レビュアー種別
  • レビュアー種別
表示形式
  • 表示件数
  • 表示順

1~25件/2130件 を表示

  • すごいタイトルが気になって読みました。一見ほっこりする絵なのに、セリフをよく読むと「!?」となるシーンの連続。「ユーチューブで楽して大金をGETしてオマエを大学に行かせてやれたらと思ったんだが…」という不穏なセリフから始まる「おじいちゃん、ユーチューバ―やめて。」など…。
    あとがきを読んで知ったのですが桜玉吉先生のアシスタントをされていた方で、色々あってこの本を出すまでに10年以上のブランクがあったとのこと。その間何をしていたか、なぜ戻ってきたか、そして関係者への謝罪にあふれた鬼気迫るあとがき。作品のユルいシュール感とのギャップがすごいです。僭越ながら応援させていただきたい作家さんです。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月24日
  • 『干支天使チアラット』が実写化とのことですが、どうしてもカズヤを先にレビューしたく…。
    オマージュネタが衝撃的すぎてもはや禁書です。どこかで見たことのあるキャラ、人が衝撃としか言いようのない内容がまさかの452ページという大容量で迫ってきてトラウマ級。しらふで読むと怖いのですが、どうしようもないくらい疲れたりやさぐれたりした時に読むと、不思議と元気が出るんです…。
    暴力と下ネタとそっくりさんネタばかりなのに、時折挟まる「異常だって 慣れちまえばただの日常だ」といったセリフはやけにかっこよくてしびれます。最低で最高です!!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月24日
  •  イーブックジャパンのオフィスは、かつて“カルチェラタン”と呼ばれたこともある大学の町、お茶の水の一角にあります。最近この界隈で目立つのが黒の就活スーツに身を固めて行き交う女子大生の姿です。つい先日までは思い思いのファッションをまとって闊歩していた彼女たちが、「仕事」を求めて判で押したような黒の“制服”で足早に町をゆく。「個性」を消して会社に入った先に何が待ち受けているのでしょうか。

     過酷な長時間労働の果てに生きる意味を見失った「新型うつ」が中高年層だけでなく、若い世代の間でも急速に拡大しているという。人類はこれまで、〈空腹だからと食糧を求めて動き、危険だからと安全なところに逃げ込む〉という虫と同じ行動原理「ハングリー・モチベーション」で駆け抜けてきました。しかし「飢え」が克服され、「ハングリー・モチベーション」の時代が終焉に向かっているにもかかわらず、人々はこれまでと変わりなく「ハングリー・モチベーション」に突き動かされて暮らしています。そこに現代人の「心」の危機の淵源がある――精神科医で精神療法を専門とする泉谷クリニックの泉谷閑示(いずみや・かんじ)院長は訴えます。

     近著『仕事なんか生きがいにするな』(幻冬舎新書、2017年2月1日配信)で著者の泉谷院長は、いまから137年前の1880年に発表されたパロディ作品を紹介しています。日本ではあまり知られていませんが、マルクスの娘婿のポール・ラファルグという社会主義者が著した過激な書『怠ける権利』(平凡社、2013年12月27日配信)収録の「資本教」で、資本主義に翻弄される労働者を痛烈に皮肉った風刺は現代社会の病根をも見事に言い当てているように思えます。

    〈問い──おまえの名はなにか。
     答え──賃金労働者です。〈中略〉
     問 ──おまえの宗教はなにか。
     答 ──「資本教」です。
     問 ──「資本教」はおまえにどのような義務を負わせているか。
     答 ──主要な二つの義務、つまり、権利放棄の義務と労働の義務です。〈中略〉
     幼年時代から死ぬまで、働くこと、太陽の下でもガス燈の下でも働くこと、つまりいつでもどこでも働くことを、わたしの宗教は命じます。〈中略〉
     問 ──おまえの神、「資本」は、おまえにどのような報いを授けるのか。
     答 ──いつもどんな時にも、妻や幼い子供やわたしに仕事をくださることによって。
     問 ──それが唯一の報いか。
     答 ──いいえ。畏敬すべき僧侶や選民が常食にしている肉や上等の食糧を、われわれは食べたことがなく、今後も口にすることはないでしょうが、それらの旨そうな陳列品を目で味わうことで飢えをみたすのが公認されております。〈中略〉選ばれたお歴々が、われわれのものにはならぬすばらしいものを享受しているにしても、それらがわれわれの手と頭脳の産物だと考えると、わたしたちは誇らしい気持になります。
    (『怠ける権利』「資本教二 労働者の教理問答」より ポール・ラファルグ著 田淵晉也訳)〉

     いつでも、どこでも働き続けることが義務として課せられているというのですが、その姿は、現在の私たちの状況に重なっているといったら、言い過ぎでしょうか。著者はこう書いています。

    〈今日われわれは、奴隷制を基盤に成立していた古代ギリシヤ市民のような暮らしができるはずはないし、もちろん倫理的にもすべきではありません。しかしながら、その奴隷制の代わりとなるべく機械化や情報化がここまで高度に実現されたにもかかわらず、人々は一向に〈労働する動物〉状態から解放されることなく、むしろあべこべにIT機器の奴隷のように長時間「労働」に従事させられているという、かなり本末転倒な状況に陥っているのです。〉

    〈IT機器の奴隷のように長時間「労働」に従事させられている〉と感じたことはありませんか。誰でも一度や二度、深夜ひとりでPCの液晶画面を見つめ、キーボードを叩いている時、〈自分はIT機器の奴隷か〉そんな思いが胸をよぎったことがあるのではないでしょうか。
    「労働」によってほとんどが占められるような生活は、決して人間的な生活とは呼べません。精神科医としてそう考えてきた著者が注目している存在があります。夏目漱石が描く「高等遊民」――たとえば小説『それから』の主人公代助です。著者は、代助と親友の平岡との会話シーンを引用して、次のように指摘しています。

    〈「君は金に不自由しないから不可(いけ)ない。生活に困らないから、働らく気にならないんだ。要するに坊ちゃんだから、品の好い様なことばっかり云っていて、──」
     代助は少々平岡が小憎らしくなったので、突然中途で相手を遮(さえ)ぎった。
    「働らくのも可(い)いが、働らくなら、生活以上の働(はたらき)でなくっちゃ名誉にならない。あらゆる神聖な労力は、みんな麺麭(パン)を離れている」
    〈中略〉
    「つまり食う為めの職業は、誠実にゃ出来悪(にく)いと云う意味さ」
    「僕の考えとはまるで反対だね。食う為めだから、猛烈に働らく気になるんだろう」
    「猛烈には働らけるかも知れないが誠実には働らき悪いよ。食う為の働らきと云うと、つまり食うのと、働らくのと何方(どっち)が目的だと思う」
    「無論食う方さ」
    「それ見給え。食う方が目的で働らく方が方便なら、食い易(やす)い様に、働らき方を合せて行くのが当然だろう。そうすりゃ、何を働らいたって、又どう働らいたって、構わない、只麺麭が得られれば好(い)いと云う事に帰着してしまうじゃないか。労力の内容も方向も乃至(ないし)順序も悉く他(た)から制肘(せいちゅう)される以上は、その労力は堕落の労力だ」

