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  • 傍らにウィスキーの瓶を置き・・・・・・
     私は重度の活字中毒者でして、しかも気に入った小説やエッセイは、時間があれば手にとって数ページ読むだけでも満足してしまいます。言ってみれば幼児がぬいぐるみをいつも手放さないようなもので、だからお気に入りの本はいつのまにかぼろぼろのばらばらに。ですので、私の電子書籍ライブラリーのかなりの部分を「いつも持っていたいお気に入りの本」が占めています。「ボートの三人男」はそのひとつ。

     むかし小学館から『少年少女 世界の名作文学』というシリーズが出ておりまして、小学生の私はそれを買い与えられていました。これはなかなかに強力なシリーズでして、全50巻が「イギリス編」「フランス編」みたいに国別になっていて、しかもイギリス編だけで7巻もある、というボリューミーさ。おかげで私は世界各国の名作を子供向けバージョンでたくさん読むことができ、「秘密の花園」「少女パレアナ」「ケティ物語」といったアメリカの少女小説の筋を今でも覚えていて、女性の友人知人に不気味がられています。

     この「ボートの三人男」は、「イギリス編6」に収録されていました。訳者は森いたるさんという方で、調べてみたら大正2年生まれの児童文学者とのこと。偉人伝や世界名作のリライトも手がけていたそうです。これを読んだのは小学4年生ぐらいだったと思いますが、もうとにかくおかしくておかしくて、何度読み返したかわかりません。ビクトリア朝時代(出版は1889年)のロンドンに住む3人の独身男が、ボートに乗ってテムズ川を下る、というだけの話なんですが(おっと、犬も1匹いました)、乗るまでの相談や荷造りでまず大騒ぎ、ボートの中でのさまざまな出来事がまたおかしく、そこに語り手の「ぼく」や二人の友人が経験したり人から聞いたりした妙な話、変な話、笑い話が挟まっている、という構成で、小学生のガキはげらげら笑いながら「テムズ川のボート遊び」に憧れたのでした。

     大人になって丸谷才一さんの訳が出ていることを知り、文庫を買ったのが大学生のとき。そのとき知ったのは、ユーモア小説でありつつテムズ川の観光案内・歴史案内でもあり、時にはずいぶんと生真面目な思索や道徳的な教えも出てくる小説なのだ、ということ。小学生向けのリライトでそのあたりは省略されていたのでしょうが、その多彩にして混沌とした文体の様子も、丸谷さんの見事な訳で楽しむことができます。

     最初にこの本を読んでから50年経ちました。小学生が読んでもおもしろく、定年近いおっさんが読んでも楽しい、というのは、考えてみればたいへんなことですね。中公文庫の解説(電子書籍では省略されているのが残念!)で、井上ひさしさんがこうおっしゃっています。「さあれ、一読されよ。できれば、日曜の午後など、時間のたっぷりあるときに、傍らにウィスキーの瓶を置き、スコット・ジョップリンのラグタイムでも聞きながら、文章を舐めるようにゆっくりと―」その通りです、井上先生!
    投稿日:2016年05月27日
  •  桜の季節は、“税の重さ”を感じる季節でもある。確定申告にともなう所得税や消費税・地方消費税の納期限はそれぞれ3月15日と3月31日。約1ヵ月支払時期を延ばすことができる振替納税も4月20日、4月25日には指定の口座から引き落とされることになっています。
     朝日新聞連載(2015年8月23日~2016年8月29日、タイトルは「にっぽんの負担」)を基にまとめられた『ルポ 税金地獄』(文春新書、2017年3月17日配信)――取材にあたった経済記者たちはその思いを込めてこんなふうに書き始めています。少し長くなりますが、プロローグから引用します。

    〈お手元に給料明細があったら見てほしい。あなたの給料の額面と税金などを引かれた後、手取り収入がどのくらい残っているか。家族の状況などにもよるが、年収七百万円のサラリーマンだと実際の手取りは七割程度で、一千五百万円だと六割程度しか残らない(図1参照)。所得税、住民税、年金、医療、介護などと、項目は分かれているが、われわれはこんなに負担させられているのかと、あらためて驚くはずだ。
     しかも、これは天引きされている税金や保険料だけの話だ。買い物をするたびに八%の消費税を取られ、中にはビールなどの酒、たばこ、自動車やガソリンなど、商品の値段に含まれていて二重に払う税金もある。持ち家があれば固定資産税も払う。こんなに負担をしているのに、国と地方の借金は一千兆円を超えた。(中略)
    「にっぽんの負担」という連載を二〇一五年八月から一年間にわたって続けたが、そこで見えてきたのは、富裕層や大企業には税金を逃れるための様々な抜け道があるのに、サラリーマンや非正規労働者には逃げ道が少なく、増え続ける負担に押しつぶされかねない状況にあることだった。〉

