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小坂俊二大特集 インタビュー

4つのコマから生まれる多種多様な物語――。古く長い4コマ漫画の歴史からは様々なスタイルの4コマが生まれ、広い裾野を持つおおきな山となっている。その山の王道を突き進むのが小坂俊史だ。多種多様でありながら一本筋の通った笑いがある、小坂俊史作品の魅力に迫る!

小坂俊史ロングインタビュー

4コマらしさと笑いがつまった『せんせいになれません』から、どこかで生きる人々の日常を叙情的に描いた『中央モノローグ線』、作者本人が日本中のわびれた何処かに訪問する『わびれもの』…幅広い小坂俊史作品はどのようにして生まれるのか?その秘密を伺った。

“いしいひさいち”にハマり、4コマの方法論を手にする

――小坂俊史さんは現在4コマ漫画を描かれているわけですが、小さい頃から4コマ漫画を愛読されていたのでしょうか?

小さい頃は普通に『ドラえもん』とか、『週刊少年ジャンプ』とか、オーソドックスなものばかり読んでいましたね。
それが中1のころにガラッと変わって、いしいひさいち先生の作品を読み始めたんです。

――いしいひさいち作品は誰かに勧められたのでしょうか?

3つ上の兄が、なぜか『タブチくん』(※1)を買ってきて、それにドハマリしたんです。他のマンガを読むのが減って、周囲とはびっくりするぐらい話が合わなくなりましたね(笑)。

――4コマとの出会いはいしいひさいちとの出会いでもあったんですね。

4コマ漫画というより、いしいひさいち作品にハマっていましたね。読んでる漫画の7割がいしいひさいち作品。あとの3割がサンデー系の少年漫画という感じ。
田舎で手に入った数少ないいしいひさいち本を繰り返し読むうちに、自分の中に4コマ漫画の基礎ができていったんでしょうね。この基礎だけで、20年間4コマ漫画を描いているといっても大げさじゃないです。

――『文藝別冊 いしいひさいち』いしいひさいち先生インタビューの中で、小坂俊史さんのことを絶賛されていましたよね(※2)

ほんとにもう、なんちゅうご褒美かって感じです。今までなかったってくらい嬉しかったですね。

――その頃から自分で4コマを描いてみようと思われたのでしょうか?

お手本としていいものだけを読んで育ったので、それを自分でやれるとは思っていなかったですね。漫画を描いたりもしましたけど、とてもじゃないですけど、将来を考えたりではなかったんです。
自分で描けるかもと思ったのは、初めていしいひさいちさん以外の4コマを読んだときです。正直、「…あ、俺にもチャンスがあるぞ」っていう気持ちが芽生えました。

――漫画家デビューに至った経緯を教えください

就職活動に全敗したからですね。就職課の先生が「相撲は8勝しないと勝ち越しにならないけど、就職は一勝すればいいんだよ」って言われてすごく楽になったんです。けど結果は、0勝16敗。
実家に帰るのも嫌だったので、何かないかと思って4コマ漫画に手を出しました。
大学4年の10月末に描いて『まんがくらぶ』に送ったら受賞して、そのまま年末にデビューしました。その初めて描いた作品が『せんせいになれません』なんです。

仲良く対立する変わり者の教師たちと生徒たちを描く(『せんせいになれません (10)』)

仲良く対立する変わり者の教師たちと生徒たちを描く(『せんせいになれません (10)』)

――受賞してすぐに漫画家になると決めたのでしょうか?

デビューしたからには、もう、やるしかない。この勢いは止めてはいけないと思って、上京しようと思いました。
でも、2年で何もなかったらやめようと期限付きではじめたんです。同じサークルで、上京する友人とルームシェアしながら暮らすことにしました。
場所は中野です。上京した漫画家は中野に住むもんだと思い込んでいたんですね。それまで東京に行ったこともなかったんですけど。

――それから中野にはずっと住んでいたのでしょうか?

2年後に、イラストの仕事で30万ほど臨時収入が入って、それで同じ中野区内に引っ越しをしました。僕が出たあとにその部屋に入ったのが漫画家の森繁拓真で、彼はサークルの2年後輩なんです。
彼も卒業間際に賞をとって「漫画家になりますわ」って言って上京してきたんです。

 

――お2人とも漫研に入っていたのでしょうか?