     ここでは、ハングリー・モチベーションを真正面から主張する平岡に対して、代助は「働くこと」に関する自説をとうとうと述べています。「食う方が目的で働らく方が方便なら」そのような仕事は決して誠実なものではないだろう、というのが彼の主張です。つまり、代助にとって働くこととは、「麺麭を得るため」のものではないのです。先に紹介した「人はパンのみにて生くるにあらず」と言ったキリストと同様、ハングリー・モチベーションで働くようなことは精神の堕落であり不純である、と代助は考えているわけです。〉

    〈働くこととは、パンを得るためのものではない〉〈ハングリー・モチベーションで働くようなことは精神の堕落であり不純である〉と考える小説『それから』の主人公代助=高等遊民に対し、現在の資本主義経済のもとでは多くの人々が〈食うために働くのだ〉と考えています。漱石は、代助の親友・平岡にそうした世間一般の考え方を代弁させているのです。〈働かざるもの食うべからず〉という言葉は、もともと聖書に起源がありますが、いまでは資本主義社会の基本的考え方としてキリスト教文化圏の枠を越えて世界で広く共有されるようになっています。そうした考えが世界中に拡がっていった過程について、本書にはマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫、2013年4月12日配信)が始まりだったという興味深い指摘がありますが、ここではこれ以上触れません。

     問題は、〈わが国には、資本主義が輸入されたと同時に、知らず知らずのうちに、「労働」に禁欲的に従事すべしという「資本主義の精神のエートス」までもが輸入されていた〉ことにあると、著者は言う。このような禁欲的労働観を背景に、人々の仕事は質の次元を離れて、量でしか計れない「労働」が支配的となってきたというわけです。

    〈この「量」的に傾斜した価値観は、物事に最大限の効率を求めるようになり、ロジカルな戦略を立てて物事に取り組むスタイルを生み出しました。明確な目標設定、その実現可能性やリスクはどの程度で、勝算はどの程度見込めるのか、それに投入するコストはどこまで最小限にできるのか等々、人間の「頭」の算術的なシミュレーション機能を過大に評価した考え方が、子供の勉強から大人のビジネスまで、果ては「ライフプランニング」という言葉も登場するほどに、人生のあらゆる局面までも支配するようになってしまったのです。
     この一見合理的に思える方法論には、致命的な欠陥があります。〉

     残業時間の規制について、繁忙期など特別な場合の上限を「月100時間未満」とする案を政労使がまとめました。月100時間の残業は、労災認定の目安とされる「過労死ライン」ぎりぎりで、過労死で家族を失った遺族は今回の案に強く反対しているという。
    「上限」を設けることに意味がないとはいいません。大事な一歩であることも否定しません。しかし「働き方改革」の問題が、労働の「量」をコントロールすることによってすべて解決できるとは思えません。

    〈量の次元になってしまっている種々の「労働」を、「仕事」という質のあるものに移行させていくことを、これから私たちは真剣に考えなければならないのです。
     人間らしい「世界」を取り戻すためには、儲かるとか役に立つとかいった「意義」や「価値」をひたすら追求する「資本主義の精神のエートス」というものから各々が目覚めて、生き物としても人間としても「意味」が感じられるような生き方を模索すること。この狭き道こそが、これからの私たちに求められている課題であり、希望なのです。〉

