1. 電子書籍TOP
  2. ライトノベルコラム ラノベ漂流20年!「前島賢の本棚晒し」
このエントリーをはてなブックマークに追加
2014/10/17更新
魂の未完作品棚、特等席に燦然と輝く一冊
神々の砂漠 風の白猿神(ハヌマーン)
著者:滝川羊 イラスト:いのまたむつみ
 毎月、膨大な数の新刊が刊行されるライトノベルだが、裏を返せばその分だけ既刊が書店から消えていくわけで、そう考えると売り切れも在庫切れも品切れ重版未定もない電子書籍というのはありがたい。eBookJapanのラインナップを眺めていると、新刊書店どころか古本屋でさえ見かけなくなった、我が青春のライトノベルたちが最新刊と一緒に普通に並んでいて、思わず目頭が熱くなった。うぉう『友井町バスターズ』! きゃあ、『ねこたま 』! ああ、何もかもが懐かしい……。
 そんなわけで、そんな電子書籍ならではの環境に合わせ、本連載では、新刊とともにそんな過去の名作たちも取り上げていきたいと思う。

 さて、ライトノベル読者であれば誰しもひとつやふたつ、あるいはもっと沢山、ずっと出ない続編をそれでも待ち続けているシリーズがあるはずだ。いや『E.G.F.』の話ではない。eBookJapanに『E.G.コンバット』は未入荷のようだ。「デストロイの季節」についてはいずれ存分に語ろう。今回取り上げるのは、そんな『E.G.コンバット』と一緒に、我が魂の未完作品棚の特等席に並ぶ一冊だ。

・『神々の砂漠 風の白猿神(ハヌマーン)』
(滝川羊 イラスト:いのまたむつみ/富士見ファンタジア文庫)

 本書の刊行は1995年。第6回ファンタジア長編小説大賞(現ファンタジア大賞)の大賞受賞作で、古くからのライトノベル読みには、新人賞受賞作品なのに一冊丸ごとプロローグという掟破りっぷりで知られている。
 現在ではシリーズ前提のデビュー作はめずらしくないが、当時はやっぱり完結が大前提。そんな時代に、未完という大きなハンデを抱えて投稿されて、なんと見事大賞を射止めた作品だ。しかもなかなか大賞が出ないことで有名なファンタジア大賞で!(大賞受賞作は26回で8作、最初の10年に限れば本作を含めてわずか2作!)
 この一事からも本作の尋常でない魅力を察していただけると思う。

 本書の舞台となるのは、機械知性と人類の大戦争〈聖戦〉が文明社会を滅ぼし、地球の1/3を砂漠に変えた未来。それでも人類は砂漠の大地で強く逞しく生きていた。
 空母・箱舟を拠点に、交易から傭兵稼業までこなす砂漠の何でも屋・大槻キャラバンに所属する整備員の少年・古城宴は、前文明の遺跡から前大戦の超兵器「神格匡体」ハヌマーンを発掘、そのコクピットの中に眠っていた記憶喪失の美少女と出会う。やがて宴は、彼女を守る為、風の白猿神のパイロットとして戦いに身を投じていく……というのがあらすじだ。

 世界観については『戦闘メカ ザブングル』や『翠星のガルガンティア』、あるいは『機動新世紀ガンダムX』なんかを連想してもらえるとわかりやすいだろう(実際、『ガンダムX』への本作からの影響を指摘する声もある)。
 が、もしかしたら、「ロボットものなの?」と不安に思う読者もいらっしゃるかもしれない。ライトノベルでは、ロボットものは鬼門としばしば論じられるから無理もない。

 理由はいろいろあるが、第一にあげられるのは、ロボットアニメは映像ありきで進化したジャンルだという点。「ストライクフリーダムガンダム」だの「GP-03デンドロビウム」なんて複雑な形状のモビルスーツが戦う姿を、絵を使わずに文字だけで伝える困難さ(というより不可能さ)を想像してもらえれば、小説でオリジナルのロボットものをやる難しさはご理解いただけると思う。
 ですが、ご安心ください。そのための「神格匡体」です。

 この本作のメインメカは、その名の通り神の姿を模した超兵器。しかし、正確にはロボットとは言えない。操縦者の想像力を媒介に、巨大な神の姿をした力場を創り出す兵器であり、言わばSF的な巨大スタンド発生装置だ(“神”がモチーフという意味では“巨大ペルソナ”と言った方がより近いか)。
 まさにこれが「映像があってこそ成り立つロボットアニメ」と「すべてが読者の想像に委ねられた小説」を繋ぐ架け橋だ。
 タイトルのハヌマーンを始め、本作にはさまざまな神格匡体が登場するが、そこで生み出される神の姿は一重に操縦者のイマジネーションにかかっている。読者が作中の描写から砂漠に生まれた神の姿を想像するのと同じように、作中の神格匡体の搭乗者たちも、想像によって、巨大な神を顕現させているのだ。

 小説でロボは鬼門と言っても、実際は『ARIEL』に『フルメタル・パニック!』に『機龍警察』と、その困難を克服したヒット作は少なくない。しかし、そうした数々の傑作と比べても、本作の神格匡体という「神の姿を想像することで、巨大人型兵器を創造する装置」という発想は、「ロボットアニメを文字で書く」ことへの最もエレガントな解法だと、筆者は今でも思っている。このアイデアがどこにも継承されていないのは、ライトノベル史における大損失ですよ!

