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漫画サンデー七転八倒記

上田康晴(うえだ やすはる)
●1949年生まれ。1977年、実業之日本社に入社。ガイドブック編集部を経て、1978年に週刊漫画サンデー編集部に異動。人気コミック『静かなるドン』の連載に携わる。1995年に週刊漫画サンデー編集長、2001年、取締役編集本部長、2009年、常務取締役を歴任し、2013年3月に退任。現在、フリーのエディター。
Act.16 あすなひろし
 「週刊漫画サンデー」4代目編集長・Tは、まだ30代前半の若き編集長だった。その若き編集長を支えるべく私は漫画編集部に異動になった、と当初うぬぼれていたが、「期待しての異動ではなく、ただ若いというそれだけみたいよ」とある先輩が親切にも耳打ちしてくれた。最初はそれを聞いたときがっくりときたが、自由でエネルギッシュな編集部の雰囲気はやる気を起こさせた。この雰囲気は、ガイドブック編集部にはなかったものだ。
 はじめに小島功氏の担当を任された。小島氏の連載『コオ釈 西遊記』は4ページのナンセンス漫画だった。私が担当するころには、毎週の締切日はきちんと守られ、苦労することはなかったが、先輩の編集者によると、「以前は何日も小島功宅に泊まり込み原稿を取った」という話をよく耳にした。ここで私は、他社の漫画編集者との交流を持つことができた。特に小学館のビッグコミック系や芳文社の担当編集者は、小島邸によく出没していた。酒が好きで、にぎやかなことが大好きな彼らにとって小島邸は格好の場所。それは情報交換の場でもあった。
 まだ漫画雑誌のなんたるかを知らなかった私には、小島功氏というベテランの漫画家を担当したことで、こうした交流が後に編集者として大変に役立った。
 T編集長は、編集者個人の感性に期待していた。基本的には、自分が面白いと思った漫画を持って来い、との方針だった。個人の熱い思いがヒット作を掘り当てると信じてのことだった。そんな編集長の期待に応えるべく、東奔西走したが、なかなかいい作品には巡り会えなかった。本当に自分が好きな漫画はなんだろう?と自問自答してみた。「あすなひろし」の漫画を好んでよく読んでいたことを思い出した。


『あすなひろし作品集』©あすなひろし
 あすなひろし(1941年―2001年)の漫画との出会いは、「週刊少年チャンピオン」に連載されていた『青い空を白い雲がかけていった』だったと思う。ずいぶん昔の話である。やたら楽しく明るいタッチなのに、なぜか寂しさが残る漫画だったのを憶えている。そこがまた魅力だった。コピーライターの糸井重里氏が、あすなひろしの漫画を「真昼間の悲しさ」と評していたが、言い得て妙である。
 よし、あすなひろし氏に描いてもらおうと意を決し、地図を頼りに私はあすな氏の住む神奈川県は葉山を訪ねた。事前に電話は入れてあったが、いざ訪ねるとなると不安だった。ファンとはいえ、サインをもらうのとは違って仕事の依頼である。どんな人物かもまだわからない。
 玄関に現れた人物は思いのほか身体の大きな人だった。あすなひろし氏本人だった。その身体の大きさとは反対に物腰は柔らかく、漫画の雰囲気同様に優しさがにじみでていた。それに安心し気をよくした私は、あすな漫画の素晴らしさ、また漫画サンデーにはなくてはならない漫画であることをとうとうと喋った、と思う。あとで考えると喋りすぎだったかもしれない。
 後日、長文の手紙が届いた。
 漫画に対する私の情熱には感心したが、漫画サンデーに描く時間的余裕がないことをはじめ、描けない理由がいくつか丁寧に書かれてあった。なぜ私が訪ねた時に、そのことを言ってくれなかったのか、と思ったが、あえてその場で言うのは遠慮したのかもしれない。あすな氏のやさしさである。
 ただ、いずれ条件・環境が整えば一緒に仕事をしたいといった旨のことも書き添えられてあり、それがせめてもの救いであった。
 結局、あすな氏と一緒に仕事をする機会は訪れなかったが、その直筆の手紙はしばらく大事に保管していた。しかし、社内の異動が繰り返されるうちに紛失してしまったようだ。それだけが今でも悔やまれる。
 このころ、漫画以外に記事ページもまかされた。とにかく、若いというだけでいろいろな仕事が飛んできた。
 この当時は現在のDTP(デジタル印刷)とは違って、活版印刷(鉛でできた文字を組み合わせで、凸の部分にインクをつけ印刷する)で、すべてアナログ、パソコンなどない。割り付けから写真のトリミングとすべて手作業、たった2ページの記事ページに悪戦苦闘していた。組版の初稿で行数が1行でもはみ出ていたものなら、大日本印刷出張校正室で校了作業に追われている上司から、「バカうえ」と怒鳴りの電話がかかってきた。この辺の話は次回に。


ACT.17へつづく

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