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2015/12/18更新
第16回 清志郎の魂を感じるぜ!
 ボクがとにかく一番好きな歌い手は忌野清志郎だ。あえて「さん」はつけないよ。その方がカッコいいから。さん付けはダメだ。いい人、「尊敬に値する人」になってしまう。尊敬される人より、「カッコいい奴」の方がロックンローラーにはふさわしい。「さん」なんかもったいぶってて邪魔だ。
 アントニオ猪木は「イノキ」と年をとっても呼び捨てにされるが、ジャイアント馬場はいつの間にか「馬場さん」になった。
 ビートたけしもいまだに「たけし」と呼び捨てにされるが、タモリはゆるやかに「タモさん」になっていった。
 さん付けされる方が長持ちする生き方だ。呼び捨てられる人は、いつもどこか自分を追い込んでいなければならない。でもそういう人の方が、やっぱりカッコいいのだ。忌野清志郎は最後までカッコよかった。いい人には違いないんだけと、とんでもないヤンチャもできるのだ。
 そしてボクは忌野清志郎の歌詞が世界一好きだ。それは、矛盾するけど、まったくカッコつけてないからだ。耳触りのいい英語なんか混ぜてごまかしたりしない。意味が分かりづらい難しげな歌詞にしたりしない。いつもシンプルで、ストレートで、言いたいことがハッキリわかる。ひとつとして無駄な言葉がない。どの一行もちゃんとわかりやすくて、心に響く。きれいな歌詞を書く人はいるけど、日本語でこんな歌詞を書く人は他にいない。そしてもちろんリズミックで、メロディとひとつになるとさらにメッセージが強固になる。
 『瀕死の双六問屋』はそんな忌野清志郎が雑誌に隔週連載していた文章だ。他に「エリーゼのために」という歌詞や詩が中心の本もあるが、文章のテンポと切り込みの鋭さとユーモアは断然この本だ。多分時間がない中で、締め切りに追われ、時に書き飛ばすように書いたからだろう。清志郎が生まれつき持っているリズム感、言語感覚がむき出しになっているし、なにより、読んでいて面白い。エッセイのようになったり、小説のようになったり、フィクションとノンフィクションがないまぜになっている。だがどの一行をとっても忌野清志郎以外の何者が書いた文章でもない。スゴイことだ。文章がロックンロールしている。
 はっきり言って今回のボクのこの文章は、そのテンポに完全に影響を受けている。そういうことってあるもんだ。感化されてしまうのだ。音楽も文章も結局は数値化できない「ノリ」だ。
 まず文章がカッコいいのは、怒りがあるからだ。生温い世間に対する怒り、苛立ち。それがないものはロックではない。カッコいい奴は自分を追いつめているから、金持ちや政治家がふんぞり返っているのが耐えられないのだ。彼らの言いなりになって黙っている大衆にガマンならないのだ。 「親は何をしてやがんだ。ガキのメンドーも見れねえのか、ふざけやがって。世の中には親のいない不幸な星の元に生まれた子供だっているんだぜ。世間のブヨブヨの奴らはガキには必ず親がいると思っているが、そうじゃない子供達がたくさんいるんだ。ブヨブヨの君達にはわからないだけさ」
 最高だ。一行目の「やがんだ」がまずいい。「いやがるんだ」よりも「やがるんだ」よりもシャープだ。速い。それが「ブヨブヨ」という言葉をより強調させている。「不幸な星のもとに生まれて」というのはそういうタイトルのブルースから取っている。清志郎は一瞬たりともブルースを手放さない男だ。
「昔のことなら笑いながら話せる。だって本当に楽しいことばかりだったからな。未来のことなら笑いながら話せる。だって夢のようなことを実現できると思うから。でも今の気持を聞かれたら、僕はつまらないことしか言えない。ずっとそうだった」
 全くその通りだ。この未来の部分も出そうで出ない。本物の希望を知っている。そしてそう言い切れる自分を信じている。この文章の終わりは「さあ、笑わしてくれよ、ベイビー」で終わる。まったく舌を巻くような切り返しだ。安全地帯からふむふむなんて読んでいる者に「で、お前はどうなんだ」と振り向きざまに刀を突きつける。
 ところが、次の章を読むと、その始まりはこうなっている。
「『俺を笑わせてくれ』と言って騒いでいた男が警察官に連れて行かれるところを見た」。
 ハハハ、ゴキゲンじゃないか。こういうユーモアを忘れないところが清志郎だ。自分に溺れていない。いいミュージシャンだからだ。いい演奏家は自分がソロをとっている間も、常にバックの音を聞いている。だからいつも自分を道化にして、人を笑わせるゆとりがある。自分の歌や演奏に陶酔しているミュージシャンが多過ぎる。彼らは運良く出てきても必ず消える。
 清志郎が怒っているのは、当たり前だけど君を愛しているからだ。愛しているから、怒っているのだ。そこがただのパンクや反抗坊やと違う。愛しても愛しても愛し足りないのは世の中が間違っているからだ。「クソッタレ!」でおしまいの甘えん坊パンクでも「君を守りたい」とか言いながらそれ以上の言葉が出てこないクズポップスとは次元が違う。それはそんなツマラナイところから歌詞が出てるんじゃなく「君を愛している」という魂の底から選び抜かれたメッセージであり、ラヴソングなのだ。「え、君って誰」なんて寝ぼけたことを言っているヤツは、もう少し愛するってことを考えた方がいい。
 外国人の記者に「なぜパンクにして歌った君が代の最後にアメリカ国歌が出てくるのか?」の質問に返した答えもスバラシイ。「ジミ・ヘンドリックスを尊敬しているからだ」。ふざけているようで、音楽の本質をついている。音楽も絵画も、あらゆる素晴らしい芸術は、本来、何にも属していない。作品そのものが独立しているのだ。ジミヘンが「星条旗よ永遠なれ」を爆音で演奏した時、曲はアメリカ国歌とは全く別の音楽に生まれ変わったのだ。人は意味、意味、意味で整理したがる。芸術は整理を拒否する。
 この文章には必ず一枚のアルバムか一曲が付いていて、文章は必ずそこに少しだけかけてある。そこもできそうで難しい芸当だ。それも全部で四十三話。もちろん現役バリバリ時の連載だから出したばかりの自分のアルバムも出てくるが、ほとんどがロックやソウルの不朽の名盤で、ちょっと付いている清志郎の解説を読むと、無性に聞きたくなる。ミュージシャンとして、それらのアルバムを本気で聴き込んだのがビリビリ伝わってくる。ボビー・ブランドの白いジャケットのアルバムに「与作」にそっくりな曲が入っている、なんて書いてあると、探し出して聞きたくなるじゃないか。
 さらにこの本には清志郎の味のある絵やヘンな四コママンガもいっぱい入っているのがボクには嬉しい。本人が本業でないから思い切り楽しんで描いているのがわかる。絵描きには描けない絵だ。子供のようにチャーミングな絵だ。
 忌野清志郎は死んでしまったけれど、この本を残してくれた。ボクはこの本を読み返しては、魂を洗われ、笑いとともに勇気と愛を受け取る。ちっとも古びない。魂を感じる。「では失礼する。ボクはキミのそばにいる」。
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