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2015/08/21更新
MMO−RPG小説の先駆け
薔薇のマリア
著者:十文字青 イラスト:BUNBUN
 川原礫『ソードアートオンライン』の大ヒットをきっかけにMMO−RPGベースのファンタジーはライトノベルにおける新たな流行ジャンルとなり、『小説家になろう』発の作品などを中心として月に何冊ものオンラインゲーム系ファンタジーが刊行されている。
 ところで評者がMMO−RPGのベースとした、新しいファンタジーの誕生を実感したのは、『SAO』の書籍版刊行から遡ること、4年前……十文字青のデビュー作、

十文字青『薔薇のマリア』(角川スニーカー文庫)

 ……を読んだ時のことだ。

 と言っても、本作には「主人公たちがVR−MMOの世界に閉じ込められた」「転生した先がゲームそっくりの世界だった」等々の、一見してオンラインゲームが題材とわかるような設定が冒頭で語られるわけではない。むしろ、一見するとライトノベル・ファンタジーのフォーマットをそっくりそのまま踏襲しているように見えた。
 舞台となるのは巨大迷宮の上に作られた大都市エルデン。この都市の少なからぬ住人は、その迷宮に挑んで怪物と戦い、お宝を持ち帰ることで暮らしている。主人公のマリアローズ(マリア)とクランZOOの面々も、そんな「クラッカー」として今日も迷宮に挑む……という物語で、十年前の刊行当時ですらクラシカルに思えたものだ。むしろ最初は、今時よくもこんな古典的なファンタジーがとむしろ懐かしさから手に取った気がする。
 だが、一読して驚いた。
 確かに道具だては古典的なものだった。ギルドがクラン、冒険者がクラッカー、僧侶が医術士など用語の言い換えはあるものの、たとえば『ソードワールドRPG』のリプレイや小説などで飽きるほど読んだネタに過ぎない。だけど、そんなありふれた題材を用いつつも、本作は、これまで読んできたライトノベル・ファンタジーとは、どこか決定的にズレていたのである。なぜ、こんなテンプレどおりなのにこうも新鮮なのか。当時の自分は、それが知りたくて、このシリーズにハマって行った気がする。
 そうして……たしか3、4巻ぐらいまで読んで、ようやくわかったのだ。これまでのライトノベルのファンタジーと同じく、本作もまたベースにあるのはRPGだ。けれどもRPGはRPGでも、この小説はオンラインの……MMO−RPGがベースになっているのだと。

 一体、『薔薇のマリア』という作品の想像力は、どこが異質だったのか……そしてどこがMMO−RPG的だったのか?
 まず異様なのはパーティの構成だ。戦士に僧侶に魔法使い……六人の冒険者が危険な迷宮に挑む、というところはお約束だが、本作の主人公であるマリアローズとその仲間たち、クランZOOは、その実力にあまりに極端な差異がある。
 たとえばリーダーである大剣使いのトマトクンは作中最強クラスのチートキャラで竜だの神様だのと戦えるレベル。同じく元・暗殺者のピンパーネルも、人間型生物ならほぼぼ瞬殺可能なレベルカンストクラスの実力者である。一方、そんな人外に比べ、斧使いのカタリというのはまあ、そこそこの実力者と言った程度。主人公のマリアは……正直言って、弱い。しょっちゅうピンチになっては、さっき言ったトマトクンやピンパーネルに助けて貰っている。つまりレベル300と99と30と10のヤツが、一緒にパーティを組んで戦うのが『薔薇のマリア』なのだ。
 こういう光景はコンピュータRPGやテーブルトークRPGではなかなかお目にかかれない。『ドラゴンクエストX』のパパスのように、ひとりだけ図抜けた実力の人間がイベントで加わることはあっても、メインのメンバーというのは、一緒に冒険をはじめ、一緒に成長し、横並びで強くなっていくのが普通だからだ。
 しかしMMOの場合はどうだろう? ゲームのリリース直後からひたすら廃人プレイをしていた人間と、毎日、それなりにコンスタントにプレイしていた人間、そして数日前に始めた初心者が、一緒に冒険をするという光景は、そこまで珍しいものではないだろう。

 このMMO由来の、極端な実力差のあるパーティによる戦闘が、『薔薇のマリア』の読みどころのひとつだ。如何せんパーティ最強トマトクンと、パーティ最弱マリアでは能力差がありすぎ、巨大な敵にそれぞれの得意技をぶつけていく……というわけにはいかない。
 トマトクンの目線では「数だけは多いザコ」が、マリアにとっては「一対一で戦ったら絶対殺される強敵」だったりするのだ。だからトマトクンが「味方に被害が出ないようにいかに敵を素早く全滅させるか」という戦闘を戦う一方、マリアの方は「怪我をした仲間と彼を治療中の僧侶に敵が行かないよう自分が囮になり、超人組が助けに来てくれるまでいかに強敵から逃げ回るか」という戦闘を行うことになる。同じ戦闘なのに、六人が六人ともまったく別の戦いを戦っている……それが『薔薇のマリア』のバトルシーンだ。
 なかでもマリアというのは、パーティのなかでも一番弱く、「攻撃役」「治療役」といった決まった役割もないから、常に、自分に何が出来るかを問い続け、あれこれと走り回ることになる。そんな最弱の立場にあるメンバーが、時にあっと驚く機転で、最強メンバーの力押しだけではどうにもならない窮地を切り抜けていくのも、本書の読みどころのひとつだ。

