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2016/01/22更新
火星に取り残された宇宙飛行士が、科学の力で生き抜ぬいて見た件。
火星の人
アンディ・ウィアー/小野田和子
 ……70億人が、彼の還りを待っている。というわけで今日、紹介するのは、2月公開の大作映画、『オデッセイ』の原作小説である。あ? SFだろうって? ライトノベルじゃないだろうって?そう思った人は原作者のこのインタビューを読んでみて欲しい。

『オデッセイ』原作者が作品の魅力と“アニメ愛”を語る!



子供の頃は『ロボテック』が好きだったんだ。シッテイマスカ? マクロスとサザンクロスとモスピーダを合わせたアニメなんだ。僕は特にモスピーダが好きだ! インタビュアーに質問していいかな? イチバンスキナアニメハナンデスカ? 僕は最近のものだと『ワンピース』と『ハルヒスズミヤ(涼宮ハルヒの憂鬱)』が好きだよ。


『ロボテック』が好きで『涼宮ハルヒの憂鬱』が好きな作者が書いた小説がライトノベルじゃないわけがないだろう。証明完了。それでも納得できない?
なら、例の魔法の言葉を唱えるまでだ。


あなたがライトノベルだと思うものがライトノベルです。ただし、他人の同意を得られるとは限りません。


 というわけで『オデッセイ』原作小説はライトノベル。
 はい、というわけで今週取り上げるのはこちら。

・アンディ・ウィアー/小野田和子(訳)『火星の人』(ハヤカワ文庫SF)

 ……とまあ、おそらく連載史上、最も強引なフリで初めて始めてみたけど、実際、本書はライトノベル読者……とりわけ「なろう」小説の読者に是非とも読んでみてほしい作品なのだ。マジで。

 映画のCMなんかでご覧になった方も多いだろうけど、あらすじは単純明快だ。
 有人探査のために火星へと送り込まれた6人の宇宙飛行士だが、突然の砂嵐に巻き込まれ、ミッション中にひとりが行方不明に。残った人間にも命の危険が及び、船長は生き残った5人だけで火星を脱出する苦渋の決断を下す。ところが取り残されたひとり、植物学者にしてエンジニアのマーク・ワトニーは、なんと生きていた。たったひとりきりの彼の火星でのサバイバル生活が始まる……果たして彼は生きて地球に還ることができるのか……?

 ただ、「いかにもな感動もの」のCMのイメージで本書を読み出した読者は、おそらく、それと本文とのギャップに驚くはずだ。
 地球から2億キロ離れた火星にたったひとりで取り残され、次の有人探査船が火星に到着するのは4年後、しかし残された食料は50日分かそこら、というあまりに過酷で絶望的な状況なのに、彼はやたらとポジティヴだ。そのノリは実に明るく、軽く、ライトなのである。たとえばこんな風に。


 火星の土で作物をつくる方法は、もう何十年も前から考えられてきた。ぼくはそれをはじめて試してみるだけのことだ。
 備蓄食糧を漁って、植えられそうなものを探し出した。たとえばエンドウ豆。それ以外の豆類も大量に。ジャガイモも何個か見つけた。そのなかのどれかひとつでいい、試練の旅を経たあとでもまだ芽を出してくれたなら、素晴らしい。ビタミン剤はほぼ無尽蔵にあるから、あと必要なのは生き延びるためのカロリーだけだ。
(……)
 ぼくは痩せても枯れても植物学者だぞ! みなの者、ぼくの植物学パワーを畏れよ!


 物語は基本的に、彼が火星での日々を記録した日誌の形で書かれるのだが、基本ノリはずっとこんな感じ。もちろん彼だって人間だから、火星に一人きりで取り残されたと知った時は死ぬほど落ち込んだようなのだが、二日目してもう、「さてと、ひと晩ぐっすり眠ったら、状況はきのうほど絶望的でないような気がしてきた」なんてあっさり言い出しているのである。メンタルつえー。超つえー。
 そういうわけで彼は、使えるものは何でも使って火星でのサバイバルをはじめる。てはじめは、何はともあれ食べるもんがなくちゃ話にならんってことで、火星でジャガイモ作りだ。NASAの最新の科学技術で作られた火星基地のなかでの農業。しかも肥料が必要だってんで、仲間が火星のどこかに残した「ウンコ」を探しに行ったりもする、なんてシリアス過ぎる状況と実際やってることのギャップが実におかしい。
 前述の通り、ワトニーの語り口は、ユーモアたっぷりの上、実に平易で、めんどうな数字は抜き、科学理論などもできる限りかみ砕いて説明してくれているので大変読みやすい。

 おそらくこの男が主人公じゃなかったら、この物語はもっと深刻で重く沈んだ物語になっていたはずである。といかそうならなっていないとおかしいぐらいの状況なのである。だのにワトニーは、そんな自分の状況さえも、明るく楽しく語ってしまう。「深刻な顔して悩んでれば何か良いことあるの?」ってノリで、どんな時にも笑いを忘れない男だ。惚れる。

 ちなみに、以下は、彼が苦労して地球との文字通信を可能にした時のもの。
 彼の人柄がよくわかります。


[12:04]JPL:(…)追伸:発言には気をつけてほしい。きみが打ち込んだ内容は全世界に生中継されている。
[12:15]ワトニー:見て見て! おっぱい!―> (.Y.)


 おまえなあ……w

 だからこう、映画の方が『オデッセイ』なんてよく分からん邦題付けてんだから、早川も、いっそ『火星でぼっちになった宇宙飛行士が科学の力で生き残ってみた件』とか『ジャガイモは火星でも最強だったようです』なんてタイトルつけてマンガ化でもしたらいいんじゃないかと思う。
 それぐらい、読んでいて一番近いな、と思ったのは『なろう』小説のNAISEIものである。異世界に転生した主人公が、農業とか銃とかの科学知識でもって無双する……というタイプの作品は、この連載でも何度も取り上げたけど、本書は、ノリといい、読みやすさといい、マジでその火星版なのだ。

 次々に襲いかかるトラブルを、豊富な科学知識と不屈のポジティヴ精神と尽きせぬユーモアで切り抜けていく様をリーダビリティ抜群の文章で描いたSF&火星「なろう」小説として、是非、ライトノベル読者にも読んでほしい、とにかく楽しい小説なのである。
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