オススメ特集

一覧を見る



店長のオススメ本

注目作品をピックアップ! 
≫こちらもおすすめ 
芥川賞・直木賞 受賞作 2017年本屋大賞 三田誠広の小説教室

新刊 1/12~18発売! 130冊

新刊一覧

文芸

文芸の新刊一覧

人気の連載誌・レーベル

  • 週別日別

各ジャンルのランキングはこちら

  • 私たちを取り巻く環境、世界が以前にも増して複雑化しているのは、誰の目からも明らかだろう。膨大な情報、多様な価値観が入り乱れ、変化も激しい現代社会で、本来の「人間らしさ」を取り戻すのは困難のようにみえる。日本で「断捨離」がブームになっているのに、そうした背景があるのは確かだろう。本書は、1895年にフランスで刊行され、欧米でミリオンセラーとなった「La vie simple」の邦訳。当時の欧米では、産業革命後の工業化により、社会全体としては豊かになる一方で、貧富の差が広がりつつあった。現代と似たところもある激動の時代にあって著者は、人間らしさとは「簡素な生き方」「簡素な精神」にあるとし、物質的な豊かさやそれに伴う虚栄心や権威欲、傲慢さや野心などにとらわれない「善き人間」になるための考え方を説いている。著者のシャルル・ヴァグネル(1852-1918)はフランスの教育家、宗教家で、近代フランス初等教育を宗教から独立させ、無月謝の義務教育として確立させた功績でも知られる。
    書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」詳細はこちら
    投稿日:2017年06月13日
  • 〈雪なんか降らなくても完璧な、三十二年間で最高のクリスマスだった。〉

     クリスマスの夜に読み始めた有川浩『キャロリング』のラスト一文を読み終えたのは、2017年最後の夜でした。
     ともに32歳の二人の主人公――大和俊介(やまと・しゅんすけ)と折原柊子(おりはら・とうこ)に訪れた「奇跡のクリスマス」で物語が終わります。読む前から結末がわかってしまう「ネタバレ」、読む楽しみが減ると文句を言われそうですが、あえてラスト一文からこの原稿を書き始めました。この一文に「有川浩らしさ」が凝縮されていて、それを知りわかったうえで読んでこそ、この物語の味わいは一層深まると思うからです。文芸評論から出発して時事・政治・社会まで多彩な才を発揮している評論家の斎藤美奈子氏は『名作うしろ読み』(中公文庫)で「お尻がわかったくらいで興味が半減する本など、最初からたいした価値はないのである」と喝破しています。

    〈こちらを向いた銃口にはまるで現実感がなかった。〉
     と始まる物語の書き出しは、ラスト一文とはまるで違い、ハードボイルドの世界です。何が始まるのか──思わず息を呑むプロローグ。こう続きます。

    〈自分の人生に銃を向けられるようなことが発生するわけがない。──これまで積み重ねてきた彼の常識がその状況を夢の中の景色のように補整した。
     思わず手を動かして向けられた銃を脇へ押しのけようとしたのは、あまりに非常識な状況を、とっさに飲み込むことができなかったのかもしれない。よせよと悪い冗談でもたしなめるように、手は無造作に、無意識に動こうとした。
     銃口と一緒にこちらを睨(にら)む荒(すさ)んだ目が針のように細くなった。
     言葉はなかった。
     銃を向ける男は一度狙(ねら)いをよそに外して、黙って引き金を引いた。消音器がついているのか音は籠(こ)もった。だが、説得力のある破裂音が現実感を一気に追い着かせた。
    「不用意なことをするなよ」
     男は平坦な声で咎(とが)めた。引き金を引いたことによる何の動揺も興奮もなかった。男にとって、それは日常ありふれた動作の一つに過ぎないのだ。〉

     銃口を向けられているのは大和俊介。銃口は、いつ火を噴くのか。引き金はそれを引くことが何ら非日常でない者の指にかかっています。それでも、男の恫喝にハイ分かりましたと従いたくなかった大和──。