     卒業、就職、異動・・・・・・新しい生活が始まる春。「心」の問題に直面する人々を間近に見つめてきた精神科医が“現代日本の病理”を解析し、“生きる意味”――“生きる意義”ではなく――を再考した『仕事なんか生きがいにするな』。自分が今どこにいるのか、何をしたいのか、この先どこに向かえばいいのか迷った時、まず手にとってほしい一冊です。(2017/3/24)
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年03月24日
  • 冒頭のくだんのくーちゃんがなんとも可愛いので立ち読み部分をぜひ読んでいただきたいです…!
    色々な妖怪たちが珍しい動物くらいの存在としてなじんでいる世界。カッパや人魚、心を読むサトリ、優秀なヒトを選んで現れる麒麟児などなど、色々な妖怪が人を困らせたり、動物園の名物になったり。静謐なタッチで描かれる妖怪たちに、ファンタジーなのに現実のように感じてワクワクします!くすっと笑えて気持ちが暖かくなる素敵な作品です!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月24日
  • 他人に分かってもらえない、自分だけのフェチズムってありますよね…。手フェチ、スーツフェチくらいまでは分かる~!と共感しつつ、ムダ毛フェチ、ぬいぐるみフェチ、経産婦フェチ、後期高齢者フェチ…などディープになってくると何それ!?という怖いものみたさで気になります……。作中何度も出てくる「こんなん全然普通ですって」「いや変わってるよー」というやり取りに参加したくてウズウズしました。読後はお酒を飲みながら親しい友達に「あれっていいよね…」と語りたくなること間違いなし!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月24日
  • バリキャリ弁護士女子が冴えない離婚調停中男子に本気になってしまったら!?
    働いて稼いで遊んで、男なんていらないと豪語するアラサー弁護士カホリ。ひょんなことから一夜限りの関係のはずだった冴えないメガネ男子に惚れ込まれてしまうのですが、なんと既婚者。妻は探偵を雇っているようだし、不倫中の弁護士なんて触れ回られたら仕事場にも迷惑がかかる。なのに会いたいと縋ってくる男をうっかり「ちょっとカワイイ」と思ってしまい…!?というお話。不倫モノですがドロドロしていなくて、カホリを始め美貌もお金もある女の子達のストレートな物言いがキビキビしていて気持ちがいい!ハイテンションなラブコメです!
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年03月24日
  • 「もし私の好きな人が女の子だったらどうする?」友情も、初恋も、片想いも、両想いも、色々な「好き」が様々な形で交錯する、ほろ苦いガールミーツガール。2009年にアニメ化もした作品です。
    とても繊細な心理描写で、ああ思春期の片思いって一番楽しかったな…と瑞々しい女の子たちを見て思い出しちゃいます。最終話のふみちゃんのモノローグは何回よんでもうるっと来てしまう…。鎌倉や江の島特有のゆったりした空気感も素敵で、聖地巡礼に行ったくらい個人的に大好きな作品です!!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月24日
  • 外見にコンプレックスのある明子と、美人だけど意思表示が苦手でなまな。ある日二人が入れ替わってしまい…!?
    入れ替わる当人がアラサーどうしのため、なかなかエグいです。「『ブス』という言葉には呪いがかかってる『おまえなんか誰からも選ばれないぞ』って呪い」というセリフはぐさりと来ました…。一方で美人だけど内面の未熟なまなが苦労する場面もあり、どちらにも共感。女子が一度は感じたことのある美醜のモヤモヤが詰め込まれていて、でも最後は勇気をくれる作品です!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月24日
  • 今!大注目のこちらの作品。『あとかたの街』のおざわゆき先生の最新作なのですが、えらい!(すみません)といいますかよくぞこのテーマをお描きになってくださった!って感じです。主人公のまり子さんは80歳の小説家。いままでこの年齢の方の気持ちをここまで考えたことがなかったです。確かに自分も20歳の時、40歳になった時の自分、50歳になった時の自分の「気持ち」を考えたことなかったです。こんな暮らしをしてるかな~?とか状況のことは考えてましたが、何歳になってもなんと言うか「ベースの自分」は変わらないよなと思わせてくれました。だけど年齢が周りの状況を変えていってしまう…。体も思ったように動かなくはなってくる…。考えさせられるのですがすごく前向きにもなれる、そしてまり子さんを応援したくなる、本当にとっても素敵な作品です!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月17日
  • ガッキーと星野源主演のドラマが大ヒットした、逃げ恥こと『逃げるは恥だが役に立つ』。就職としての結婚、契約結婚。そしてそこから始まる夫婦生活を鋭くそしてコミカルに描くストーリーが話題となりました(ガッキーと星野源の破壊的なかわいさも)。家事の分担や夫婦のお金の問題などなど、みんながなんとな~くモヤモヤしてることもきちんと話し合い解決していく2人(とその周りの人々)に、うらやましい!共感した!という人も多いのでは? 私は原作を読んでからドラマを見ましたが、もちろんドラマを見てから原作を読んでも楽しんでいただけると思います! 映像化される際にありがちな、原作と全然違う!なんてこともなく、唯一違うと言えば原作ではクールな感じだったみくりが、ドラマではとてもかわいらしく感じられたところでしょうか。言っていることやっていることは同じでもこんなに雰囲気が違うんだ…!と映像化の威力(?)を感じたドラマでしたね。最終巻には百合ちゃんと風間さんのその後を描いた番外編も収録されていて、こちらも逃げ恥らしく、地に足のついた納得のラストでした!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月17日
  •  南スーダン派遣の陸上自衛隊部隊の撤収を発表した安倍晋三首相は、記者団を前にしたその発言を「日本から遠く離れた灼熱(しゃくねつ)の地にあって、立派にその任務を果たしてくれている隊員たち一人一人に、そして隊員たちを送り出してくれた家族の皆様に、自衛隊の最高責任者として心から感謝申し上げたい」と締めくくりました(「朝日新聞」3月11日付け朝刊より)。
     最初にテレビのニュースでその発言を耳にしたとき、「なんか、変だな」そう感じた。翌朝、新聞で文字化されたその発言を読んだとき、前夜の「変だな」の意味がわかった。「自衛隊の最高責任者」が、「心から感謝」するのは、自衛隊員が派遣されたのが「日本から遠く離れた灼熱の地」だったからではないはずだ。派遣部隊の日報に「戦闘」と記載された「戦乱の地」に赴いたことに対してこそ、自衛隊最高責任者である安倍首相は感謝すべきだし、それが自然なことではなかったか。稲田朋美防衛相が「法的な意味での戦闘行為はなかった」という政治の言葉で言い逃れをしようが、南スーダンで「戦闘」が起きていたことはまぎれもない事実なのだ。安倍首相は戦闘が激化する現地情勢に一切触れることなく撤収を説明しましたが、ある派遣隊員の父親は家族としての正直な気持ちを「できれば自ら語って欲しかった」(「日経新聞」3月11日付け朝刊)と吐露しています。

     今もっとも熱いオキナワの空、そしてセンカク(尖閣)の海――中国と対峙する最前線では何が起きているのか。
    「非常時」が日常となった状況下、自衛隊員たちは、何を考え、何を思っているのか。

     ノンフィクション作家・杉山隆男のライフワーク「兵士シリーズ」(『兵士に聞け』『兵士を見よ』『兵士を追え』『兵士に告ぐ』『「兵士」になれなかった三島由紀夫』『兵士は起つ 自衛隊史上最大の作戦』)がついに完結。取材開始から24年、現場の声を拾い続けてきたシリーズ7作目の完結篇『兵士に聞け 最終章』(新潮社)が2017年2月24日、紙・電子ほぼ同時に配信されました。
     歴史小説、時代小説には、何巻も続くシリーズがたくさんありますが、ノンフィクションの分野で四半世紀にわたってひとつのテーマを追い続けたルポルタージュが7冊のシリーズとなって私たちの前に事実としてある。そうそうあることではありません。
     自衛隊の現場の声を通して見た平成同時代史ともいうべき渾身シリーズを終えるに際して、杉山隆男はこんな感慨を綴っています。『兵士に聞け 最終章』あとがきより引用します。

    〈・・・・・・しかし今回足かけ二十四年にわたった『兵士シリーズ』を正真正銘の、これが限り、と思い定めたいちばんの理由は取材環境が激変したことにある。これまで『兵士シリーズ』の取材は、たとえ「秘」の塊りの潜水艦に乗りこみ訓練航海に同行したときでさえ、誰も同席せず、隊員と一対一の差し向かいで話を聞くことがかなえられていた。
     ところが今回の『兵士に聞け 最終章』ではそれが一変した。インタビューには自衛隊の広報が絶えず立ち会い、私が歩くところには必ずお目付け役のようにして基地の幹部がついて回った。隊員の家族へのインタビューも毎回行なわれてきたことだったが、今回はインタビューに応じてもいいという家族があらわれないという理由から実現しなかった。
    『兵士シリーズ』は単なる自衛隊レポートではない。自衛隊員、という匿名の名でくくられるのではなく、実名で登場するひとりの日本人としての彼らが人知れず任務に黙々と勤しむ、その表情や姿が浮かんでくるというのが、このシリーズの背骨であると私は思っている。ここにいる隊員たちは、もちろん「兵士」であることに変わりはないが、あくまでひとりひとりとしてそれぞれの顔を持ち、彼らの人生を生きる「個」なのだ。しかし等身大の彼らから洩れてくる囁きやつぶやきを拾い集めることが困難となっては、もはやいままでのような『兵士に聞け』を書くことはできないなと言うのが忸怩たる思いながら正直なところである。〉

