ボートの三人男

500円 (税別)

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気鬱にとりつかれた三人の紳士が犬をお供に、テムズ河をボートで漕ぎだした。歴史を秘めた町や村、城や森をたどり、愉快で滑稽、皮肉で珍妙な河の旅が続く。数々のオマージュ作品を生み、いまだ世界で愛読されている英国ユーモア小説の古典。

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気鬱にとりつかれた三人の紳士が犬をお供に、テムズ河をボートで漕ぎだした。歴史を秘めた町や村、城や森をたどり、愉快で滑稽、皮肉で珍妙な河の旅が続く。数々のオマージュ作品を生み、いまだ世界で愛読されている英国ユーモア小説の古典。

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スペシャルレビュー

傍らにウィスキーの瓶を置き・・・・・・

 私は重度の活字中毒者でして、しかも気に入った小説やエッセイは、時間があれば手にとって数ページ読むだけでも満足してしまいます。言ってみれば幼児がぬいぐるみをいつも手放さないようなもので、だからお気に入りの本はいつのまにかぼろぼろのばらばらに。ですので、私の電子書籍ライブラリーのかなりの部分を「いつも持っていたいお気に入りの本」が占めています。「ボートの三人男」はそのひとつ。

 むかし小学館から『少年少女 世界の名作文学』というシリーズが出ておりまして、小学生の私はそれを買い与えられていました。これはなかなかに強力なシリーズでして、全50巻が「イギリス編」「フランス編」みたいに国別になっていて、しかもイギリス編だけで7巻もある、というボリューミーさ。おかげで私は世界各国の名作を子供向けバージョンでたくさん読むことができ、「秘密の花園」「少女パレアナ」「ケティ物語」といったアメリカの少女小説の筋を今でも覚えていて、女性の友人知人に不気味がられています。

 この「ボートの三人男」は、「イギリス編6」に収録されていました。訳者は森いたるさんという方で、調べてみたら大正2年生まれの児童文学者とのこと。偉人伝や世界名作のリライトも手がけていたそうです。これを読んだのは小学4年生ぐらいだったと思いますが、もうとにかくおかしくておかしくて、何度読み返したかわかりません。ビクトリア朝時代(出版は1889年)のロンドンに住む3人の独身男が、ボートに乗ってテムズ川を下る、というだけの話なんですが(おっと、犬も1匹いました)、乗るまでの相談や荷造りでまず大騒ぎ、ボートの中でのさまざまな出来事がまたおかしく、そこに語り手の「ぼく」や二人の友人が経験したり人から聞いたりした妙な話、変な話、笑い話が挟まっている、という構成で、小学生のガキはげらげら笑いながら「テムズ川のボート遊び」に憧れたのでした。

 大人になって丸谷才一さんの訳が出ていることを知り、文庫を買ったのが大学生のとき。そのとき知ったのは、ユーモア小説でありつつテムズ川の観光案内・歴史案内でもあり、時にはずいぶんと生真面目な思索や道徳的な教えも出てくる小説なのだ、ということ。小学生向けのリライトでそのあたりは省略されていたのでしょうが、その多彩にして混沌とした文体の様子も、丸谷さんの見事な訳で楽しむことができます。

 最初にこの本を読んでから50年経ちました。小学生が読んでもおもしろく、定年近いおっさんが読んでも楽しい、というのは、考えてみればたいへんなことですね。中公文庫の解説(電子書籍では省略されているのが残念!)で、井上ひさしさんがこうおっしゃっています。「さあれ、一読されよ。できれば、日曜の午後など、時間のたっぷりあるときに、傍らにウィスキーの瓶を置き、スコット・ジョップリンのラグタイムでも聞きながら、文章を舐めるようにゆっくりと―」その通りです、井上先生!

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