     オビには〈税金を払わない富裕層VS.搾取されるサラリーマン〉の大活字、それと並んで〈税=不平等 これが日本の現実だ!〉の惹句。善良なるサラリーマンは税金を言われるままに払ってきた。しかし、サラリーマンたちからいいように税金をとりたてる一方、富裕層には税金を逃れるための様々な抜け道がちゃんと用意されており、さらにアベノミクス企業減税の恩恵を受けるのは超大企業ばかり……これが日本の実情だという。
     ニッポンの税の歪みはいったいどうなっているのか! このままでいいのか。このままでいいわけがない。溜め息まじりの怒りの声が行間から漏れ聞こえてくるような一冊。2015年12月に刊行され、年が明けて配信が始まった『ルポ 老人地獄』(文春新書、2016年1月15日配信)に続く、朝日新聞経済部記者たちによるルポ第2弾だ。

     富裕層の税金逃れに使われているのが、ここ数年人気の「ふるさと納税」だ。本書によれば、2015年度に全国の自治体が受け取った寄付額は、前年度の4倍を超える1,653億円に達した。なぜ、寄付が急増したのか。人気の直接的な理由は自治体の趣向を凝らした「返礼品」です。
     本書では「ふるさと納税」をわかりやすく説明するために年間1億円の給料をもらう人の例をあげています。1億の収入の人がある町に400万円のふるさと納税をすると、寄付をした年の所得税が確定申告で戻るだけではなく、翌年度の市民税、県民税も減額されて、所得税とあわせて計399万8,000円が戻ってきます。結局、400万円を寄付した人が実施的に負担するのはわずか2,000円というわけです。しかも寄付の全額に近い税金の戻りがあったうえに、2,000円を大きく上回る自治体の「返礼品」が送られてくるのですから、富裕層にとっては魅力的な税回避策であることはまちがいありません。そして「返礼品」として地方の名産品ばかりではなく、ついには金券が登場。かくして税収確保を狙う地方都市が“日本のタックスヘイブン”になっている構図ができあがったというわけです。記者が現地取材した千葉県大多喜町では、ほんとうにすごいことになっています。

    〈房総半島の中央にある人口約一万人の千葉県大多喜町。徳川家康の忠臣、本多忠勝が城主となった大多喜城が観光のシンボルだが、最近はふるさと納税でもらえる金券の「ふるさと感謝券」が富裕層の間で注目を集めた。町は一四年十二月に返礼品として金券を贈り始め、一五年度の寄付額は前年度の四十倍近い十八億五千五百万円と急増した。うち九六%が金券を求める寄付だった。
     一六年四月末の大型連休中に町を訪ねた。町の中心部にあるスーパー「いなげや」に行くと、夫婦が買い物カートを連ねて、四つのかごに山盛りの買い物をしていた。レジで取り出したのは分厚い「ふるさと感謝券」の束だった。
     取材するうちに、感謝券で自動車を買う人までいることがわかった。二百万~七百万円の新車を数台、全額感謝券で売ったという町内の自動車販売業者は、実態をこう話した。
    「新車や高級タイヤが売れました。大量の感謝券を持っている方は、タケノコや椎茸で五百万円分使うわけにはいきません。期限内に消費しないと紙くずになります。枚数が多くて数えるのが大変でした」
     感謝券は寄付額の七割相当が贈られる。七百万円の感謝券を使う人がいたということは、一千万円の寄付をしたか、インターネットのオークションなどを通じて、額面よりも割安に買い集めたということだ。販売業者はこれで売り上げが急に増えて、さぞかし喜んでいるのかと思ったが、意外な言葉を聞いた。
    「高額納税者の合法的な節税対策になってしまっています。本来、ふるさと感謝券の目的は地元の町おこしですが、自動車というのは特産品でも何でもありません。一時的で麻薬的な活性化にはなるかもしれませんが、買っていくのは県外の人ばかりです。そこに頼っていては商売は成り立ちません。本当は、これでいいのかと思いながら、登録店になっています」〉

    「ふるさと納税」では〈寄付額-2,000円〉の税金が戻ってきます。そのうえ実質2,000円の負担で寄付額の7割相当の感謝券(金券)が手に入るというのです。人気化しないわけがありません。大多喜町取材中に記者は、川崎ナンバーの高級外車で家族経営の電器店に乗り付けた夫婦が最新の冷蔵庫など25万円分を選んで金券で購入するのを目撃します。その男性は〈これまでに町を四回訪ねて、大きな買い物はここでした〉と記者に語ったとあります。
    「ふるさとへの寄付(納税)」の名を借りた税回避策は、さらなる利得を求める高級品ネット通販まで生み出した。「ふるさと納税」ブームに沸く人口1万人の町の生々しい姿は、ニッポンの何を映しているのでしょうか。