     四半世紀の間に、自衛隊という組織が置かれている日本社会の何が変わり、それが自衛隊にはどう反映してきたのか。かつては隊員を一対一の差し向かいで話を聞くことができたのが、インタビューには広報が絶えず立ち会うようになったという。〈自衛隊員、という匿名の名でくくられるのではなく、実名で登場するひとりの日本人としての彼らが人知れず任務に黙々と勤しむ、その表情や姿が浮かんでくるというのが、このシリーズの背骨である〉と心に期して半世紀の間、「兵士」たちひとりひとりに正面から向き合ってきた取材者にとっては不自由なことこの上ない取材状況であったろうと思う。どれほど歯がゆい思いをしたことだろうか。
     しかし杉山隆男は、そんな変化を軽々と乗り越えて(と私には読めます)、オキナワの空、センカクの海の最前線で中国と対峙する自衛隊員とその妻たちの「日常」を綴ります。
     2010年、日本政府が尖閣諸島の国有化を宣言しました。この年、那覇からのF15のスクランブル(緊急発進)回数が前年度に比べて倍近くに急増。ここを皮切りにして、年を追うごとに前の年より実数で60回から90回近く上回るという、右肩上がりのグラフを描きながら那覇からのスクランブルが増加の一途をたどっている――〈五日間で八回上がったことがあって、そのときはひじょうにかなりの疲労感を感じたことはあります〉(永吉一尉)これがオキナワの空の状況なのだ。

    〈永吉一尉が上空ではじめて「国籍不明機」をナマで眼にしたのは、五度目くらいのスクランブルだったという。はじめてスクランブルがかかって空の上に上がったときと同じように、初遭遇のときのことも鮮明に記憶している。それはやはり、緊張のひと言だった。
    「日本国籍ではない、違う国の飛行機に対して行なっているというところで、何かこちらがミスをおかしてしまうと、国際問題に発展するという認識もあるので、ほんとうに慎重にしないといけないと……」
     国籍不明機との遭遇も回を重ねるごとに、「冷静に飛行機を見て、必要な情報を出すということは淡々とできるように」なっていった。(中略)
     識別写真の撮影で手こずらされるプロペラ機だが、永吉一尉がスクランブルで国籍不明機を追尾していて、ヒヤッとさせられたのも、そうした低速度機を相手にしているときだった。
     追尾と言っても、当然15の方がはるかにスピードがあるので、追い抜く形になるのだが、いきなり相手が永吉一尉らの側に旋回してきたのだ。永吉一尉はとっさに回避の操作をとった。相手が意図的に15の進路を妨害しようと一種のいやがらせを仕掛けてきたのかどうかはわからない。ただ、対象機が「こんなことをしてくるのか」と思うような、予測不能な行動に出ることもあるということを身をもって知ったのは、経験値として得るところが大きかったと永吉一尉は語る。〉

     太平洋戦争末期、沖縄戦が終わった6月23日は、戦後「慰霊の日」と定められ、沖縄全体が喪服に包まれる。役所や学校は休みとなり、航空自衛隊もすべての訓練を控える特別な一日だ。逆に、この日ならパイロットへのインタビューも可能ということで、取材日に指定された一日だったが、その取材中に、突然、ダァーン、と上から何かを叩きつけたようにあたりの空気を震わせて衝撃音が轟いたという。スクランブルだ。それも2度。スクランブルに、「慰霊の日」はない――。
     杉山隆男は書く。

    〈このオキナワの地で二度と戦いが繰り返されないことを願ってやまない人々の思いとは関係なく、六月二十三日も、「国籍不明機」は日本が設定した防空識別圏を越えて飛行をつづけていた。飛行計画に載っていない、その〈UNKNOWN〉の不審な動きを航空自衛隊のレーダーが察知したからこその、緊急発進だった。
     せめてこの日ぐらいは静かにそっとしておいてほしい。それが「慰霊の日」という特別な一日に寄せる、だれしも日本人の願いであり思いだったはずだ。だが、それが通じるような状況に、オキナワの空はおかれていないことを、この日の立てつづけのスクランブルは図らずも示していた。〉

     こうして緊急発進してあがった空は、先の永吉一尉が語る「国籍不明機」と間近にまみえる緊迫の最前線なのだ。
     非常事態が「日常」となったF15パイロットたち。彼らの家庭に、夫が出勤する時に必ず行われる「儀式」があることを、著者は聞き出しています。夫婦の間の決まりごとのようにして毎回意識して欠かさずに行なわれているものだ。
     結婚して、妻としてはじめてT三佐を見送るその最初の朝から、一日も欠かさずずっと「清めの塩」をひと振り、夫の肩越しにかけてきた妻の思い。
     永吉家の決まりごとは――〈「行ってくるよ」と言って出かけようとする夫に、妻が必ずこう声をかけることである。「何時に帰ってくる?」〉そして、永吉一尉が「〇時くらいかな」と答えると、妻は決まって「気をつけてね」と返す。なにげなく交わされる夫婦の会話に見えますが、著者はそこに戦闘機乗りの夫を送り出す妻の、言葉にはならない切実な思いを感じ取っています。

    「日陰者」としての自衛隊の現場の声をきくことから始め(『兵士に聞け』)、戦闘機に体験試乗までして航空自衛隊に迫り(『兵士を見よ』)、領海侵犯の現実を海から空から追いかけ(『兵士を追え』)、対中国を想定して新設された精鋭部隊に密着し(『兵士に告ぐ』)、三島由紀夫が「自決」に至る過程を追い(『「兵士」になれなかった三島由紀夫』)、東日本大震災と自衛隊を描いた(『兵士は起つ 自衛隊史上最大の作戦』)。そして完結編『兵士に聞け 最終章』では、オキナワの空(第一部)、センカクの海(第二部)のほか、オンタケの頂き(第三部)が綴られます。「オンタケ」は言うまでもありませんが、2014年9月の御嶽山噴火と陸上自衛隊災害派遣ドキュメントです。

     自衛隊とは何か――著者は、戦後日本の方向付けに大きな役割を果たし、自衛隊生みの親のひとりである吉田茂元首相の言葉を繰り返し引用しています。防衛大学校一期生を前に語った言葉だという。

    〈「……自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。言葉をかえれば、君たちが『日蔭者』であるときの方が、国民や日本は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい……」
    『日蔭者』とは、生みの親がその子に授ける言葉にしては何ともひどい言い草だが、しかし、日蔭者を、「目立たない存在」に変えると、吉田茂の言葉はそっくり、「自衛隊は目立たない存在でいた方が、日本というか、国というか、平穏なんだな」という二曹の言葉に重なる。〉

