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シャイロックの子供たち

「半沢直樹」シリーズのドラマ化で大ブレイクした著者が、「ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊」と語る本作。とある銀行の支店で起きた現金紛失事件。女子行員に疑いがかかるが、別の男が失踪!?“叩き上げ”の誇り、格差のある社内恋愛、家族への思い、上がらない成績……事件の裏に透ける行員たちの人間的葛藤。銀行という組織を通して、普通に働き、普通に暮らすことの幸福と困難さを鮮烈に描いた傑作群像劇。

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本書『シャイロックの子供たち』紙版の帯に「池井戸潤の裏ベスト1」の惹句とともに、「ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊」という著者・池井戸潤の言葉が大書されています。視聴率トップのヒットTVドラマ「半沢直樹」原作小説『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』を筆頭に、池井戸潤の小説が紙も電子も売上げランキングを席巻しています。本書もそのひとつで、私の手元にある紙版(文春文庫)奥付には「2013年8月10日 第19刷」とあります。初版発行が2008年11月10日ですから、5年で19刷。出版不況がいわれる中にあって、順調に版を重ねている数少ない本であることがわかります。1998年『果つる底なき』(講談社文庫)で江戸川乱歩を受賞して作家デビューした池井戸潤は2011年に『下町ロケット』(小学館刊)で直木賞を受賞しますが、本書はちょうどその間、2006年に単行本が出版されています。作家デビューから8年、直木書受賞の5年前。作家としての転機というか、新しい手応えを得た作品だったのではないでしょうか。著者の思い入れの強さは、この作品が、三菱銀行員時代に著者自身が勤務した東京・大田区の長原支店を舞台として描かれているところにも現れています。書名の「シャイロック」は、シェークスピアの『ヴェニスの商人』に登場する強欲な金貸しです。その「子供たち」、すなわち旧財閥系のメガバンク東京第一銀行で働く銀行員たちの生き様を描く短編が連なって、その群像劇のなかで「ひとつの事件」の謎が解明されていくという金融ミステリーの色彩をもつ異色作です。群像劇といいましたが、なにしろ、この作品は京浜工業地帯の中小企業や町工場が多く集まる地域に立地する小さな支店が舞台ですが、フルネームで登場する銀行員だけでも20人を上まわります。一話ごとに主人公が変わり、それぞれきちんとキャラクターが書き分けられ、ひとつの事件も視点が移動することによってまったく異なる様相をみせていきます。ここにミステリーとしての謎解明のスルリ、緊張感がみなぎって、読者をひきこんでいきます。池井戸ミステリーの真骨頂といっていいでしょう。全話を貫く事件――100万円紛失事件はこう始まります。〈「係長、現金が足りないんです」戸田亜希子の声は、営業時間終了後の店内の喧噪の中でもはっきりと聞こえた。業務日誌を書いていた愛理は思わずその手を止めて声のほうを振り向く。何人かの女子行員が愛理と同じように、亜希子と、報告を受けている課長代理の水原悦子のほうを見ている。申し訳なさそうな顔の亜希子を、水原係長は不意打ちをくらったような顔で見上げていた。「いくら?」水原がきいた。不安そうな素振りは見せないが、声はどこか、固い。小柄な水原は、東京第一銀行でも数少ない女性の課長代理だった。たいへんな努力家で、部下の人望も厚い。面倒見のいいことでも知られていて、姉御(あねご)肌のところもあるから男性行員にも人気がある。一方の、戸田亜希子は、入行七年目のベテラン行員だ。「百万円なんですけど」その亜希子がいうのだから、これはただごとではないぞ、という雰囲気はすぐに漂い始めた〉手形や現金といった“現物”の紛失は、銀行員にとって致命的なミスです。過失があればクビは大げさだとしても、出世には響く――銀行員経験のある著者・池井戸潤はそう書いて、支店をあげての捜索の様子を続けます。現金を数え直すことから始まり、取引先には余分に払っていないか一件ずつ問い合わせをしていきます。さらに最低でも一週間分は保管しておくことになっているゴミ袋をすべて探し直す。それでも出てこないとき、最後はお互いの私物を確認しあうことになります。〈愛理は、自分のロッカーを開けて、通勤用にショルダーバッグを取り出した。「どうぞ」ヒカルがマグネットになっている口をあけて中をのぞき込む。「先輩って、持ち物シンプルですね!」そうかな。MDではなくて、文庫本というところが違うだけだと思うけど。そのとき、「何読んでるんですかあ」といって文庫本を開いたヒカルの足下に何かが落ちた。拾い上げたヒカルが、不思議そうにそれを見つめる。愛理は言葉を失った。「先輩、これって」そばにいた水原が振り返り、ヒカルの指がつまんでいるものを見た途端、表情を曇らせた。帯封だった。札束をとめる、紙の帯だ。帯には、東京第一銀行のロゴと、裏に日付が入っている。それは紛れもない今日の日付だった。ざわついていたロッカールームが静寂に包まれた。「どこにあったの?」水原がきいた。「北川さんの文庫本に挟まっていたんですけど」ヒカルが動揺している。くりっとした丸い目は、愛理をちらりと見て気の毒そうな色を浮かべるや、床へ落ちた。「えっ、ちょっと。違います、私――」あわてて否定した愛理を、水原はきつい口調で遮った。「北川さん、ちょっとお話をきかせてもらえる?〉紛失した100万円と女子行員のバッグから出て来た帯封の波紋は思わぬ方向に拡がっていきます。高卒であることをバネに支店ナンバー2の座を手にして、それだからこそ成績を上げることに必死で、部下に対しパワハラまがいの叱責をくり返す副支店長、海外勤務を夢見て努力を重ねるものの実績が上がらず苦しむ融資課次席・・・・・・その知られざる人間関係、家族への思い、欲望、不安、隠してきた秘密などが織り込まれて、銀行という世界が見事に活写されていきます。初めに疑われた北川愛理をかばった上司の西木係長は消えた100万円の謎に迫るが、突然失踪。ここから短編のつらなる群像劇は一気に金融ミステリーの色彩を強めて、予想外のエンディングへ。「倍返し」の半沢直樹的カタルシスとは少し異なりますが、“組織内で正しく生きるとは何か” “家族のために何ができるのか”に思い悩む銀行員の姿は静かな共感を呼び起こします。メガバンクの大支店ではなく、まして本店でもなく、中小企業や町工場を相手にする下町の支店で働く銀行員たちの生きざまは池井戸潤にしか書けません。池井戸潤だから書けた一冊です。(2013/9/13)
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