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2015/04/17更新
『のうりん』作家の原点の味
らじかるエレメンツ
白鳥士郎/カトウハルアキ

一、化学実験部員は元素周期表を奉戴し、喩々元素記号の遵守に邁進すべし。
元素記号の遵守は化学実験部員の生命なり。
化学不滅の信念に徹し、日夜化学式を奉誦して之が服行に精魂尽くすべし。実験成功の根基茲に存ず。
《ひとつめ。化学実験部員は元素周期表を超大切にして、元素記号を守らなきゃダメだ。
元素記号を守ることで化学実験部員の命です。
化学は不滅だと信じて、朝から晩まで化学式を口ずさみながら頑張れ。これが実験成功の秘訣だヨ!》

二、化学実験部は化学を死守すべし。
化学は真理在りまし、神霊鎮まり給ふの学問なり。
誓つて迷信の侵略を撃攘し、斃るるも尚魂魄を留めて之を守護すべし。
《ふたつめ。化学実験部は死んでも化学を守れ。
 化学には真実が隠されていて、神様とかがイイ感じになる学問だ。
 侵略してくる迷信を絶対にやっつけろ、もし死んじゃっても魂だけで化学を守るんだ!》

三、化学実験部員は待つ有るを……

(引用者註:《》内は現代語訳)


 そんな物騒な部の掟こと戦陣訓……もとい実験訓を持つのが、岐阜県立刀鎌北高校化学実験部。だが、そのメンバーはもっとヤバかったりもする。

 ベンチプレス六十五キロ、握力六十二キロの圧倒的な身体能力と百七十五センチの長身、そして驚くほどにぺったんこな胸を誇るブルシスト(自己のブルマ姿に陶酔する者の意)の凶暴女、副部長の笠松羽卵(愛読書は『島耕作』)を筆頭に、

・小学一年生にして腐に開眼し、地図上の能登半島を見るだけで昂奮し、普段はかっぱらってきた男子生徒の体操服を嗅ぎつつ「うん。しみてる、しみてる」などと呟く「比較的オープンな腐女子」な高校一年生・丹波凛。

・「生命は化学反応だ」をモットーに生きる超虚弱体質&超薬物中毒者、弁当箱は白い薬剤で埋め尽くされ、気がつくとよく画面はじめで臨死状態になってる同じく一年生の薬師陽租。

 高校二年生の部長・島谷鉄太郎と、ドイツからの留学生にして突撃隊長のティーガーことオットー・カリウス(ドイツらしくないという理由から役職名を書記から変更)のふたりが比較的常識人なのが幸いだが、とにかくもう登場人物紹介時点ですでにネタまみれなこの連中が、ごく平凡な県立高校で……

・真冬に、自作の迫撃砲もどきで花火を打ち上げて校舎の窓ガラスを全損させ、「爆弾三勇士」の異名を勝ち取る「星の屑作戦(オペーレーションスターダスト)」
 とか、
・インシュリン(缶チューハイの隠語)の摂取によるアルコールが人体に及ぼす影響を観察する「人体実験」
 とか、
・ティーガーはドイツ人なのでとりあえず『銀河英雄伝説』は全部見せよう(全百十話)。
 とか、をやっていたら、そりゃもう生徒会から廃部通告を受けない方がおかしい。というか、なんで今まで存続できてたんだ、こんな部……。

 そんなわけで、本書は部長・鉄太郎を筆頭とする化学実験部が、二学期までになんらかの実績を示さねば廃部! というしごく真っ当な通達を受け、化学実験部百年の輝かしい歴史(日露戦争中は毒ガスを研究し、太平洋戦争中は某陸軍部隊に体験入隊し、戦後は月の石の強奪を計画……どこまで本当かは知らん)を守るべく……なぜかスポーツチャンバラの大会で優勝を目指す、というのがこの物語だ。

 前置き(?)が長くなりすぎたが今回取り上げるのはこれ。

白鳥士郎『らじかるエレメンツ』

 ライトノベルと農業という異色すぎる組み合わせから生まれたまさかの大ヒット作『のうりん』の著者、白鳥士郎が08年に刊行したデビュー作である。

 古来、ファンの心理というのは複雑なもので、自分のお気に入りの作家が売れなかったり三巻打ち切り食らったりすると「しょせん大衆は真の傑作を理解できんのだ、そんな人類いつか粛正してやる!」とか怒りを燃やす一方で、そんな作家が後に大ヒットなんかしてしまうと、「ああ、あの人はもう、私だけの作家ではないのね……」なんて思ったりもする。
 私にとって白鳥士郎というのはそんな作家であり、08年に初めて本書と出会い、新たな人気作家の誕生の予感に震え、そしてその後の打ち切りで世の不条理を嘆いた身からすれば、『のうりん』の大ヒットはうれしい反面、一抹の寂しさもあり……「『のうりん』からファンになったヤツとかニワカだわー、やっぱ通は『らじかるエレメンツ』だわー、『らじエレ』最高だわー、次点で『蒼海ガールズ!』だわー」という典型的な超ウザい古参ファン心理によってこいつを取り上げた次第。許せ。