     吉田茂が打ち立てた自衛隊「建軍の精神」は、60年以上の時を経た今も確実に第一線の隊員たちに引き継がれています。しかしその一方で、「国民の生命と財産を守るだけだったら警察と変わりない」と不満を洩らす防大出のエリートたちが出現してきていることも自衛隊の現実なのだ。彼らエリートと、災害派遣を入り口に自衛隊に入隊し、「自衛隊は目立たない方が……」と語る一般隊員との距離が少しずつひらきつつあるように思えてくる――杉山隆男は立ち止まって、その隔たりの間に目をこらすのだ。

    「戦後」の見直しを推し進め、憲法改正への意欲を隠さない安倍晋三首相。その眼に、自衛隊員ひとりひとりが、顔のある「個」として映ることはあるのでしょうか。もし「南スーダン派遣施設部隊延べ3854名」という数でしか認識されないとしたら・・・・・・杉山隆男渾身ルポルタージュが問うものは重い。(2017/3/17)
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年03月17日
  • ファンタジーが好きな方には絶対オススメの作品。
    小さな村の仕立て屋の女の子・ココと、魔法使いのキーフリーが出会うところから物語が始まります。小さいころから魔法使いに憧れていたココは好奇心を抑えられず、キーフリーが魔法を使うところを覗き見てしまい……。 表紙からも分かるように、まず何と言っても絵が綺麗! 海外の絵本や児童書の挿絵のようで、繊細に丁寧に描き込まれています。じっくり時間をかけて読みたくなりますし、コロコロと変わるココの表情が本当に可愛いです! もちろん、幻想的で少しシリアスなストーリーも、これからどう展開していくのか、ワクワクさせてくれます。名作になる期待大の大注目作品です!
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年03月17日
  • 落語協会所属の落語家5人が真打に昇進し、東京・上野にある鈴本演芸場の3月下席興行(3月21日~)より、真打披露興行が行われます。そこで今回は、落語の本をご紹介します。

    寄席に行ったことがない人でも、長寿TV番組『笑点』は観たことがあるという人は多いでしょう。現在は、桂歌丸から引き継いだ春風亭昇太が大喜利の司会を努め、林家木久扇、三遊亭好楽、三遊亭小遊三、三遊亭円楽、林家たい平、林家三平が回答者として出演しています。林家、三遊亭といった落語家の苗字を「亭号」といいますが、ほかにも、柳屋、古今亭といった亭号が有名です。

    さて、本書の著者の一人、桃月庵白酒さんの亭号は「桃月庵」です。なお、師匠の名前は五街道雲助、弟弟子は隅田川馬石と蜃気楼龍玉。「五街道」「桃月庵」「隅田川」「蜃気楼」という亭号は、今やこの一門でしかお目にかかれない珍しいものです。埋もれていた名跡を、自らの力で大きくして蘇らせようということでしょう。

    桃月庵白酒さんは、1968年生まれの九州男児。真打昇進直前の2005年、将来性のある若手落語家に贈られる林家彦六賞を受賞し、2011年には国立演芸場花形演芸大賞を受賞。人気、実力ともにトップクラスの落語家です。本書の表紙に本人の顔写真が載っていますが、この丸顔と愛嬌のある表情はずるいなーと思いながら、噺を聴くたびに笑わされてしまいます。

    本書は、落語を愛してやまない書評家の杉江松恋さんが、その魅力を伝えたいと考え、「おもしろい人が自分がやる噺の演じ方や、この芸能についての思いを語るのが、もしかすると落語の魅力を伝える一番の近道なんじゃないのか」(前書きより)ということで、売れっ子落語家の桃月庵白酒さんに白羽の矢を立て、インタビューしたのをまとめた本です。