 言ってみれば、マリアというのは低レベルだけど、ステータスではなく、中の人の頭の回転でパーティに貢献するタイプのPCである。クランZOOは、腕は立つしカリスマと人望もあるけど、ただそれだけの廃人……もとい最強リーダー・トマトクンをはじめくせ者ぞろい。そんな中で、唯一の常識人として、最弱のハズのマリアがみんなを引っ張っていく。レベルや装備といったステータスにはけしてあらわれない強さが、本作には描かれている。

 当然、そういうマリアの機転は、迷宮の中ではもちろんのこと他の冒険者たちとの折衝のなかでも生きてくる。そういう人と人との繋がりや軋轢は、『薔薇のマリア』のもうひとつの……いや最大の読みどころだ。
 実は『薔薇マリ』には物語……というか、大目標のようなもの……たとえば閉ざされた世界から脱出するとか、魔王を倒すとか、伝説の○○を集めるとか、世界の危機を救う……といったメインのお話が、終盤の完結編に突入するまで、ほぼほぼ存在しないのだ。
 その代わり何をしているかというと、ダンジョンに潜るのもそうなのだけど、主に人間同士が争っている。舞台となるエルデンは「君臨すれども統治はしない」王・キンググッダーのもとに栄える、王も警察も管理者もいない、何をやっても自由だが、何をされても文句を言えない……という『ウルティマ・オンライン』など初期のMMOを思わせる無政府都市だ。
 宝探しの1巻の後、2巻からはそんな都市に突如として勃興した殺人強盗何でもアリの無法者ギルド(早い話がPK集団だ)と自警団的ギルドの争いが描かれる。あるいはその後、別の土地へ舞台をうつし、そこではなんかシチリアンマフィアっぽい連中とへんなカルト宗教との争いに巻き込まれ、そしてあるいはマリアたちとは別のギルドの話がメインになったりする。この「本筋」「メインストーリー」と呼べるものが存在しない感じが、けれどもすごくいい。
 数千人から時には数万人の人間がひとつの世界で繋がって遊ぶMMO−RPGには、当然ながら、選ばれた勇者であるとか、物語の主人公といった人間は存在しない。そもそも物語そのものが希薄で、メインシナリオというのはあったとしてもせいぜいチュートリアル程度。それを終えてひたすらダンジョンに潜ってアイテムを集めている時間の方がプレイ時間としては遙かに長い。そういう「物語」の存在しない世界で、レベルの上下はあってもあくまで平等な大勢のプレイヤーたちが、時に仲間と共にダンジョンに潜り、あるいはギルドをつくり、そして他のギルドと抗争し……、そういうプレイヤー同士の交流と衝突の中で自然発生する創り手のないドラマこそが、MMOにおける「物語」のはずだ。
 十文字青が『薔薇のマリア』で見事に語って見せたのは、まさにそういう物語の在り方なのである。

 先ほど、評者は『薔薇のマリア』の戦闘ではパーティのメンバーがそれぞれ異なる戦いを戦っていると書いた。これは実は、『薔薇のマリア』全体に言えることだ。とにかくこの物語はキャラの数が多く、そして著者は、余白を全て埋め尽くすぐらいの密度で彼らの内面を克明に描いていく。けれど、そうやって丹念に描かれた登場人物があっさりと退場してしまったりすることも珍しくなく、物語が完結した今から読み返すと、それらの描写はともすると無駄とも思え、もう少し登場人物と話の筋を整理すれば、もう少し短い巻数ですっきり完結できたのかも……思えなくもない。だが、それをやってしまったらおそらく『薔薇のマリア』は『薔薇のマリア』でなくなってしまうのだ。
 かつて評者がMMO−RPGを初めてプレイした時、何よりも感動したのは、目の前を駆けていく沢山のキャラたちひとりひとりを生身の人間が動かしているという事実そのものだった。みんながひとつの場所にいる、とにかくいろんなヤツが、この電子の架空世界でもうひとつの社会を作っている。MMO−RPGの楽しさというのは畢竟、「赤の他人がそこにいる」ことそのものにあるのだと思う。
 だからMMO−RPGを小説にするというのは本当は難しいのだと思う。勇者でも英雄でもチートでも何でもいいけれども、MMO的世界観のなかに何らかの特権的な「主人公」を用意した瞬間、共に世界を共有する「他者」であったはずの者たちは、途端に主人公の物語のための脇役に変貌し、NPC相手のオフラインゲームと何が違うのだ、という話になってしまうのだから。
 この困難を、十文字青という書き手は、物語的に重要だろうが重要であるまいが、とにかくありとあらゆるキャラクターを視点人物に抜擢し、彼の目で見た世界を、彼の言葉でもってひたすら饒舌に語らせるという力業でもって克服した。メインストーリーがどうとか、主役脇役がどうのなんて、この物語の登場人物には、関係ない。彼らは彼らなりに自分の人生を生きているのだ。そんな群像劇が『薔薇のマリア』である。

 本作は評者が初めて読んだMMO−RPGベースの小説であるとともに、現在に至るも最も好きなMMO−RPG小説だ(次点で、同じく十文字青が描く、英雄になれない平凡な青年たちの異世界召喚小説『灰と幻想のグリムガル』(オーバーラップ文庫)……eBookjapanに入荷していないのが残念)。
「物語」もなく「主人公」もいない世界でひたすらいろんな連中が勝手に生き、勝手に死に、あるいは仲良くなったり喧嘩したり仲直りしたりする。「ここに、沢山の人がいる」というだけで楽しくなる、不思議な感覚……そんなMMO−RPGの醍醐味を小説で味わえる、希有なライトノベルである。是非、お読みいただきたい(なお、その際は、一巻からではなく前日譚にあたるver.0から読み始めるのがオススメだ)。
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