    〈「その子はうちで預かった子だ。俺はその子を守る義務がある」
     は! と男が声を上げて笑った。高く弾(はじ)けた笑い声には、響きと裏腹な感情が獰猛(どうもう)に渦巻いている。
    「キレイな御託をありがとう──よ!」
     暴力は突然爆発した。男は彼に向かって一歩踏み込み、銃把(じゅうは)で彼の横っ面を強(したた)かに殴りつけた。よろめいたところに真上からまた殴打が重ねられる。たまらず地べたに潰(つぶ)れた。
    「さぞやいいお育ちなんだろうな! たとえ銃を突きつけられても、曲がったことはできませんってか!? 脅しに屈するくらいなら死を選びますってか!?」
     言葉に一つ息を入れるごとに男が靴先を蹴り込む。蹴り込まれるたびに息が止まる。
    「やめてよ死んじゃうよ!」
     少年が涙声で叫ぶ。
    「逆らわないでよ大和(やまと)! 謝って!」
     ……うっせぇ、と口の中で吐き捨てる。ガキのくせに大人を、
    「呼び捨てすんなって言っただろ! しばくぞ!」
    「しばかれてンのはお前だよッ……!」
     靴先が鳩尾(みぞおち)に入った。体が勝手にくの字に折れ曲がる。
     彼の頭の真横に男が膝を突いた、と思うや男は彼の髪を掴(つか)んで上体を引き起こした。
    「こんな状況でキレイな意地を張れるくらい恵まれた育ち方してきたんだろ? そこのガキも」
     男がぐるりと頭を巡らせて少年を見る。少年が眼差しに射られたように竦(すく)んだ。(中略)
     男の荒んだ目は、言葉を重ねながらますます荒んだ。この目には覚えがある。──遠い昔、鏡を見ると毎日この目が見返してきた。
     ああ、そうか。──この男は俺だ。
     あの目のままで大きくなった俺だ。
     かわいそうにな、と口からこぼれ落ちていた。
     聞き咎めた男の顔色が変わる。
    「今、何て言った」〉

     涙声で叫ぶ少年は、東京月島の集合ビルに事務所を構える小規模子供服メーカー「エンジェル・メーカー」が3年前に始めた「スクール」事業──学童保育に通う田所航平(たどころ・こうへい)、小学校6年生。
     航平の眼前で荒んだ目の男の爆発する暴力に晒されている大和俊介は「エンジェル・メーカー」の営業担当社員です。
     わずか5名の会社ですが、廉価でセミオーダー服のシリーズを取り揃えるなど、小規模ならではの小回りで厳しい業界を生き抜いてきました。しかし、主要取引先である大型量販店の閉店で経営に打撃を受けて、その回復が叶わないまま年越しを待たずに倒産することになった。12月の朝礼で社長の西山英代(にしやま・ひでよ)が、〈今月の締め日を以て廃業〉することを明かしてぺこりと頭を下げた。毎月の締め日は25日。クリスマス倒産というわけですが、倒産で大和は職を失い、航平の学童保育も終わります。

    〈「かわいそうにな、と言った」
     どうやら引っ込みがつかなくなったうえにうっかり口を滑らせて死ぬルートだ。
    「お前には不幸の比べっこしても仕方ないでしょって言ってくれる人がいなかったんだな」
    「……分かった」
     男の表情が削(そ)げ落ちた。
    「お前は今死ね」
     大和俊介(しゅんすけ)、享年三十二──墓碑銘どうする?
     男は思いつくまで待つつもりはないようだった。〉

     事の発端は、航平です。航平の両親は別居中。日本橋に本社を置くステラ化粧品でバリバリ働くキャリアママは年明けにはハワイへの転勤が決まっています。同じ会社でうだつが上がらなかった父親は横浜の実家に戻り、会社も辞めます。
     学童保育の時、航平がノートを広げて黙々と何か書いている──自身を主人公に描く家族の物語だ。