 いや、理屈はいい。
 とにかく、このSFと想像力が生み出した神々の砂漠、スーパー神話大戦をひとりでも多くの人に読んでいただきたくて、筆者はこの原稿を書いている。
 雷神インドラの放つ雷が地を薙ぎ払い、剣神スサノオの草薙の剣が唸る。幻獣キマイラが吼え、女神アプサラスが舞い、空翔る猿神ハヌマーンが滅びの風を呼ぶ。
 そこに、「“属性”を使うよ!」「雷神タイプは……し、神格値5000、相密度6」「化物です。神格値が30000を越えています。現在も上昇中……」なんて感じのセンス溢れる造語が加わるのだから、もういやがおうにも血がたぎるはずだ。

 さらに、本書の魅力は、そんな「神格匡体」の設定とバトルシーンに限定されるものではない。それだけで大賞をくれるほどファンタジア大賞は甘くない。
 何より本作は、完璧な「少年の旅立ちの物語」なのだ。

 砂漠を巡る巨大な空母・箱舟の中で、少年・古城宴は、陰険中年の名で呼ばれる敏腕艦長(カッコイイ後藤隊長みたいな人)や姐御肌の女傭兵、機械整備の師匠といった大人たち、そして気の合う悪友たちとともに、充実した日々を送りながらも、どこかで何かを待ち続けていた。
 そんな彼の前に、遙かな時を超えて現れた「運命の少女」。少年どころか世界の行方さえも左右しかねない危険な謎を秘めた少女のために、少年は神格匡体に乗り込む。それは、未熟な少年にとってあまりにも巨大な力であり、しかも白き神は、みずからの意思を持って少年を何処かに導こうとする。しかし、もはや後戻りはできない。
 彼はもう守ると決めてしまった。最初の一歩を踏み出してしまったのだ。

 守るべき少女、付き従う巨大で危険な力、支えてくれる仲間たち、見守る大人たち、そしてどこまでも広がる自由な世界と、その先に待つ謎。
 少年の旅立ちに必要なものは、すべてこの一冊に詰まっている。
 こんなにも心が躍る始まりの物語が、他にどれほどあるだろう。

 ……そんな本書の最大にして唯一の欠点は、95年に最初の1冊目が出たきり、現在に至るまでまったく続刊の音沙汰がないことである。
 白猿神ェ……。

 けれど、だからって本書を読まずに済ませてしまうにはあまりに惜しい。本当に。1年ぶりくらいに読み直したけど、それでもやっぱり宇宙一面白い大長編ライトノベルの1冊目ですよ。続編が出てないなんて些細な問題であって、むしろ未完だからこそこんなに面白いわけですよ。それに『機動戦士ガンダムUC』の1話だって、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』だって、一本のお話としてちゃんと面白いじゃないですか。だから、ひとつ、そういうのを観る気持ちで、是非、お読みいただきたい、お願いしますから。

 そんなわけで、本記事をきっかけに、ひとりでも多くの読者が、神々の砂漠に誘われていただければ……そして筆者と一緒に奇跡を信じて続刊を待つ仲間となっていただければ、これ以上の幸せはない。
購入・詳細はこちら
関連作品
12月のベロニカ
12月のベロニカ
著者:貴子潤一郎 イラスト:ともぞ
詳細
神さまのいない日曜日
神さまのいない日曜日
著者:入江君人 イラスト:茨乃
詳細
ライジン×ライジン RISING×RYDEEN
ライジン×ライジン RISING×RYDEEN
著者:初美陽一 イラスト:パルプピロシ
詳細
再生のパラダイムシフト リ・ユニオン
再生のパラダイムシフト リ・ユニオン
著者:武葉コウ イラスト:ntny
詳細
ページトップへページトップへ

本ページの内容は公開時点のものです。書籍の情報(販売の有無、価格、消費税込みか別かなど)について、予告なく変更される場合がありますので、購入内容確認画面においてご確認の上で、ご購入をお願いします。
お得!割引・セール一覧
>>毎日更新!まんがをまとめ・大人買いする大チャンス!
おすすめまんが・電子書籍まとめ!
>>おすすめの新刊・名作・無料まんがを探そう!
最強無料まんが
>> 最強無料まんがはこちらから
このエントリーをはてなブックマークに追加
男性マンガ女性マンガマンガ雑誌ライトノベルキッズ文芸ビジネス・実用雑誌・写真集
電子書籍はeBookJapan