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『魁!!男塾』連載当時の読者が振り返る読みどころガイド

『魁!!男塾』は1985年~1991年にかけて「週刊少年ジャンプ」(集英社刊、以下『ジャンプ』)にて連載され、『北斗の拳』『キン肉マン』『キャプテン翼』とともに、後に「ジャンプの黄金期」と呼ばれる時代を築いた人気作品の一つです。
ここでは『魁!!男塾』がジャンプに連載されていた時代にリアルタイムで読んでいた読者の目線から本作の魅力や“こんなところに注目するとより楽しめる”という要素をご紹介いたします。

ここに注目 その1
常識の斜め上をいく試合会場

硫黄関の死闘の巻より(第4巻)
硫黄関の死闘の巻より(第4巻)

「男塾じゃどんな理くつも通らねえってことだけだ」と第1話で剣桃太郎が語る通り、本作には、理屈や道理を超えた世界が展開しています。壁があろうが家があろうが曲がらない「直進行軍」や油がなみなみと注がれた金ダライに、火のついたロウソクを笹舟に浮かべ、タライの下を火で焚く「油風呂」など、およそ常識の斜め上をいくような男塾名物が数多く登場します。関東豪学連との「驚邏大四凶殺」、大豪院邪鬼たち男塾三号生との戦い「大威震(※)八連制覇」では、桃や富樫たち塾生との戦い方はもちろん、その戦いを行う舞台の斬新さが印象的です。
たとえば「驚邏大四凶殺」では J vs 雷電の第一回戦(一の凶)から1,000度の高熱を持つマンガン酸性硫黄泉で行われます。どんな場所かを描くにあたって、ウサギをこの硫黄泉のなかに落とす場面がありますが、一瞬で骨になってしまう描写が、子ども心にえげつない場所で戦うものだなあ、と思ったものです。 ※震は手編に震

ここに注目 その2
矛盾があってもナンボのもんじゃい!

男のわかれの巻より(第5巻)
男のわかれの巻より(第5巻)

さきほど『魁!!男塾』では、常識や道理を超えた世界が展開していると記載しましたが、それ以上に驚くのが、小さなことにこだわらない作者・宮下あきら氏の豪快な作風です。もはやネタともいえますが、戦いに敗れ没したと思われたキャラクターが次の戦いでは何事もなく復活していたり、「こんな状況で髪だけが燃えるわけがない」「あれ、富樫のドス、こんなに長かったっけ?」と思う場面が随所に盛り込まれています。
ただ、子どものころはそんな疑問を抱くこともなく「飛燕やっぱり死んでなくて、良かった」「男爵ディーノ、なんちゅう髪型」とか、友人と話していたものです。年月を経て振り返ると、思わずツッコミたくなる部分があったとしても、それも本作ならではの魅力といえるのではないでしょうか?

ここに注目 その3
昨日の敵は今日の戦友(とも)

万針房独眼鉄の巻より(第5巻)
万針房独眼鉄の巻より(第5巻)

少年マンガの王道ともいえる展開に、最初はライバル(主人公にとっての敵)として登場していながら、物語が進むにつれて味方になる流れがあります。『魁!!男塾』もまさにその系譜にあり、伊達臣人率いる関東豪学連や、大豪院邪鬼を筆頭とする男塾三号生は後の戦いで、桃たち男塾一号生の強力な味方となっていきます。「天挑五輪大武會」で16名、「七牙冥界闘」で17名と主人公チームのメンバーが戦いを経るにしたがって増えていくものの、チームメンバーそれぞれに見せ場があるのも本作の大きな魅力となっています。

ここに注目 その4
塾長・江田島平八の圧倒的存在感!

大逆の男の巻より(第4巻)
大逆の男の巻より(第4巻)

本作の印象的な台詞に「わしが男塾塾長江田島平八である!」があります。何を聞かれてもこの台詞を繰り返す塾長は、お笑いの世界で同じギャグやボケを繰り返す天丼に近い手法ですが、子どものころは、このギャグの意図が汲み取れなかったことを思い出します。
塾生たちと本気で戦う場面はほぼありませんが、どれほどの強さなのかは友人間での話題のタネとなっていました(休み時間や放課後に登場キャラクターのなかで誰が一番強いのかを話し合うのが、本作に限らず格闘マンガの魅力でした)。そんな塾長がついに敵と対峙する場面があります。どんな戦いになるのかは、ぜひあなたの目で確認してください。

ここに注目 その5
全国のちびっ子が困惑!?
謎の出版社「民明書房」

大鐘音エールの巻より(第4巻)
大鐘音エールの巻より(第4巻)

本作では、作中に登場する武器や慣習、技の由来を解説した書籍がたくさん登場します。『剣史記』『ヨーロッパ中世スポーツの起源』『戦国武将考察』など。これらの書籍を発刊しているのが民明書房です。
『暁!!男塾 ─青年よ、大死を抱け─』や『天下無双 江田島平八伝』では、民明書房創業者の大河内民明丸が登場し、架空の存在であることが明示されますが、本作の連載当時は、この出版社が実在するものだと思い、町の書店に問い合わせたものです(具体的にどの本だったかは忘れてしまいましたが……)。そんな読者が他にもいたようで、書名や解説が次第にフィクションぽく変わっていきます(『狼少年-拳-』『俺のケツミット』などはその際たるもの)。初期から中期まではフィクションとは思えず、民明書房の書籍を真剣に探したことを思い出します。

©宮下あきら/サード・ライン