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  • 怪盗クイーンシリーズ
    「千裕」という名前の漢字は「有り余るほどの余裕を持つ」という意味だと思っています(実際に両親がそう思って付けたかは別ですが)。名前に恥じぬよう、常に余裕を持った人生を送りたいのですが、現実はそうとはいかないものです。ギリギリなんてかっこ悪い、と思ってはいるのですが、気が付くとギリギリ虫はいつも私の後ろに迫っています。自分自身がそんな調子なので、ゆとりがあって優雅に振る舞える人にとてもあこがれを持っています。

     私にとって、その「優雅な人」の代表が怪盗クイーンです。

     ぬけるように白い肌、灰色の瞳、銀色に近い白い髪、白い口紅で色を消した唇──中性的な出で立ちでギリシャ彫刻のような美貌を持つクイーンの職業は怪盗。ですが、クイーンが目指すのは、お宝目当ての盗みではなく、彼(彼女?)の美意識を満足させる獲物を華麗に頂戴することなのです。巨大飛行船でワインを飲みつつフランス語で会話をするクイーン。その生活は隅から隅まで「怪盗の美学」を満足させるものです。美意識の赴くままに悠々自適に、クイーンみたいに華麗に生きたい!来世生まれ変わるならクイーンのように、とりあえず現世では来世に向けてフランス語の勉強とワインの勉強でも……そんなことを日々考えて過ごしています。

     私のあこがれの先輩とも呼べる、素敵な怪盗に出会ったのは小学校の高学年のころ。「そろそろ子ども向けの本は卒業しなきゃなぁ。」と思っていた時期でした。しかし、「怪盗」という言葉にひかれて、ついこの本を手に取ったのでした。

     ページをめくるとはやみねかおる先生の「赤い夢」の世界が広がり、私はそのままそこの住人に。そして、「まだまだこんな面白い作品があるなら子どもの本も読み続けたい!」と考えを改めました。あまりに面白かったので父と母にも本を勧めると、二人とも夢中になって読んでくれました。児童書を楽しそうに読む大人を見ながら、本に年齢制限は存在しないことを実感しました。大人も子どもも、本の世界では関係ありません。

     久しぶりに読み返してみると、クイーンの仕事上のパートナーであるジョーカー君について「年齢は二十歳前後だろう」と書いてあることに気付きました。かっこいいお兄さんだと思っていたジョーカーが年下になってしまったなんて。時の流れを感じます。しかし、読み進めるとやはり、クイーンへのあこがれが再び心に湧きあがりました。まるで小学生の私に戻ったように。読めばいつでも童心に戻れる、私の原点ともいえる一冊です。

    (2014.06.01)
    投稿日:2016年02月24日
  •  そのシンプルでやさしい言葉は、私たちの心を深いところで揺さぶり、突き動かします。
    〈あくことなくものを手に入れ、ものをつくり続(つづ)けることが、いまの社会を動かしています。もしこの動きがストップしたら、明らかにお金の流(なが)れはストップします。お金の流(なが)れがストップしたら、不景気(ふけいき)という妖怪(ようかい)がひとりひとりをおそうでしょう。
     しかし世界(せかい)をおそっているのは、じつは欲深(よくぶか)さの妖怪(ようかい)なのです。この欲深(よくぶか)さを満足(まんぞく)させるためには、もちの悪いものをつくらなくてはなりません。たくさん売らなくてはならないからです。
     1個の電球(でんきゅう)は、1000時間以上使うと切れてしまいます。しかし10万時間も20万時間ももつ電球(でんきゅう)もあるのです。しかし、そういうものをつくってはいけないのです。
     なぜなら、電球(でんきゅう)をどんどん売らないといけないからです。働(はたら)いて、ものを買い、使い捨(す)てする。そんな文明(ぶんめい)でなければいけないからです。
     このような悪循環(あくじゅんかん)の中に、わたしたちはいるのです。〉

