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2015/9/04更新
第9回 これぞ、ロックンロールな絵本!
 長新太の絵本は、もう大好きだ。全部好きだ。
 一番好きなのは「どろにんげん」。
 長新太の絵本の中で、というより、日本の絵本の中で、一番ロックンロールな作品だと思うだと思う。
 タイトルからして「どろにんげん」だ。ぶっ飛んでる。前ぶれ無しに、いきなり土の中から出てくる。エレキギターを爆音でガーンというイントロだ。
 「どろにんげんというおばけです」。有無をいわせない。
 そして、すぐ海からタコが出てくる。
 どうなるかと思うと、巨大なサツマイモを、どろにんげんとタコは我がものにしようと、引っ張り合う。
 空も地面もピンク。超サイケデリック。
 が、やがて二人は協力して芋を運ぶ。
 「どんどん どんどん いくんだ」
というどろにんげんが言う言葉が、ロックしている。ニール・ヤングが歌ったら、
“Rock'nRoll can never die”
となるところだ。
 どんどん行く先はなんと火山だ。
 巨大サツマイモを火山の噴火口に渡して、巨大な焼き芋を作ろうという、これまたドラッグがドンぎまりしたようなアイデア!「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」みたいじゃないか。
 その時の火山の「ごぉーっ!!」という叫びはどんなロックンローラーのシャウトもかなわない。
 ふたり(?)はできあがった焼き芋を全部食べて、まりのように丸くなって「ごろごろ ごろごろ かえろう」という、これまたものすごいグルーヴ感あふれる大団円だ。  長新太さんには「ゴムあたまぽんたろう」とか「きゃべつくん」とか「ごろごろにゃーん」とか最高なのがいっぱいあるけど、ミュージシャンとしては断然ダントツに「どろにんげん」が好きだ。
 だが。墓場に持っていくのは、この本ではない。「どろにんげん」は、最高のロックンロールとしてボクの胸に響き続けながら、ボクは息を引き取るだろう。でもボクが長新太の本で死んだあとも、時々墓場の中でそっと開きたいのは「ちへいせんのみえるところ」だ。
 ボクはこの本に二十歳のとき出会った。そこが肝心だ。1978年にこの絵本は出版され、ボクは書店でこの本を手に取った。そして、めくって、そこに立ったまま、未曾有の読書経験をした。
 この衝撃は「どろにんげん」をも凌駕するものだ。ページをめくるごとに、ボクは打ちのめされ、混乱し、ついにボクの中の見えない常識の壁が音を立てて打ち破られるのを聴いた。
 タイトルが素晴らしい。「ちへいせんのみえるところ」。一行詩のようだ。それだけで、どこか遠くへ連れて行かれるようだ。日本にはなかなか無い場所だ。
 扉には水色に黄色い草が一面に描かれた地平線がある。ほとんど同じような水色の空。だが青空とも曇天とも見える、少し不安になる青だ。ゴッホの遺作と言われる「烏の飛ぶ麦畑」に通じるような空だと言ったら思い入れが強すぎるか。黄色い線で描かれた草原は麦畑にも見える。
 これをめくると、見開きの草原の真ん中に男の子の顔だけが小さく現れ、
 「でました。」
と書いてある。それだけだ。何だろうこれは。
 わけわからないまま、ページをめくると、同じアングルで地平線が描かれ、子供が顔を出した場所に、今度は象の顔が現れていて、
 「でました。」
とまた書いてある。めくると、氷が出現し、そこにペンギンがのっていて、
 「でました。」
めくると、エイが海からジャンプしたように現れていて、 「でました。」。
唖然とするしかない。さらにいろんなものが出てくる。それが街だったり、飛行船だったり、豪華客船だったり、どんどん突拍子もないものになっていく。
 だが「でました。」というフレーズの繰り返しから立ち上るユーモアは、「シュール」という大人特有の知的理論をはねのける。「でました。」はそれ以上でも以下でもない。
 ボクがこの本が心から好きなのは、「面白さ」が文学や絵画といった芸術の鑑賞者がありがたがる「知的好奇心の満足」に勝つところだ。ただ面白い。ただ面白いだけ。それを作るのは難しい。
 長新太はよく「ナンセンスの神様」みたいに言われる。あのフレーズが大嫌いだ。どうもインテリが長新太が手に負えないので、そういうレッテルを貼って自分を守っているような気がしてならない。「ナンセンス」でくくろうとしても、この本は「でました。」と言ってどこまでも逃げていく。
 絵本に話しを戻すと、いろんなものが地平線が見える風景に現れるが、突如なにも現れないページが出てくる。そしてそこには「でません。」とは書いてない。出ないのだから「でました。」は無いのだ。この沈黙がまた面白い。
 そしてまた次のページをめくると「でました。」。何が出てくるかは、馬鹿馬鹿しいので、ここには書かない。ちゃんと面白いものが面白いように出てくる。
 この本に落ちは無い。時間も空間も超えて「でました。」というワンフレーズがリフレインされ、突拍子も無いものが「出てくる」面白さだけがある。まるで、生も死をも超えるような面白さだ。というわけで、ボクは死んだら、あの世に「でました。」と登場したいので、この本を墓場本にしたいのです。
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