僕たちは漫画研究会には入ってなくて、別のサークルでした。でも、夜こっそり彼と漫研の部室に忍び込んで、漫研OBのこうの史代さんが表紙を描いた会報を読んだりしましたね。

――受賞した『せんせいになれません』がそのまますぐ連載になったのでしょうか

1年ぐらいは代原の時代がありまして、その頃はずっと「誰か原稿落とさんかな」と考えていました。1巻の初めのほうがそうですね。今見ると、桃山(※3)の位置が不安定だったりしています。

生態、考え方、全てが謎だらけの桃山(『せんせいになれません (7)』)

生態、考え方、全てが謎だらけの桃山(『せんせいになれません (7)』)

――『せんせいになれません』は連載開始から20年が経っていますが、開始当時に比べて描き方は変わったと感じますか?

そうですね。今だったら自分ルールで認めていないものもありますね。

――自分ルールとはどのようなものでしょうか?

感覚的なもので、言葉にするのは難しいんですが、なんというか「4コマである意味がある」と「4コマという形の中でいろんなものが絡んでいる」ということなんです。

70点を78点にするために時間をかける

――4コマはどのように考えられているのでしょうか?

1コマ目でかなり決まりますね。いい1コマ目のシチュエーションと、自分の持ちキャラクターがどのような行動をするかパターンがわかっていると、3コマまでは自然とキャラクターが行動していくんです。
そこから「オチに向かうにはどうすればいいんだろう」、「もうちょっと何かないか」って探す作業が多いですね。「もう一つ、何かにかからないか」とか、「2コマ目にいいセリフ挟めないかな」とか。
その段階で足し算することが多いので、あまりセンスのいい4コマになっていないという自覚はあります。何か足りないと思った時に、あえて引くってことができないタイプなんですよ。
そこで引き算をできる人もいますよね。もしかしたら、引くのではなくて、最初から余計なものが無いのかもしれないですが。僕は、不安になると足してしまう。足してとにかく小さく点をかせごう、70点を78点にしようと考えるタイプなんです。

――少しでも良くしようということに時間がかかってしまう

そうですね。そこにどうしても時間を使ってしまいます。70点の作品のままでも、出せるっちゃ出せるけど、でも…っていう気持ちがあります。

――タイトルを始めるときはどのように設定を決められるのでしょうか?

連載立ち上げのときは、あまり設定を詰めずに始めることが多いですね。シチュエーションや、キャラクターの方向性を大体決めておくくらいで、あとは最初の3回くらいで固まっていきます。
実際描いてみて、早いうちに「勝ちパターン」というか、キャラクターに応じた落とし方が見つかると楽になります。

――『せんせいになれません』や『サークルコレクション』の単行本には細かな裏設定が掲載されていますが、あれも後からつくられているのでしょうか?

単行本1冊分描くと、さすがにキャラクターが固まってくるので、後づけで設定が決まっていきますよね。で、一度固めた設定は崩さないんですよ。僕は設定はガチガチに守らせるというルールがあるんです。

単行本のおまけには、大学に巣食う謎のサークルが数多く紹介されている(『サークルコレクション (1)』)

単行本のおまけには、大学に巣食う謎のサークルが数多く紹介されている(『サークルコレクション (1)』)

――なぜ設定を崩さないようにされているのでしょうか?

それが縛りになるからですね。自分の中で縛りをつくっていかないと描けないんです。そもそも、4コマという形式自体が漫画としては縛りですからね。
 真白い画用紙を渡されて何か描けと言われても、何も描けないタイプなんですよ。そこに枠があれば、「この枠を埋めればいいんだ」と分かる。さらにテーマがあれば何を描けばいいか見えてくる。その埋める道具として、1コマ目だったり、キャラクターがあるんです。

――縛りが逆に発想の原点となるんですね

あまり自由な発想が得意ではないのです。だから、まずシチュエーションをどんどん絞っていくんです。絞られた中でどう転がすかは、自分の中にある4コマの経験則に沿っていく。設定やキャラクターは、やはり自分を縛るためのものですね。

4コマ漫画の流行の変遷

――小坂さんの4コマの基本をつくったいしいひさいち作品にも魅力的なキャラクターは数多く登場しますよね

いしいひさいちさんは、いいキャラクターを描く人と言われていますけど、僕はそれ以上に4コマを構成だけで魅せているところが好きなんですよ。4コマがビタっと着地する、構成の上手さにしびれるんです。それが4コマ漫画ならではの凄さだと思います。
単行本で言うと、『スクラップスチック』が好きですね。あれはほぼキャラクターに頼らない純4コマ的な作品集なんですよ。