     2012年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連持続可能な開発会議(リオ会議)で行われたウルグアイのホセ・ムヒカ大統領(当時)の演説内容をまとめた絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(汐文社、2016年4月1日配信)の一節です。
     ムヒカ前大統領は在任中(2010年3月1日~2015年2月末)も、大統領公邸には入らず、郊外にある古い家(農場)からフォルクスワーゲン(ビートル)を運転して仕事に通いました。家にお手伝いさんはいません。奥さんと犬との生活は質素そのもの。大統領報酬の大部分は弱者のために寄付して、夫婦は月1000ドルほどで質素な生活をしていたところから、〝世界で一番貧しい大統領〟といわれるようになったというわけです。
     リオ会議におけるスピーチが世界の多くの人びとに感動を与え、日本では電子化の底本となる絵本(紙書籍)が2014年3月に出版され、版を重ねています。出版元の汐文社(KADOKAWAグループ)によれば、『世界を動かすことば 世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(角川つばさ文庫、2015年10月15日配信)、『世界でいちばん貧しい大統領からきみへ』(汐文社、2016年4月1日配信)などの関連書もあわせて累計20万部を突破したそうです。
     朝日新聞(4月8日朝刊)によれば、4月5日初来日したムヒカ前大統領は7日、東京外国語大学における講演の中でタックスヘイブン(租税回避地)をめぐって世界的な大問題となっている「パナマ文書」に触れ、「自分の資本を増やすためだけにお金を使っている人がいる。ばかげた悲惨なことと、若い人たちはたたかわねばならない」と批判したという。
     明るみに出たパナマ文書のなかに本人もしくは親族や親しい友人などの名前があがった世界の政治リーダーたち――イギリス・キャメロン首相、ロシア・プーチン大統領、中国・習近平国家主席らは、「自分の資本を増やすためだけにお金を使っている」という批判にどう答えるのでしょうか。アイスランドの首相は名前が挙がるや、はやばやと辞任を表明しました。
     表向きの顔とは別に裏ではタックスヘイブンの恩恵に浴していたらしい世界の政治指導者たちとムヒカ前大統領の間には深い溝があるようです。
     人間にとって「幸せ」とは何か――。ムヒカ前大統領は、こう述べています。

    〈人類(じんるい)がほらあなに住(す)んでいた時代(じだい)の生活(せいかつ)にもどろう、と提案(ていあん)しているのではありません。時代(じだい)を逆(ぎゃく)もどりさせる道具を持とうと言っているのでもありません。
     そうではなくて、いまの生き方をずるずると続(つづ)けてはいけない、もっとよい生き方を見つけないといけないと言いたいのです。わたしたちの生き方がこのままでよいのか、考え直さないといけない。そう言いたいのです。
     古代(こだい)の賢人(けんじん)エピクロスやセネカ、そしてアイマラ民族(みんぞく)は、つぎのように言いました。
    「貧乏(びんぼう)とは、少ししか持っていないことではなく、かぎりなく多くを必要(ひつよう)とし、もっともっととほしがることである」
     このことばは、人間にとって何が大切かを教えています。〉
    〈水不足や環境(かんきょう)の悪化(あっか)が、いまある危機(きき)の原因(げんいん)ではないのです。ほんとうの原因(げんいん)は、わたしたちがめざしてきた幸せの中身にあるのです。見直さなくてはならないのは、わたしたち自身(じしん)の生き方なのです。〉

     限りなく多くを必要として、もっともっとと欲しがること、それこそが貧乏ということだ、少ししか持っていないことが貧乏ではない――ムヒカ前大統領の考えは、一点の曇りもなく明快です。初来日したムヒカ前大統領――ウルグアイでは「ペペ」の愛称で多くの国民から慕われています――の言動を多くのメディアが取り上げました。報道を通じてその主張や人柄に触れた読者も少なくないと思います。
     しかし、もう一度、ホセ・ムヒカがウルガイ大統領として国連会議で発したメッセージを初めて日本人、とりわけ次代を担う世代に伝えた本書を手にとっていただきたいと思う。文章を担当するくさかよしみさんとイラストを担当する中川学さんのコラボによる絵本です。ムヒカのスピーチ――その主張、願い、生き方が子どもたちを意識したやさしい、それでいて的確な言葉で綴られ、中川流和ポップなイラストで描かれています。
     京都の寺院で僧侶をしつつ、イラストを描いている中川学さんは、この企画に参加することになったいきさつを自身のブログ「坊主な日々」(2015年3月25日付)
    でこう綴っています。
    「この本を手がけることになったきっかけは、ブックデザイナーの鷺草デザイン:上野かおる氏より、お声をかけていただいたから。
     上野さんと、著者であるくさばよしみさんは昔からのご友人で、くさばさんがムヒカ大統領の演説を日本の、特にこどもたちに知らせたい、と思い立たれて、上野さんに声をかけ、僕にまわってきたというご縁なのです。
     僕は、ネットでムヒカ大統領の講演の存在は知ってはいたのですが、詳しい内容までは知らず、くさばさんの原稿を読んで心動かされて、引き受けることにしました。
     どういうところに魅かれたかというと、「この大統領、『小欲知足』を語っている」という驚きでした。
    『小欲知足』は仏教もしくは老荘思想のことば。
     人間の不幸は、飽く事の無い欲望に身をまかせてしまうから生まれる、という考え方です。
     東洋的な考え方だと思っていたので、それがウルグアイの大統領から発信されているという事実に衝撃を受けました。
     当の東洋の大国たちの指導者から、今もっとも聞けない思想なのに」

     ものに囲まれ、さらにものを求めて貴重な時間を消費する生活がほんとうに「幸せ」といえるのでしょうか。〝ホセ・ムヒカの世界〟を色鮮やかな40ページに凝縮した絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』。もし、子どもがいるならぜひ一緒に読まれることをおすすめします。(2016/4/15)
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    投稿日:2016年04月15日