     菅義偉官房長官が第1次安倍政権で総務相だった2007年に打ち出した「ふるさと納税」。税金対策になるということでブームとなったわけですが、誰でもがその恩恵に浴せるわけではありません。年収や家族構成などに応じた控除上限額があるため節税効果をたっぷり享受できるのは高所得層だけ――と本書は指摘しています。

    〈例えば、宮崎県都城市は百万円の寄付で焼酎「黒霧島」の一升瓶が三百六十五本もらえる。しかし、百万円を寄付するには、サラリーマンだと年収三千万円ぐらいの人でないと不可能だ。戻る額には限度があるので、貧しい人にはふるさと納税のメリットはほとんどない。〉

     ふるさと納税収支黒字額トップの都城市の黒字額は42億円余り。それだけ人気も高いというわけですが、魅力ある返礼品を揃えた地方の自治体が人気化すればするほど、一方で都会では弊害が生じています。例えばふるさと納税の収支で2015年度の赤字がなんと16億円となった東京都世田谷区。待機児童数が全国で最も多い自治体なのですが、区によると16億円あれば120人規模の保育所を二つ新設して、1年間運営してもおつりがくるという。世田谷区のほか、約28億円もの赤字となった横浜市、約18億円の名古屋市と大都市が赤字自治体の上位に並びます。
     税金対策に熱心な富裕層が頼るのは「ふるさと納税」だけではありません。「タワーマンション」もあれば、海外移住、正真正銘のタックスヘイブンの活用もあります。本書では適法の手段を用いて税を逃れている実践者たちの言い分もきちんと聞いて紹介しています。税の仕組みを考えるうえでも興味深い主張も数多く含まれています。

     富裕層vsサラリーマンの不平等を中心に紹介してきましたが、もうひとつの不平等として忘れてはならないのは企業に対する減税措置の問題です。日本では各企業に対して多岐にわたる減税措置がとられています。しかしどんな企業がどういう減税項目でいくらまけてもらったかの実名はいっさい公表されていません。
     減税は国に入る税金が減ることになるので、実態は税金から特定の企業にお金を出す補助金と変わりがない。だが金額や支出先が明らかにされる補助金とは違い、減税ではそうした情報が公開されることはありません。財務省の750ページに及ぶ調査報告書には個別企業の名前は一切なく、減税項目ごとに利用している上位10社がアルファベットと6桁の数字によるコードで示されているだけ。記者たち取材班は、企業の公表資料と照合するなどの方法で、複雑な企業減税の一端をつかみます。それによれば、トヨタは報告書に公表されている減税項目の九つで上位10社に入っているという。なかでも金額も大きくとくに注目すべきは、第2次安倍政権になって一気に再拡充された研究開発減税です。2014年度の特例減税約1.2兆円の半分以上にあたる6,746億円がこの研究開発減税によって占められていたことをつきとめた記者たちは、こう続けます。

    〈トヨタはこの項目だけでも一千八十三億円と、ダントツの減税を受けていた。同減税の二、三位は同じ自動車大手の日産自動車とホンダで、四位はリニア新幹線で開発費が増えているJR東海、五位は連結ベースで年三千億ほどの研究費を計上するキヤノンだった。上位五社で二千億円近い減税を受けていた。〉

     上位5社分を除いてなお研究開発減税は4,000億円を優に上回る巨額です――いったいどの企業の懐を潤しているのか。そしてそれを動かしているのは誰なのか。
     不平等社会ニッポンの税金地獄の実態――給与明細、あるいは確定申告書(控え)を脇に置いて、じっくりとお読みください。(2017/4/21)
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    投稿日:2017年04月21日
  • 3月20日
    3月20日は地下鉄サリン事件が起きた日だ。
    私は当時はニュースで事件の報道を知ったくらいで、完全に傍観者でしかなかったが。
    あの日と阪神大震災と東日本大震災を機に、日本は社会としての方向を大きく転換せざるを得なくなったように感じる。
    ファッション、現象、流行として村上春樹を捉える風潮には以前から困惑を覚えていたけれど、この記録は、多くの葛藤を経て、この事件当事者の方々の肉声を、真摯に伝えようとするものであり、村上氏の別の引き出しをまた一つ新たに私達に示している。
    当時は誰もが、なぜこんなことが起きたのか受け止めることができず、まさに報道は狂騒の極みのようだった。しかし、他の数え切れない痛ましい事件と同様に、当事者に何が起きていたのか、結局のところは傍観者には伝わっては来なかったし、私を含めて傍観者は他の事件や雑多なニュースと一緒にして、数年もしたらこの異常な忌まわしい事件も記憶の片隅に押しやってしまったように思う。忘れられることは人間にとって救いでもあるけれど、決して忘れてはならないこともあるだろう。
    北朝鮮情勢に神経を尖らせ、ISの脅威に曝されている今こそ、理不尽かつ圧倒的な暴力が、人に一体何をもたらすのか、心に刻むべく、広く読み継がれるべき記録だと思う。
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    投稿日:2017年04月03日