 さて白鳥士郎の代表作『のうりん』の面白さはというと、ものすごく大ざっぱに言えば以下の3つになるだろう。

・フォントいじりやイラストとの連携による大胆なパロディ
・一見萌えキャラ風なのに破天荒な行動をとるヒロインたち
・そしてこれだけ好き勝手やっておきながら、詐欺のように挿入される「農業」という主題への真面目な取り組みと青春ドラマ

 さて、これと比較して『らじかるエレメンツ』はどうか。
 まず、さすがにデビュー作なのでフォントいじりやイラストと連携したパロディといった、派手な手法はつかわれていない。かといってパロディネタがないのかというと全くそんなことはない。まとめサイトなんかに転載されて、さんざん拡散された、例の『ヒストリエ』パロ(「ば〜〜〜っかじゃねえの!?」のアレ)のような大ネタこそないが、その分、一人称のなかに埋め込まれた小ネタの量はむしろこちらが上。しかもネタのチョイスも『島耕作』とか『ムカデ戦旗』とか『沈黙の艦隊』とかビミョ〜にシブく、08年の時点で「それ、今のラノベ読者わかる?」って感じ。
『のうりん』が(それこそまとめサイトに転載できるほど)わかりやすい笑いなら、『らじエレ』は噛めば噛むほど味が出る笑いだ! ウィー・ニード・らじエレ!

 さて、次、えー、本作のヒロインたちだが……まあ普通な意味では一切萌えない。
 何せ化学実験部の部員はすぐに手が出る筋肉女に重度腐女子。一応生徒会長にでこっぱちで眼鏡な主人公の幼馴染みで……というギリギリ萌えキャラ範囲内の簗瀬アルミというのがいるけど、それ以外のキャラは……なんというか最初から萌えを捨ててる感がものすごい強い。
 しかしそれがよいのである。『のうりん』のヒロインたちが、言わばヨゴレもできるアイドルなら、『らじかるエレメンツ』のヒロインたちはアイドルを捨てた女芸人……イモトアヤコ的な体をはったネタを披露してくれる。そしてまさにそこがかえって萌える。こんなヒロインの暴走が楽しめるラノベはそうそうないぞ!

 そして、青春ドラマ。これについては言うまでもない。
『のうりん』の面白さが「やりすぎ感あふれるギャグ」と「農業というテーマへの真面目な取り組み」の両立にあるように、『らじエレ』もまた、トンデモ部員たちのやりすぎ暴走で楽しませてくれる一方、それらとともに語られるのはあまりに個性的すぎるが故に、ともすれば居場所を失いかねなかった面々を受け入れてくれる「化学実験部」への想いだ。「なんでこんなヒドい小説で感動してるんだ!?」と知らずあふれ出る涙に驚愕する白鳥士郎ならではの読書体験は『のうりん』も『らじエレ』も同様。だから『のうりん』が好きなら『らじエレ』も読もう!

 
 まとめるなら、『のうりん』が、白鳥士郎が現在のライトノベルの流行を巧みに分析しつつ、極上ソースで仕上げてきたフランス料理であるのに対し、本作『らじかるエレメンツ』は、素材の味がそのままに楽しめる、日本料理的・白鳥士郎だ。だからこれを読まずに白鳥士郎のファンを名乗ってもらっちゃ困るわー、古参として困るわー、超困るわー。はい、すいません。
 で、あるいは『のうりん』のフォントいじり連発パロディ連発というあまりにハイテンションなノリについていけなかったり、農業という題材に興味が持てなかった人でも、より青春コメディとしての側面が強調されたこっちなら楽しめるかもしれない。多分。

 とにかく何が言いたいかといいますとですね、白鳥先生! そしてGA文庫編集部様!!
『のうりん』が無事完結を迎えた際の次回作は、是非ともこの『らじかるエレメンツ!』の再スタートしていただきたく、と……こういうことでございます!!
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