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2016/08/19更新
現実(公務員)対神話(怪獣)
MM9
著:山本弘
 祝『シン・ゴジラ』公開&大ヒット!!
 というわけで本連載コラムの読者の方であれば、当然、観に行かれたことであろう、12年ぶりの国産ゴジラ映画。もし万が一にもまだ観ていないという方がいれば、こんな連載コラムなんぞ読んでいないでさっさと観に行ってほしい。それもできるだけ大スクリーンで。
 そんなわけで今回紹介するのは、『シン・ゴジラ』を観た後に是非読んでほしい一冊である。

山本弘『MM9』(創元SF文庫)

 もしもこの現代日本の東京湾に突然ゴジラが現れたら、政府はどうするのか。自衛隊に撃退させる? だが、自衛隊を出動させるとして、それはどのような法的根拠に基づき、どのような経緯を経て決定されるのか……そんな日本政府の対応を徹底してシミュレーションしたのが『シン・ゴジラ』だ。巨大な怪獣と戦うのには、どれほどの人員と会議と書類とコピー機と徹夜が必要なのかを描いた、働く人たちの映画なのである。

 一方、今日紹介する山本弘『MM9』もまた、日本の公務員が主役という意味では『シン・ゴジラ』と非常に近いコンセプトの作品だ。ただ、『シン・ゴジラ』と違うのは、本書の舞台となるのは、怪獣の襲来が日常の一部となっている世界。たとえば毎年夏になれば台風が来て、数年に一度はどっかで地震が起こるように、「怪獣というのは、時々出てくるのがあたりまえ」な日本。だから怪獣の規模を示すモンスター・マグニチュード(MM)なる単位が制定されていて、怪獣が出現すると「推定されるモンスター・マグニチュードは8」なんてテレビ放送で警戒が行われたりする(タイトルにあるMM9はモンスター・マグニチュード9のことで想定されうる最大級の怪獣災害のこと)。そして当然のことながら、怪獣災害の対応を専門とするお役所もちゃんとつくられている。気象庁に設置された、その名も”特異生物対策部”……略して、気特隊である。

 だから、と言うべきか、映画『シン・ゴジラ』における怪獣の出現は、未曾有の、そして想定外の国難として、悲壮感たっぷりに描かれるのに対し、『MM9』のそれは、あくまで日常の延長として、どこかダウナーなムードの中で描かれる。
 デートの最中に怪獣が出て呼び出されたり、あるいは怪獣出現の特番のせいでドラマの留守録がずれてないか心配したり、怪獣出現の度に自衛隊のヘリを借りることになって予算不足を嘆いたり、あるいは怪獣の名前をどうつけるかで議論が紛糾したりといったアレコレをコミカルに描きつつ、突如出現した怪獣の正体や目的、弱点を解き明かし、怪獣災害に対処していくという連作短編だ。その意味では、特撮版『踊る大捜査線』と言ってもいいかも。

『シン・ゴジラ』との比較で言えば、あっちの巨大生物災害対策室と違って、こっちは怪獣のことばかり考えてもいられない、というのが面白い。たとえば国民の理解を得るために、広報番組にだって協力しなければいけないのだ。「派手な画をよこせ」「決めぜりふを頼む」「とにかく話を分かりやすくしろ」なんてマスメディアの要求に気特隊の面々が右往左往する「第四話 密着!気特隊24時」とか大変笑える。

 が、こうやって説明すると、『シン・ゴジラ』と比べて、だいぶスケールが小さい話なのかと思われてしまうかもしれない。実際、視点をただの一公務員の視点に絞っている点が、本作の良さではある。だが、しかし安心して欲しい。ちゃんと最後は、怪獣映画に相応しいドデカイ話になる。『シン・ゴジラ』のキャッチコピー「現実対虚構」になぞらえて言うなら、こっちが描くのは「現実対神話」。
 なぜ、『MM9』の世界には、とうてい自重を支えられそうにない、物理的に考えて存在できるはずがない巨大怪獣なるものが、現に存在するのか……? 作中でそれは、そもそも人間と怪獣は、そもそも異なる宇宙の原理に所属するからだと説明される。厳密な物理法則の世界に生きる人間に対し、怪獣とは何でもありな神話的宇宙に存在している……つまり怪獣と人間との戦いは、宇宙のあり方そのものを巡る戦いでもあるのだ。公務員の日常がラストには宇宙の命運を賭けた大バトルにまでスケールアップしていく! これぞSFですよ!

『シン・ゴジラ』の総監督である庵野秀明は、偏執的なまでのパロディ精神がその大きな特徴の一つで、初監督作品『トップをねらえ!』の時からこれでもかと言わんばかりに、過去の作品からの引用をブチ込む作風で知られている。実は本書の書き手である山本弘も、「気特隊」というネーミングひとつからもわかるように、同様のスタイルの作家。本作でも「俺はこれが大好きなんだ!」というあれやらこれやらをみずからの作品に詰め込んでいて、元ネタを探すだけでもニヤニヤできる。とりわけ、本作のラストバトルは、そんな山本弘の「好き!」が炸裂している。山本弘がDAICON FILM版『帰ってきたウルトラマン』を撮るとこうなるって感じの欲望ダダ漏れな感じが大変素晴らしいので是非読んで頂きたい。

 以前、紹介した吉田親司『突撃彗少女マリア』をはじめ、実は「巨大怪獣」というモチーフは小説においても多くの傑作を生んでいる。12年ぶりに復活したゴジラが大ヒット中のこの流れに乗って、文字で読む怪獣……怪獣文学も一層盛り上がってほしいと願う次第である。
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