――今は、あらゆるジャンルでキャラクターが重視されていますね

そうですね。キャラクター主導ですよね。本当は構成だけの4コマに挑戦したい気持ちもありますけど、今の時代では難しいんですよ。自分としては少しやりにくさがあります。
『やまいだれ』は構成を頑張った作品です。最低限の固定キャラで、毎回のシチュエーションや使い捨てキャラを使いながら構成を工夫しました。

病院をテーマに展開される『やまいだれ』。数多くの奇病が登場する。(『やまいだれ (1)』)

病院をテーマに展開される『やまいだれ』。数多くの奇病が登場する。(『やまいだれ (1)』)

――構成という要素は4コマ漫画でとても重要な要素なのですね

しかし【構成】も4コマ漫画を成立させる一つのポイントでしかないんです。ポイントは他にも【キャラクター】そのものと、【キャラクターたちの関係性】――関係性を見る人も多いですからね――があって、正直、どれか1つあれば、4コマ漫画の連載はやっていけると思います。

――確かにキャラクターとキャラクターの関係性を重視した萌え4コマは長く人気がありますよね

この20年、萌え4コマがメインになっていると思いますが、あそこまで大きな勢力に成るとは思わなかったですね。4コマ漫画は特殊ジャンルで、どの作品から入るかによって読者さんの4コマ観が全く変わるんですね。だから入口となる作品が大事だと思うんですよ。

――「4コマ漫画」のイメージそのものの変遷があるのでしょうか

10年毎に変わっている気がしています。80年代に『がんばれ!!タブチくん!!』が流行って、同様の漫画が増えるわけですよ。その後、90年代には『伝染るんです。』が流行って、一気に4コマ漫画=不条理ギャグになりました。ただ、不条理4コマは本当に天才しかできなくて、なかなか続かないから、その流れが10年もたなかった印象ですね。

――小坂さんがデビューされたときはどのような状況だったんですか

僕は97年にデビューしたんですけど、ちょうど不条理4コマが燃え尽きた頃にうまい具合にこの世界に入ったんですね。
2000年ぐらいになると『あずまんが大王』が大きなブームになって、そこでまた、4コマ漫画の入り口が大きく変わって…。もしかしたら、2000年以降だったらデビューできてなかったかもしれない。
2010年ぐらいの入り口は、多分『けいおん』ですね。2000年からの流れをそのまま引き継いでいる感じですね。

――現在はどのような流れと認識されているのでしょうか

今は『徒然チルドレン』とかストーリー重視の4コマが主流になってきていて、次の2020年の流れをつくると思っていたんですが、そこに『ポプテピピック』が出てきましたからね。ひょっとしたら、ブルドーザーみたいに一気に土地を均してくれるかもしれない(笑)。草も生えないところからまた何か出てくるかもしれないですね。

『中央モノローグ線』と『遠野モノがたり』

――いしいひさいち先生に学びご自身でつくりあげた経験則があるので、安定的に作品を描くことが出来ているのでしょうか?

毎回スランプみたいなものです。そんなに会心のものが出来なくて、あまり、よくできてないと思うことの方が多いですね。
4つのコマを埋めることはできても、自分でつまらなく感じる時期がよくあります。違うネタであっても、過去にやったことがあるような気持ちになる。昔の自分に追いつかれて、乗り越えて…その繰り返しなんです。
マイナーチェンジなんです。この20年、何かを大きく変えた事はそんなにはないんですけど、本当に少しずつ、過去の自分から逃れるというか、なんとか自分が満足できるようにじわじわと変わっているつもりです。

――しかし『中央モノローグ線』はそれまでの作風から大きく変わられましたね

『中央モノローグ線』を描く前に、コミティアで4コマでもお笑いでもない、しんみりしたオリジナル同人誌を描いていたんですね。それを見た担当さんが「ライオリ(『まんがライフオリジナル』)は懐が広いからこういうのやってもいいよ」と連載の話になったんです。そうはいっても、普通の4コマ漫画とオチの形が全然違うし、本当に連載してもいいのか、受け入れられるか心配でした。
『中央モノローグ線』ではとにかくセリフ(モノローグ)を練りましたね。その代わり、他の作品の倍、製作に時間がかかっています。