    「芝浜」「目黒のさんま」など13の演目について、白酒さんが噺についての知識や、演じるときに心がけていることなどを語ります。また、そこから脱線した白酒さん自身のことや、下世話な話なども収録されていて面白い。落語を超えた「芸術」「表現」についても考えを深めることができます。落語を聴いたことがない人でも、演目の概要が書かれているので安心。落語好きにとっても「へぇー!」という内容が満載。つまり、誰が読んでも楽しめるので、ぜひ読んでみてください!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月17日
  • 中学生のころイジメてきた張本人と大人になってお見合いの席で再会した巴。この機会に復讐を決意するのですがカッコよく育った彼に気持ちも傾いてしまいます…。それを素直に白状してしまう巴に「騙した罰だよ」と彼の手が伸びてきて…!行為の最中はドSな彼ですが実は内に秘めた想いがあって、そこがまたきゅんきゅんきます。恋愛漫画としてのストーリーもきちんとしていて、何よりエッチシーンが濃厚!ころめ先生の描かれる男性は別の作品、『お前のおクチを塞(ふさ)がないとな?~彼に教わるMの品格~』でも描かれているように結構Sっ気が強く、女性との絡みも丁寧に描かれていたりするのでHな漫画を求めていらっしゃる男性でも読める作品だと思います!
    • 参考になった 5
    投稿日:2017年03月10日
  • BLコミックでも大人気の相葉キョウコ先生のTL作品★ネットの広告で掲載されるようになるや否や瞬く間に人気作品となったこの作品は下着会社に働くデザイナー・美咲(♂)とその部下・恵(♀)の二人のお話です。オネエ言葉の男性が登場するTLコミックに出会ったことがなかったので、ベッドシーンってどうなっちゃうんだろう?と変なところを気にしながら読み進めていたのですがベッドの上ではキレイな体を見せてくれました。先にも言いましたがBLコミックでも大活躍されている先生ですがBL作家さんにありがちな女性のカラダのラインが残念…などは全くなく、豊満な胸にきゅっと引き締まったくびれがうらやましいです!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月10日
  • 表紙から想像する、静かで重苦しいようなストーリーではありません。テーマとしては、幼い頃の記憶のせいで悪夢にうなされ眠れない会社員・一紫が、ある日、同僚の和深の声を聞くだけで眠れることが分かり、彼と同居することに。和深との生活のなかで少しずつトラウマと向き合うようになっていく…という重めのお話なのですが、ときどき出てくる一紫の可愛い仕草や表情にそこまでシリアスなお話ならではの重苦しさを感じることは少なかったです。それどころかところどころほろりとくる場面も……。1冊まるまるこの二人のお話なのですが、この二人がこれからどう歩んでいくのかな、もっともっと幸せな二人がみたいな~と思えるような作品です。読み終わったらもう一度読み返してみたくなるはず!幸せハッピーエンドが好きな方はぜひ!
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月10日
  •  高校生の色葉は母親の再婚で、再婚相手の息子兄弟と同居することに。イケメン兄弟の兄のほうは同じ高校に通う学年イチのモテ男・神木蒼一郎。頭も良くて「神サマ」と呼ばれる人気者だけど、性格がかなりイジワルで…!?
     どうですかこの王道設定。私は王道の話も大好きなので読み始めたんですが、神木くん(兄)がとにかくかっこいい&かわいい…! 普段クールな神木くんの照れ顔最高です。最初はすごく冷たいけど、色葉と付き合いだしてからはすごく優しいし色葉のこと大切にしていることが伝わる…。こっそり色葉のベッドの匂いをかいでしまうというちょっと変態なところもたまらないです(4巻のオススメシーンです)。
     『別冊フレンド』で連載中(2017年3月現在)で、人気上昇中の『神木兄弟おことわり』、胸キュンしたい方にはオススメです! 初々しいこのカップルが今後どうなっていくのか、とても楽しみ♪(個人的には当て馬的な男子キャラが出てきて神木くんがやきもきするといいと思ってます)
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年03月10日
  • 河原和音先生と言えば、『先生!』『高校デビュー』『青空エール』など別冊マーガレットを代表する作品を次々と生み出す人気少女漫画家。そんな河原和音先生の新作は、カウントダウンイルミネーションを彼氏と見に行くことが小さい頃の夢だったという女の子・ののかが主人公。なんか小さい頃って、中学生になったら/高校生になったら/大学生になったら…自動的に彼氏ができるもんだと思いがちじゃないですか。私もそうだったんですが、ののかもそんな風に思い込んでいた女の子の1人。しかし高校1年の冬になっても彼氏ができなかったののかは、カウントダウンイルミネーションを一緒に見に行く彼氏を探そうと一念発起! そんなののかに「カレシできなそう」と言い放った桐山くんですが、なんだかんだ構ってくれちゃってなんかニクいというか、上手だなというか…かっこいい……。正直とても好みです。「素敵な彼氏」の獲得に向かって頑張る主人公と、そんな主人公を見守る(?)ちょっと上手で読めない男の子。『高校デビュー』が好きだったという方にはぜひぜひ読んでいただきたい1冊です。
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年03月10日
  • これは万人にはおすすめできない…でもとってもお気に入りな漫画です。大学時代に主人公・キョドコ(挙動不審なことから名付けられる)の心を傷つけ支配していた男・星名さんに職場で再会。一度は他の人を好きになれたはずなのに、キョドコの心を占めるのはやっぱり星名さんで―!? 心をえぐる展開の数々に「キョドコ、逃げて!!!!!!」って気持ちでいっぱいに。でも星名さんもうまいというか、キョドコの心を支配して、いいように扱っているというかなんというか…これがモラハラってやつかと……。仕事でも冷酷な仕打ちを重ねる星名さんには震えるばかりですが、星名さんも星名さんでどうやら暗い過去があるようで…? キョドコは漫画編集者・吉崎さんと出会い、少しずつ変わろうとしているのですが、その度に立ちふさがる星名さん。とにかくハラハラする展開つづきで、吉崎さんの活躍(?)を祈りつつ、掲載誌の「FEEL YOUNG」の配信日を心待ちにしている次第でございます。吉崎さん、お願いだからキョドコを救って(´;ω;`)  ちなみに『きみが心に棲みついた』が前編となっておりますのでそちらもあわせてお読みいただくことをおすすめいたします。
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年03月10日
  •  まるで釘を使わない日本の伝統建築のような作品だ。周到な仕掛けが隅々にまで埋め込まれたミステリー。終盤になってその全貌が見えてきた時、予想もしなかった犯罪実行者に驚きの声も出ず、ページを遡って埋め込まれている布石・痕跡を探し読み返していた。そして、精緻に組み上げられたストーリーに納得していった。
     個性的でトリッキーな仕掛けに定評ある貫井徳郎、初めての直木賞候補作『愚行録』(東京創元社、2012年11月24日配信)。単行本刊行は2006年3月、3年後の2009年4月に文庫化され、つい先日2月18日に映画が公開された話題作です。昨年4月に書店で買い求めいま手元にある文庫本は2013年12月2日6版でしたが、2017年3月初旬、書店に平積みされている、妻夫木聡や満島ひかりなど出演俳優の顔が並んだダブルカバーの奥付には2017年2月17日20版とあって、この1年の間に急ピッチで売れ行きが伸びたことがうかがえます。

     物語は、幼児の死亡と母親の逮捕を報じる新聞記事スタイルのプロローグで始まります。

    〈3歳女児衰弱死
      母親逮捕、育児放棄の疑い〉
     見出しの後に以下の記事本文が続きます。
    〈3歳の女児を衰弱死させたとして、警視庁は24日、母親の田中光子容疑者(35)を保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕した。母親には虐待の一つであるネグレクト(養育の怠慢・拒否)の疑いがある。死亡時の女児の体重は1歳児並みだった。警視庁は虐待が長期にわたっていたとみて調べている。(34面に関係記事)〉

     プロローグに続く第1章は、こんな風に書き出されます。
    〈ええ、はい。
     あの事件のことでしょ? えっ? どうしてわかるのかって? そりゃあ、わかりますよ。だってあの事件が起きてからの一年間、訪ねてくる人来る人みんな同じことを訊くんですから。最初は警察と新聞記者でしょ。次にはテレビ局の人と週刊誌の記者。それが落ち着いたら、その次はルポライターよ。やっぱりこんな派手な事件だと、ライターさんたちも書く意欲を掻き立てられるんでしょう。それこそ何人ものライターさんに会ったから、もう見ただけで何やってる人かわかるようになっちゃったわよ。で、当たりでしょ。あなたもライターさんでしょ。
     やっぱりあの事件について本を書きたいの? ふうん、みんな考えることは同じなのね。〉

    「あの事件」から1年が過ぎて話を聞きに来た「ライター」を前に語られる“証言”。アンカーシステムをとる週刊誌では取材内容を話し手のニュアンスが正確に伝わるように語り言葉をそのまま再現するデータ原稿にまとめます。何人もの取材記者がまとめたデータ原稿を読み込んだアンカーが最終稿にまとめるわけですが、ちょうどそのデータ原稿のように話し手の言ったままが再現されていく「あの事件」はしかし、プロローグの「育児放棄事件」ではありません。
     1年前の深夜に起きた一家4人惨殺事件。池袋から4駅とはいえ、木が鬱蒼と繁り畑も多く残る土地に建つ新築住宅に入居してまもない、大手不動産会社に勤務する早稲田出のエリートサラリーマンの夫、慶応出身、清楚で非の打ち所のない美人の妻、小学校に入ったばかり、7歳の長男、物怖じしない母親似のかわいい妹の4人――彼らの「幸福な生活」がなにものかによって突然、理不尽に奪われた。
     一家皆殺しの惨劇に遭遇して1年――ある種マスコミ慣れして語る一人目の証言者は、少し離れた隣家というか、一番近い家に住む主婦。惨劇の様子をなまなましく再現してみせます。

