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2016/02/05更新
アニメ放送中! 俺YOEEE系異世界ファンタジー
灰と幻想のグリムガル
十文字青 白井鋭利
 祝! オーバーラップ文庫、ebookjapanにて配信開始! 我々は三年待ったのだ!(嘘)というわけで、今週は、それを記念して、現在アニメが絶賛放送中の、

十文字青『灰と幻想とグリムガル』(オーバーラップ文庫)

 を取り上げたい。ところで、著者である十文字青についてはすでにそのデビュー作である『薔薇のマリア』を以前取り上げた。実はこの連載、原則ひとりの著者につき、とりあげるのは一作品(一シリーズ)のみという個人的な縛りがあったのだが(そうじゃないとえんえん同じ作家の作品ばかりとりあげてしまいそうで)……まあ、いいじゃないか、せっかくアニメ放送中だし! オーバーラップ文庫配信記念だし!!

 はい、というわけで『灰と幻想のグリムガル』です。
 本書はその名の通り「グリムガル」という世界を舞台にした異世界ファンタジーだ。「目覚めよ(アウェイク)」という声とともに暗闇の中で目を覚ました主人公・ハルヒロたち。けれども彼らは自分の名前以外のほぼすべての記憶を失ってしまっていた。
 そんな彼らは、オルタナという要塞都市を拠点として、危険なモンスターや人類の敵対種族と戦う「義勇兵」となって、なんだかゲームのような(けれどもゲームという言葉の意味も忘れてしまったまま)日々を送ることになる。

 ……一見(記憶喪失という点を除けば)典型的な異世界召喚ものに見える本作だが、すでにアニメでご覧になった方はご存じの通り、主人公たちにはチートや主人公補正なんてものが一切ない。そんなもんでファンタジー最弱モンスターのゴブリンでさえ一匹を六人で囲んでようやく戦える始末。英雄なんてものからはほど遠く、ゴブリンの死体から金目の物をあさり、その日の宿代にも困る貧乏生活を強いられるとことになる。
 夢も希望も金もチートもなく……他の異世界ファンタジーだったら「脇役パーティB」くらいで名前も出ずに終わりそうな、最弱最底辺な登場人物たちを描いた作品がこの『グリムガル』なのだ。
 ……誰が呼んだか、俺YOEEE小説。
 その名にふさわしく、とにかくこのハルヒロたち、弱い。ゴブリンとの戦いで始まったアニメだが、この原稿書いてる時点(16年2月4日)の最新4話でもまだゴブリンと戦ってる。たぶん5話もゴブリンと戦っているだろう。あんまりにゴブリンとばかり戦っているものだから、原作ではついたあだ名がゴブリンスレイヤー。もしかしたら、アニメの方、このままゴブリンと戦うだけで一クール終わっちゃうんじゃなかろうか? そしたらある意味伝説だな……。

 いや、しかしですよ。
 彼らを責めるのは酷ですよ。弱いとかあんまり言わないであげてください。
 考えてみてください。普通に考えて、僕だったり皆さんであったりな平凡なライトノベル読者が異世界に召喚されて、いきなりモンスターと戦えなんて言われたらどうします。無理じゃないですか。僕とか普段ゴキブリ潰すのだって躊躇してるのに、ましてやゴブリンなんて人型生物をぶっ殺して金品略奪して生活しろってハードル高すぎですよ、どんなヤクザ家業ですか……! しかもこの世界、『灰と幻想のグリムガル』なんてタイトル、あるいは一巻の「ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ」が指し示すように、灰(死)と青春が隣り合わせの、マジで死んだらそれっきりのハードモードですからね。

 そんな世界で昨日まで一般人やっていた、僕らと全然かわんない人間たちが、しかもチートも異能もなしに戦わされるわけです。もう不条理なんてモンじゃない。死ぬのはコワイし、殺すのはキモチワルイ。そりゃあねぇ、いきなりモンスター狩ってこいなんて言われたら、せいぜい六人パーティでゴブリン一匹袋だたきにするのでせいぜいですよ……。

 いや。というか、実はですね、そもそもこの六人、パーティを組むのさえ、めっちゃ大変だったんです。
 このあたりアニメ版ではざっくり削られてしまって、六人揃ったところからはじまるのだけど、原作ではすでにそこから躓いている。本当にどうしようもない……が……実に彼ららしい。是非、アニメから入った方も、小説版で補完してほしいところです。