中野、阿佐ヶ谷、高円寺…中央線沿いにすむ様々な女性の日常を叙情的が描かれる(『中央モノローグ線』)

中野、阿佐ヶ谷、高円寺…中央線沿いにすむ様々な女性の日常を叙情的が描かれる(『中央モノローグ線』)

――「モノローグシリーズ」のような表現の4コマを描きたいという欲求はあったのでしょうか

僕はもともと、上京してまず中野に住むような、サブカル大好きっ子なんです。でも、4コマ雑誌の漫画は、サブカルとは無縁じゃないですか。ヴィレッジヴァンガードには置かれないタイプの漫画というか…。
僕自身は4コマ雑誌でデビューして、そのまま意外とうまくいっていて、それならばと自分の中のサブカル的なものは封印してきたつもりなんですよ。でも『中央モノローグ線』で呼び起こしてしまったんですね。
それが、未だに自分でも幸か不幸かわからないんですよ。眠らせておいたほうがよかったかもしれないという気もするんです。
ただ、『中央モノローグ線』は初めてヴィレバンに置かれたんですよ。当時は「俺の本が並んでる」って素直に嬉しかったですね。

――確かに4コマ漫画の読者層とヴィレッジヴァンガードの利用層は重ならない気がしています

4コマ漫画は独特な層に支えられているジャンルなので、その層にだけ向いて描くべきだったかもしれない。「モノローグシリーズ」のような、よそ見はするべきじゃなかったかもしれない。でも、ついやってしまったんです。これは本当に複雑で、今でも考えます。

キャラクターとの距離感

――『モノローグ』シリーズの登場人物はみな女性ですが、描くのに難しさはありますか?

女性キャラクターといって、あまり意識はしていないですね。ただ、女性にすることで、フィルターがかかるというか、自身と距離感が出てくるのはあります。
『モノローグ』シリーズのような内容で、キャラクターを男性にしてしまうと自分の何かを仮託してしまいますが、それには躊躇してしまうんです。
ちょっと仮面をかぶせるつもりの“女性”なんです。そのほうが距離を持って描ける。「自分じゃないよ」って言い訳できるんです。
キャラクターの内面も、結局は、自分の中の何かなんでしょうけど、それを恥ずかしげもなく出せるのは「これは自分じゃない」という言い訳があるからなんですよね。

『モノローグジェネレーション』は、世代や立場が異なる女性たちの日常が並行している(『中央モノローグ線』)

『モノローグジェネレーション』は、世代や立場が異なる女性たちの日常が並行している(『中央モノローグ線』)

――その都度つくるキャラクターにはご自身の一部が反映されているのでしょうか?

あまり、自分という人間に自信がないというか…自分のことをキャラクターに仮託しちゃうと、あんまりいいキャラにならないんです。
これまで4コマで、いろんなキャラクターをつくっていますから、あまり1人に思い入れることはないですね。1人を深めていくのは自分には向いてない気はしています。

――キャラクターとは常に距離をもって描かれているということでしょうか?

そのつもりではいます。基本的には全てのキャラクターとの距離をとっています。
パーティーで出会った漫画家さんに「『モノローグ』シリーズ読んで、作者は女性なのかと思いました」と言われましたが、それはすごく嬉しかったですね。

――その意味ではご自身を主人公にして、4コマではない『わびれもの』は特殊ですね

『わびれもの』は、ほかのショートと若干つくり方が違うんですね。自分が取材した流れがあって、その流れを基本的にそのままやっているドキュメントなので、あまり構成とか練り込むタイプではないですね。
その後、8pショートを描くようになってからは、4コマ漫画の経験則が活きてきました。

※1アニメ化もされた、いしいひさいちの人気作『がんばれ!!タブチくん!!』の続編。プロ野球選手・タブチコーイチの選手としての晩年からその後を描いたシリーズ。 ※2『文藝別冊 いしいひさいち』(河出書房新社)に掲載された、いしいひさいちインタビューの中で、注目している現役の4コマ漫画家として、植田まさしと小坂俊史の名をあげている。 ※3『せんせいになれません』の各回最後から2本目の4コマに登場する。不可思議な存在でシュールなギャグをとばす

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©小坂俊史/竹書房

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