    〈カーテンの血は旦那さんのだったらしいわよ。旦那さんは窓際で倒れてたから。正面から刃物でめった刺しだって。心臓をまともに刺してるから、刃物を引き抜いたときにブシューっと血が噴き出したんでしょう。たぶんその一撃で死んでるのに、その後も何度も何度も刺してたっていうんだから、酷いわよねぇ。犯人は全身血塗れだったはずよ。
     かわいそうなのは子供よ。七歳になる上の男の子は、たぶんテレビを見ててそのまま寝ちゃったんでしょうね。リビングのソファで寝てたらしいのよ。でも、そんなところで寝てたせいで、どうも二番目に死ぬことになっちゃったみたい。旦那さんを刺しすぎて使えなくなった包丁を犯人は捨てて──、あ、凶器が包丁だってのは知ってるわよね。それは犯人が自分で持ってきた物らしいわよ。で、それが使えなくなっちゃったもんだから、子供のことはテーブルの上にあったガラス製の灰皿で殴り殺したんだって。それも、何度も何度も頭を殴ったようなのよ。ああもう、想像しただけで震えてきちゃう。(中略)
     で、家の中の話ね。次に殺されたのは奥さんと下の女の子がほぼ同時だったらしいわ。ふたりは二階にある夫婦の寝室で死んでたんだって。今度の凶器はまた包丁なんだけど、台所にもともとあった物を使ったって聞いてるわ。ひとりを殺しただけでもう使い物にならなくなると学習したらしくて、二階に上がる前に二本持っていったみたい。一本で奥さんをめった刺しにして、もう一本で女の子を──。ああ、話してて気持ち悪くなってきちゃった。おんなじことは何度も話してるのに、酷い話にはとても慣れることなんてできないわねえ。
     かわいそうなのはね、奥さんは自分の体の下に女の子を庇(かば)うようにしていた痕跡があったんだって。奥さんはほとんど、背中しか刺されていないのよ。でも結局そんな努力も空しく、奥さんが息絶えた後に女の子は引きずり出されて、犯人に……。ああ、想像するのもいや。〉

     惨殺事件の概要を語る近所の主婦に続いて、長男の同級生の母親、入社同期の夫の友人、妻と慶応でグループだった外部生の女性、夫と早稲田のスキーサークルで一緒だった女性、慶応時代に妻と交際のあった慶応内部生の男性――6人の“証言”が積み重ねられ、一見何の問題もない夫婦に、他人には見えない、もうひとつの顔があったことが浮き彫りになっていくのですが、「ライター」によって聞き書きされた“証言”の合間に、兄を相手に自らの生い立ちを語る妹のモノローグ(独白)が挟み込まれています。つまり、惨劇の被害者一家を語る友人たちの“証言”とモノローグが交互に綴られていく構成です。
     1年たっても未解決のままの一家4人惨殺事件を取材する「ライター」の名前はおろか、“証言者”が言い直す質問、問いかけ以外、その姿、表情や声が描かれることはありません。そこに映像表現とは異なる貫井ワールドの魅力が隠されているのです(映画より先に小説を読むことをおすすめします)。
     一方、自らの悲惨きわまりない生い立ちをどこか乾いた視線で見つめ語るモノローグは、惨劇と直接の関わりがあるようには見えませんが、実は重要な意味をもっていたことが徐々に明らかとなっていきます。
    〈お兄ちゃん〉という呼びかけで始まる書き出しの一文を以下に列記しておきます。

    モノローグ1
    〈お兄ちゃん。
     秘密って楽しいよね。
     あたし、秘密って大好き。〉

    モノローグ2
    〈お兄ちゃん。
     お父さんとお母さんの馴(な)れ初(そ)め、聞いたことある? ないか。あたしは知ってるんだ。お父さんから聞いたから。お父さんね、けっこうあたしにはいろいろ喋ってるんだよ。〉

    モノローグ3
    〈ねえ、お兄ちゃん。
     お母さんがいつ頃から浮気してたか、見当つく? ううん、そんな後のことじゃないよ。お兄ちゃんが二歳くらいのときから、もう他に男を作ってたんだって。早いよねー。まだあたしが生まれる前じゃん。そうそう、だからあたしの本当の父親はお父さんじゃなくてもおかしくない〉

    モノローグ4
    〈お兄ちゃん。
     じゃあさ、お父さんがあたしに手を出したのがいつ頃だか、見当つく? ううん、大丈夫。ぜんぜん辛くないよ。だって、大したことないもん。あの頃はいやでいやでしょうがなかったけど、誰でもすることだしね。それに、誰としてもおんなじだし。いい男でもそうじゃなくても、うまくても下手でも、〉

    モノローグ5
    〈 お兄ちゃん。
     お母さんはどうして、あたしとお父さんのことに気づいたんだろうね? お父さんはもちろんのこと、あたしもなんとなくこれはまずいと思ったのでバレないように気をつけてたのにさ。〉

    モノローグ6
    〈それにさ、お兄ちゃん。
     お父さんが家を出ていったのは、あたしたちにとってすごくいいことだったじゃない。あたしにとってはもちろんだけど、お兄ちゃんにとってもね。だって、お父さんがいなくなったお蔭で、またおじいちゃんと一緒に暮らせるようになったんだから。すごく嬉しかったな。〉

     自らの生い立ちを順を追って淡々と語る妹の独白には、〈親の自覚のない〉父と母のもとで生きてきた兄と妹の哀しさが漂っています。〈お父さんがあたしに手を出したのがいつ頃だか、見当つく?〉と兄に問いかけた妹は、こんなふうに自答するのです。〈中学の頃だって? 残念、外れ。もっと早い。五年生? まだまだ。正解言ってあげようか。三年生のとき〉

     慶応特有の幼稚舎(小学校)、中学、高校からの内部進学者と大学で入った外部生との間にある歴然とした“差別”構造の中を外部生ながら清楚な美しさを武器に巧みに泳ぎ「幸せ」を手に入れた被害者。一緒に惨殺された夫もまた、早稲田を出たエリートサラリーマンだが、徹底した合理主義者として他人(ひと)を利用、踏み台にすることを厭わずに生きてきた。その末に手にした「幸せ」とは何だったのか?
    「ライター」の求めに応じて二人の被害者との関わりをとうとうと語った証言者たち。彼らは、被害者のもうひとつの顔以上に、自らの愚かさをこそ語っていたのではないか。
     そして――悲惨きわまる境遇のなかで生きてきた女が「恵まれた生活」を夢見た。兄は、その妹を最後の最後まで庇(かば)いつづける・・・・・・。