 主人公ハルヒロたちと一緒に「目覚めた」のは十数名。そのうち、コワモテ系なイカニモ有能な感じの兄ちゃんは「使えそうなヤツ」だけさっさと集めてパーティを作ってどっかいっちゃう。もちろんハルヒロは「選ばれなかった側」。あの非コミュを殺す悪魔の呪文「それじゃあ、お友達とグループをつくってください」の悪夢が蘇ること請け合い。
 仕方がないので、余った人間でパーティを組んでみたらいいものの、盾役の戦士になるって言って別れたのに紙装甲のアタッカーになって戻ってくるバカが出たり、あるいはこう悪い先輩たちに目を付けられてお金を巻き上げられる者もでたり、と本当に、パーティーを組むことさえままならず、組めたら組めたで、さっきもいったようにゴブリンに苦戦する、ほんとうにままならないことばかりの日々。

 しかし、こう、その、ままならなさには妙なリアリティがあり、「ああ俺も異世界召喚されたら確実にこうなるだろうなぁ」と妙に納得してしまう。そして、だからこそハルヒロたちを、まるで自分の分身のように応援したくなる。

『灰と幻想のグリルガル』は、そんな、等身大の異世界召喚ものなのである。

 そうして、そんな連中が、チートだのなんだのに頼らず、じわじわじわじわ、少しずつ本当に少しずつ強くなっていく様もまた本作の醍醐味。

 すでに以前執筆した『薔薇のマリア』の書評でも述べたが、十文字青という作家は、チート級に強いヤツに混じって、たいして強くもないヤツが、それでも頭をひねって何とか頑張る姿を書くのが大変にうまい。『薔薇のマリア』というのは、特筆すべき才能も能力もない、ごく普通の冒険者・マリアが、作中最強クラスの戦闘力を持ったリーダーをはじめ割と化け物ぞろいな冒険者集団ZOOに加入して、弱いなりになんとか活躍する物語だった。

『グリムガル』はいわばその発展系でパーティ版だ。
 グリムガル世界には〈暁連隊(DAY BREAKERS)〉や〈オリオン〉〈チーム・レンジ〉と言った超強力な、それこそチート級で主役級なパーティ集団がゴロゴロしている。そんななかで、ハルヒロたち六人のパーティは、それこそ『薔薇マリ』のマリアのように弱い、「その他の脇役」でしかない。
 けれどもそんな物語の「脇役」でしかない彼らが、それでも彼らなりに経験を積んで、そんな主役級の冒険者の背中に追いつこうとし、そして、彼らなりの強さを身につけていく。

 ゴブリン相手に苦戦する小説のどこが面白いんだと疑問に思う読者にこそ、是非読んでほしい。そんなゴブリン相手に苦戦していた連中が、地道なレベル上げで培った強さでもって、「主役級」をアッと言わせる様には、弱小チームを応援する醍醐味、ジャイアントキリングのたまらなさがあるのだ。さあ、みんなで僕らのゴブリンスレイヤーを応援しよう!


 以下、二点余談。
 一点目。
 MMO−RPGの影響を大きく受けている点では、『薔薇のマリア』と同様の『グリムガル』だが、パーティリーダーの苦悩というテーマが強調されているのが特筆すべき点。パーティ内でのケンカを仲裁し、こじれた恋愛関係に気を使いと、人間関係を調整したり、あるいは欠員の補充に頭を悩ませたり、他のパーティと交渉したり……と苦労する様は、MMOでギルドマスターをした経験のある人間なら特に胸に刺さるはず。読み逃しなきよう。

 二点目。
 本書には同じグリムガル世界を舞台にしたスピンオフ、『大英雄が無職でなにが悪い』がある。もともと「小説家になろう」で連載していたものが書籍化されたもので、自称大英雄の青年・キサラギが、職にも就かないまま行き当たりばったりで突き進み、そして都合良くチートアイテムを手に入れちゃったりなんだりして「大英雄」への道を突き進んでいく……という『グリムガル』とは正反対の、そして「なろう」小説王道(?)の、痛快な俺TUEEE系異世界ファンタジーである。
 合わせて読むと、こっちの無職のアホはこんな適当でもなんとかなってんのに……と、なおさらハルヒロたちの冒険の世知辛さが身にしみてくるので、是非、2シリーズ同時にお楽しみ頂きたい。
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