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2015/12/25更新
24の死から始まる物語
テルミー
滝川廉治/七草
 2008年に『超人間・岩村』でデビューした滝川廉治は、これまでに刊行した小説が(先月11月に刊行された待望の新刊『MONUMENT あるいは自分自身の怪物』)を含めてもわずか4冊というかなり寡作な作家である。

 流行が猛スピードで移り変わるライトノベルのなかでよくも生き残ってこれたものだと、驚く方も多いだろうが、彼の作品を一度読めば、二年だろうが、三年だろうが待ち続ける読者がいる理由がすぐ理解できるはずである。
 その文体から伝わる筆圧は魂を削って書かれた小説と形容するにふさわしく、とてもではないがこんな書き方をしていたら、コンスタントに新刊など出せるわけがないと思う。本当に一冊一冊に全力投球なのだ。読んでるこっちが、先生、もうすこし肩の力、抜いても、と心配になるほどに。

 そんなわけで今回は、そんな彼の名を、ライトノベルファンに一躍知らしめた作品を紹介したい。

滝川廉治『テルミー』(集英社スーパーダッシュ文庫)


 この物語には、二十六人の高校生の男女が登場する。
 当然のようにこの物語は、二十六人の死と青春を描くものになる。


 そしてこの物語は、必ずハッピーエンドを迎える。
 なぜなら、この物語は始まりの時点が最も悲惨で、最も間違った状況だからだ。
 彼らのうち二十四人は、物語の始まりと同時に死亡している。


 そんな一文から、この小説は始まる。

 状況はこうだ。
 月之浦高校二年三組を乗せた修学旅行のバスが、修学旅行中、土砂崩れに巻き込まれる。二十六人のクラスメートのうち、直前のケガで修学旅行に参加し損ねたひとりの少年と、奇跡的に生き残った少女をのぞいて、二十四人の生徒は、全員、死亡した。
 確かに、「最も悲惨で、最も間違った」としか言う他ない状況である。
 その少年の方、灰吹清隆は、同級生で最愛の恋人に贈った指輪が、もうひとりの生き残り、鬼塚輝美によって持ち去られていたことをしる。なぜ、死んだ恋人の両親は、大切な指輪をただのクラスメートに渡してしまったのか。そもそも輝美は、何のためにそんなことをしたのか。
 答えが明かされるのは、体育館で行われた二年三組の合同葬だ。
 そこで、ケンカ友達の死に泣き叫ぶ学園の「番長」に向かい、突然、輝美がいきなりひっぱたくのである。まるで死んだはずのケンカ友達が、輝美の体に取り憑いたかのように……。

 そうして、清隆は知る。鬼塚輝美の体に、死んだはずの二十四人が未だ生き続けていることを。二十四人のクラスメートが輝美に求めたのは、彼らの最期の望みを叶えてもらうこと。たとえばそれは、番長と最後の勝負をすることであったり、そうして、恋人にもらった指輪を自分の手で、彼に返すことであったり……。
 恋人と最期の別れを交わすことができた清隆は、そんな輝美の「二十四人の最期の夢」をかなえる手伝いをはじめることになる。
 輝美に宿った二十四人の最期の願いは様々だ。たとえばバンドの初ライヴを成し遂げたいという者から、「隠しておいたエロ本を処分してほしい」なんて者まで……けれどもどんな願いにも、彼ら彼女らなりの思いがこもっていることを読者は知ることになる。

 本作が描くのは言ってみれば、残された者たちが喪失を乗り越えて、新たな人生を歩みだすという単純な物語の繰り返しである。
 それで本書は、けして読者の心を離さないのは……もちろん、話運びに様々なバリエーションがあり、あるいは残された清隆と輝美の物語が、物語を貫く軸として存在しているという点も上げられるが……何よりもそれぞれの人生が本当にきめ細かく、ありありとした実感をもって描き出されているからだろう。
 二十四人のクラスメートがどんな人物で、どんな夢をもって、どんな風に毎日を生き、そして、それが事故によって唐突に断ち切られたのか。本書はそれを時に叙情たっぷりに、あるいは時に突き放すように語る。ウェットな心理や情景描写の最中に( )つきでト書きのようにドライな説明を挿入する、という独特の文体が、非常に効果的に機能しており、読んでいて、なぜこんな不条理なことがと憤らずにはいられないし、それを乗り越えて生きていこうとする残された人々の決意が胸を打つ。

 だが、この二十四人を創造し、その人生を想像し、そして、それをみずからの手で無惨に断ち切り、そして彼ら彼女らのいない世界を生きて行かざるを得ない人々の姿を、ひとりづつ描く作者の心境は、いかなるものか。正直、想像するだけで空恐ろしい。本当に、一字一句書くごとに寿命が縮みそうな、渾身と呼ぶにふさわしい作品である。

 ただ、それがゆえに本作が既刊2巻で未完のままとなっているのがあまりに残念だ。

 新刊『MONUMENT あるいは自分自身の怪物』も、魔法が存在する現代世界で、古代遺跡を管理する教育機関に潜入したロシア系工作員の少年を主人公に、謀略サスペンスや異能バトル、そしてダンジョン探索を通じ、彼の数奇な運命を描く……という高密度な内容と巧みな構成が光る作品で、大変素晴らしかったのだが、やはりだからこそ『テルミー』を、と思ってしまう。


 物語は、この生き残った二人の少年少女を中心にして進んでいく。
 そして必ずハッピーエンドになる。


 冒頭で約束された、そのハッピーエンドを、やはりこの目で見届けたいと思うのだ。
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