    〈町の中の小さなおうちに、三人家族が住んでいました。
     働き者のお母さんと、のんびりやのお父さんと、一人息子のわたるです。
    三人家族は笑ったりけんかしたりしながら、毎日仲良くくらしていました。
     そんなある日の夜、お父さんとお母さんがひどいけんかになりました。
     でも、朝になったらきっと仲直りしているだろうと思って、わたるは先に眠ってしまいました。今までも家族でちょっとしたけんかになるのはよくあることだったからです。
     ですが、わたるが朝起きると、お父さんがいなくなっていました。
     夕べのけんかの後、お父さんは家を出て行ってしまったのです。
     ……〉

     青天の霹靂(へきれき)だった。両親には離婚などせずにやり直して欲しい。お父さんに会いに行こうと決心する航平。その航平に懇願されて父親のいる横浜の整骨院に連れて行くことになったのが、同僚で大和の元恋人の折原柊子です。
     母親の承諾を得ないまま、会社には英会話教室の付き添いと偽った。月島で地下鉄に乗り、JRを乗り継いで桜木町へ。紅葉坂を歩いて整骨院に着いた二人は思いがけない場面に遭遇します。

    〈「ふざけんな!」
     身の竦(すく)むような胴間声が鼓膜を打った。
     柊子がびっくりするほどすばやく前に出て、航平を抱え込むように背中に庇(かば)った。
    「死んだじいさんの借金なんだよ! 孫のお前が返すのが筋ってもんだろうが!」
     受付で怒鳴っているのは、品のないスーツを着崩した輪郭の四角い男だ。一見して堅気でないと分かる風貌(ふうぼう)だった。
    「おいおい」
     止めに入ったのは、着崩してはいないがやはり普通のサラリーマンが選ばない色柄のスーツを着た男である。鋭角なデザインの眼鏡フレームが、情の薄そうな顔立ちを際立たせていた。
    「そんな下品な声を張り上げるもんじゃない。お客がびっくりしてるじゃないか」〉

     女性院長の祖父に金を貸したという二人組が取り立てに来て、受付前で暴れているところに飛び込んでしまったのです。年明けのハワイへの引っ越し前に両親に仲直りして欲しい航平の横浜行きに柊子だけでなく大和も加わりますが、暴力的な借金取りを装う二人組と出会ったことから、彼らはまったく思いもしなかった事件に巻き込まれていきます。

     後20日。後14日。後7日・・・・・・
     会社のホワイトボードに手書きされたエンジェル・メーカー終焉の日までのカウントダウンが進んでいく。
    〈俺たちは恵まれてないんだから恵まれてる奴からちょっとくらい横取りしてもいいはずだ〉
     荒んだ目は、言葉を重ねながらますます荒んでいく。
     それに対し〈不幸の比べっこをしても仕方ない〉と知って自分だけが割を食っていると荒んだ目を過去のものとした大和が航平、航平の父とともに絶体絶命の危機に直面させられている。そして別室に捕らわれている柊子も。

    〈赤木さんがわたしのために手を汚したら苦しい〉
     の一文が胸に刺さります。
     大事な人を思うまっすぐな気持、そしてそれを伝える言葉が氷のように固く閉ざされた心を溶かしていく奇跡──有川浩が描く感動の物語をじっくり味わってください。
    (2018/1/12)
    • 参考になった 2
    投稿日:2018年01月12日
  • 名作
    昭和の香り漂う作品。作者が沢田研二のファンだったから生まれた小説なのでしょうか。
    私のなかでは一番引き込まれたBL小説です。
    男性の嫉妬って萌えます。
    翼あるものは同じシリーズの作品でそちらもお勧め。
    若いBLファンに読んで貰いたいです。
    森茉里さんの作品に少し似ています。オマージュでしょうか?栗本先生は達者な書き手です。
    長編ですが引き込まれますよ。最近のBL小説では物足りない方に。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年12月25日