。いや、もちろん、のちにスピンオフ・シリーズ化される「零崎一賊」の最初の一人が登場したり、それから、「《中学二年生にしてバンド結成。ただしメンバー全員ベース》みたいなっ!」とか「《二人の作家の卵、片方は無精卵で片方からは硫黄の匂い》みたいな!」なんて珍妙なたとえを連発するシリーズ屈指の個性派キャラクター・葵井巫女子ちゃんが登場したりはするのだけど、事件の規模自体は、狭い大学の中に収まっており、その主要な関係者もまた、ごくごく普通の、どこにでもいそうな大学生たちである。

 さて、本作「戯言」シリーズは、一応、推理小説にあたる。
 主人公にあたる「ぼく」こと「戯言遣い」の「いーちゃん」が大学の基礎演習クラスのクラスメイトである葵井巫女子とその三名の友人の誕生パーティに同席したことで連続殺人事件に巻き込まれていく、というのがあらすじである。
 ただ本書の重点は、犯人あてやトリックの解明にはない。実際、ミステリーを読み慣れた人なら、実際、すぐに真相に気づいてしまうのではないか。むしろ本質はそのようなミステリの本題から離れた余談の方にこそある。
 余談の方がメイン……と言えば、たとえば『物語』シリーズもそうで、同作もまた本筋の「怪異」の謎解きそっちのけでえんえん、阿良々木くんと美少女ヒロインズのかけあいがそれこそ無限に続くかの勢いで繰り広げられているわけだが、本書「戯言」シリーズには残念ながらそうした要素は薄い。では、その余白は何によって埋められているかと言えば、主人公・いーちゃんのモノローグだ。


 ぼくは、
 生きているだけで人が殺せるぐらいに、
 冷たく乾いたニンゲンだから。
 確かに零崎の言う通りにえげつない。
 しかし実念でなく概念で、
 ぼくは赤の他人に対し積極的感情を抱くことができないのだ。


 主人公「いーちゃん」の、自分がいかに人間失格で、他人への共感を欠いた、壊れた人間なのか……そんな鬱屈としたモノローグによって本作は埋め尽くされている。それこそが本書の主題である。
 先にも書いた通り、本作は大学という日常を舞台にして、ごく普通の人たちがおりなす物語だが、しかしだからこそ、そんな普通の人たちの中に混ざり込んだ異物の異常さが、かえってハッキリとあぶり出されてしまうのだ。

 いーちゃんという壊れた人間がいる。
 その男は、自分に好意を向けてくれた女の子が死のうがまったく心を動かすことなく、探偵役として犯人を見つけようとする気などまったくない……どころかむしろ「犯行」に荷担するそぶりさえ見せる。殺人者を苛烈な言葉で糾弾する一方、その十倍は殺している通り魔殺人鬼とは仲良く談笑したりもする。
 そういう「壊れた人間」が、普通の人たちとうっかり付き合ってしまったせいで、一個のコミュニティを完膚なきまでに破壊してしまう。
 その記録が本書だ。

 今の読者からすると、本書は非常に奇妙な小説にうつるかもしれない。ミステリーの皮を被った私小説じみた自分語り。こんなものが「新青春エンタ」なるキャッチコピーのもとで、エンターテインメントとして読まれ、売れてしまった奇妙な時代が10年前、確かにあったのだ。本作は、そんな時代の空気を結晶化したような、「ゼロ年代」を代表する一冊である。

 そんな時代は今や過去となり、西尾維新の作風も大きく変化した。なので、もしかすると『物語』シリーズなど後の作品のファンは、その差異に驚くかもしれない。けれども、それでも読み進めれば、きっと後の作品につながる「何か」を発見できるはずだ。

 原点にして、原液の西尾維新。それが「戯言」シリーズであり、本書『クビシメロマンチスト』である。
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