    『愚行録』――英語タイトル“A CATALOG OF FOLLIES”の「カタログ」という言葉に、著者の意図がより鮮明にこめられているように思えます。(2017/3/10)
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年03月10日
  • 小説すばる新人賞を受賞した、青春群像劇です。著者の青羽悠さんは16歳の高校生。同賞の史上最年少受賞でした。先日の単行本発売とタイミングを合わせて、TV番組『王様のブランチ』で紹介され、大変話題になっています。

    町の科学館に併設された図書館で、毎年一緒に夏休みの宿題をやっていた幼馴染4人。館長がにこやかに語ってくれる宇宙の話は、祐人、理奈、薫、春樹の好奇心を刺激しました。宇宙は、みんなの夢でした。同じ高校に進学した4人でしたが、3年生になると、祐人は文系クラスを選択し、宇宙への夢を諦めます。理奈はそれが許せず、4人の関係はギクシャクしてしまいます。それぞれの道を歩んだ4人が再会したのは、高校卒業から5年ほど経った年の夏、突然亡くなった館長の通夜の日でした。

    久々にともに時間を過ごす4人。やがて明らかになる館長の過去。館長の孫で高校生の直哉と同級生の河村が直面している現実。夢とはなにか、夢というものをどう捉え、どのように生きていけばよいのか。三世代の人生が交錯し、物語は進んでいきます。

    高校生ぐらいの時期は、子ども時代が終わりを告げ、否が応でも「大人の社会」というものが押し寄せてくる時期でしょう。自分が心惹かれる、ただそれだけで価値があるわけではない。大人の社会の基準というものがあって、それが圧倒的な力を持ち始める。社会で「自立」していくために、競争してよいポジションをとっていかなければならない。そういったなかで、自分の夢を貫くというのは、どういうことなのか。

    16歳が書いた青春小説というと、二の足を踏んでしまう大人の読者もいるかもしれません。しかし、この作品は、高校生が書いたとは思えないほどリアルでテンポのよい会話でストーリーが展開していき、切実な思いが溢れていても十分に抑制された文体で描かれているため、どんどん読み進めることができます。青春期のモヤモヤを何とか自分の言葉で表現しようとする著者の奮闘や、悩むことや失敗することを肯定する著者の度量の広さを、ぜひ感じてほしいと思います。

    この作品には、著者が高校生という時期だからこそ描けた世界があります。逆に、大人の視点で記憶のなかにある青春時代を描いた、山下澄人さんの芥川受賞作『しんせかい』と読み比べてみるのも、面白いと思います。この作家が、成長とともに、どのような作品を書いていくのか。早くも次作を読みたい気持ちになりました。非凡な才能を持った超若手作家のデビュー作を、ぜひお読みください。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月10日
  • 朝っぱらからホームベーカリーを引っ張り出して5時間かけてパンを焼く…そんな日もあれば、冷ご飯を適当に炒め、出来上がったそれをフライパンのまま木べらで喰い、そして片付けもせずに寝る…そんな日もある。有り余る時間を使って究極の美食に挑むニートのにぃ子(主人公)。自分にも覚えがあるなあ、こんなかんじの生活…。20時間ほど寝通し、狂おしいほどの空腹で目覚め、起き抜けに食べる駄菓子の美味さ。ラーメンを食べたいがばかりに、豚骨スープを煮出したあの日。突如襲う自己嫌悪…でも楽しかった(ような気がする)。そんなこんなで、良いかんじに記憶が呼び起こされる作品です。とりあえず、何の変哲もないクリームシチューを最大限楽しむテクニックは、ぜひ一度試してみたいなと。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月10日
  • 最初、表紙の雰囲気だけを見て「きっと超シリアスなストーリーに違いない…」と確信していたのですが、まったく違いました! エリート官僚(※ちなみに、職務内容は色仕掛けなど。なんか色々ぶっ飛んでいる※)のすれ違い、嫉妬(=おしおきエッチ)、和解(=仲直りエッチ)がこれでもかと繰り広げられており、おバカな溺愛系BLがツボの方に間違いなくおススメです。で、何がすばらしいって、言葉責め。単に卑猥なことを言う・言わせるのではなく、身体と心を追い詰めながら同時に逃げ道を与えることで、自分の望む方向に相手の言動を誘導していくという匠の技が光っているのです。さすがプロ(?)、と唸らざるを得ない。なお、2017年3月現在第3巻まで配信中ですが、基本読み切り形式なので安心して読み始められるのではないかと思います!
    • 参考になった 5
    投稿日:2017年03月10日
  • 元SM女王様で新人漫画家のりょう先生と元お客のマゾ夫の、SMカップル実録エッセイ!
    マゾ夫の女王様へお仕えする愛と、りょう先生のマゾ夫を使役する愛。まさにぴったりの夫婦に思えますが、いついかなるときでも女王様で居続けるのはなかなか心労も多いようで…。
    義両親への女王バレ(マンガを読まれた)など、SM夫婦でしかも漫画家という二重苦(?)エピソードに爆笑!! 女王様時代のエピソードも満載で、SMにまつわる「とにかくムチで叩けばいいんでしょ」的な誤解、自称S男への怒りなども楽しいです。何よりラブラブ夫婦のお二人を見てると心が癒されます…。
    壁ドンも顎クイもしてくれないけど、徹底的に仕えてくれるマゾ夫。なぜかりょう先生はマゾ男が流行ると確信してらっしゃるのですが、女性のみなさまいかがでしょうか…(笑)
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年03月10日
  • 「このマンガがすごい!2017」オンナ編8位にもランクイン!「“トーキング”ラブコメディー」とある通り二人の会話シーンがメインで進んでいくのですが、笑いが止まりません!!相沢さんはちょっとストーカー気質の残念美人。同じ学年の東くんに告白するも、「そういうのよくないよ」とヘンテコな理屈(?)でかわされてしまいます。(立ち読み部分で読めますのでぜひ!)実際に異性と付き合ったことはないのに、それぞれ見てきたかのように「女は気分屋すぎる!!」「付き合い始めたら男は連絡をくれなくなる!」と熱くなる二人。偏りまくった男性観/女性観の対立トークが面白すぎます。
    お互いの思考回路が違いすぎてすれ違いも多いですが、ちょっとずつ仲良くなっていく二人にキュンキュン!東くんの「たとえば僕と君が違う星の住人だとして それをつなぐのは言葉だろう だったらこちらから閉ざしてしまうのはあまりにももったいない」というセリフがすごく素敵です!少女マンガですが、誰もが「あるある!」と頷きながら読めて、男女問わずオススメしたい作品です。
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年03月10日