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2016/2/19更新
第19回 オトナになってわかった「ちびくろサンボ」の謎
 『ちびくろサンボ』(文:ヘレン・バナーマン 絵:フランク・ドビアス/岩波書店)。
 このかわいい絵本が、80年代、人種差別表現として問題になり、絶版になり、90年代に別の出版社から復刊した。この問題に関しては、ボクはここでは何も話したくない。ただただ母親が幼かったボクの弟に買い与えたこの絵本の楽しさが、今もまったく変わらないということだけ書きたい。
 ウチにあるのは、昭和41年発行の第15刷。弟が3歳、ボクは8歳だ。弟に、というより兄弟に買ってきたのかもしれない。でも記憶としては弟に買ってきたような気がする。
 この本には子供ながら疑問に思うことがたくさんあった。 クライマックスでトラがお互いの尻尾に食いついて追いかけあって、ヤシの木の下をぐるぐる回り、あまりに早く回ったので溶けて「バタ」になってしまうところ。
 肉が、バターに、なるかぁ?
 毛はどうした。毛の入ったバターやだなぁ。歯は。骨は。血の赤はどうなった。真っ黄色に溶けてるが。もちろん、そっこっがっ、いいんだけどさぁ!
 そして、そのバターをお父さんのジャンボが持ち帰り、お母さんのマンボがホットケーキを作る。
 ボクも当時、ホットケーキは母が焼いたのを食べたことがあるが、バターは最後にひとかけのせるだけだ。
 ところが、この本では、ジャンボが持ってきたトラのバターを見るなり、マンボが大喜びして、
「さっそく、ほっと・けーきをこしらえて」
と言う。大量のバターを見て、すぐさまホットケーキを作ろう、と思うか?
 ボクは今まで、マンボがバターでホットケーキを作ったのかと思っていて、それはおかしい、ヘンだ、とずっと思っていた。
 今日読み返してわかったのだが、この本ではマンボが「こなと、みるくと、おさとうをまぜて、とてもおいしそうな ほっと・けーきを おさらいっぱいにつくりました」と書いてある。それをトラの「ばたであげる」と書いてある。
 バターは揚げるのに使ったのだった。
 うちの母はホットーケーキを油であげるなんてことはしなかった。うちで使っていた「ホットケーキミックス」の作り方にもそんなことは書いてない。
 揚げてしまったら、なんか別の料理になるような気がする。餃子と揚げ餃子より違いそうだ。
 できたホットケーキをマンボが27枚、ジャンボが55枚、サンボは196枚食べたという。食い過ぎ。無理。そもそもそんなに食うことを想定して、マンボは作ったか?そんなにミルクあったか?小麦粉と砂糖は仮にあったにしても。
 でもこのあまりにも大量に食べたというエンディングは、子供にとってすごく嬉しかった。人が信じ難い量をみるみる食うというのは見ていて逆に胸が空く。大食いチャンピオンを見る嬉しさだ。
 バター化してしまうトラは、会うたびに「ちびくろ・さんぼ!おまえを たべちゃうぞ!」と言う。人の言葉を喋ってるのはご愛嬌だが、食いたいなら黙って食えばいいのに、宣言してから食べるというのもおかしい。しかも、サンボの名前も知ってるし。ここのところは、歌の「森のくまさん」の歌詞にも似た矛盾だ。
「くまさんの いうことにゃ はやぁく おにげなさい」。熊自らが、早く逃げろ、じゃないと俺はお前を襲うぞ、と言っている。ご丁寧過ぎ。熊、自覚のある情緒不安定。小学校の時から、ヘンだと思っていた。
 サンボは着ていたシャツ、ズボンを2匹のトラにそれぞれあげて、難を逃れる。
 だが3匹目のトラに紫の靴をあげるというと「おまえのあしは、二ほんだが、おれさまのあしは、四本だ」から何の役にも立たない、と言う。サンボ、ピンチ。だがサンボ、機転を効かせ、
「みみに はけば いいですよ」
と言う。耳に履く。ありえん。サンボの妙に大人びた落ちつき払ったような言葉遣いもヘン。ところがトラ、
「な、なるほどね」
だって。まさかの対応。トラ、馬鹿すぎ。これには笑った。威張ってる乱暴者なのに、馬鹿。
 4匹目のトラはちびくろ・サンボの緑の傘を命と引き換えに奪う。しかし、絵を見るかぎり、この日のジャングルはいい天気だ。サンボはなんで傘をさしていたんだろう。こんな子供が日傘かよ。
 このように矛盾や疑問を孕みながら、どんどん展開する物語は僕らの心を捉えて離さなかった。文章には一切登場しないのに、絵には尾長ザルや南国の鳥が描かれている。ジャンボのパジャマみたいな赤黒チェックのズボンや、吸っているパイプ(コーンパイプっぽい)もおしゃれだ。
 この本の英語オリジナル版ものちに手に入れた。作者のヘレン・バーナマン自身が描いたサンボはもっと長髪で、チリチリのアフロではなく、ジェームス・ブラウンみたいな髪型で、最初見たとき「キモチワルイ……」と思った。
 でもそれもそのはず、元々はインドが舞台の話なのだ。サンボ、インド人。だからトラが出てくる。アフリカにはトラ、いない。この辺は各国版が出るときいろいろ勝手にアレンジがなされたようだ。そういうところも、差別だとか蔑視だとか問題になるのだろう。でもそういうことはいつの時代にもある。問題がない翻訳なんて、ないのだ。
 でも見ているうちに、ジェームス・ブラウンサンボも大好きになった。やっぱり本人のオリジナル画には力がある。音楽と一緒だ。バンドでヒットした曲を、オリジナル作曲者がギターの弾き語りしたバージョンに妙な説得力がある。
 でもそれはそれとして、いろいろ問題になった岩波書店版の、この自由でのびのびしたお話、言葉遣いがボクは大好きだ。フランク・ドビアスの絵もとてもかわいい。
 なお、ボクの持っている岩波書店版には2話目も入っていて、それもまあまあ面白いが、今読むとちょっと普通だ。トラがバターになるような、ぶっ飛んでいるところがない。そして、絵を描いているのが、ここから日本人の岡部冬彦と知った。ドビアスの絵柄を模倣しているが、猿の顔やワシの顔、表情が日本人のマンガ的だ。ちょっと子供に媚びていて、やや教条的臭みがある。ボクは、この部分は全部破り捨てて、墓場に持っていくかもしれない。
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