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四雁川流景

グループホームで働く千鶴は結納前日も夜勤が入り、入居者たちはそれぞれの方法で千鶴を祝い……(「Aデール」)。40年以上前に失踪した初恋の女性・葉子に会うため、窪木は孫娘の園を連れて、葉子の入院する病室を訪ねる(「布袋葵」)。四雁川の流域に暮らす者たちを通し、生死や悲喜に臨む姿を静かに描く7篇は、僧侶にして芥川賞作家がおくる、鮮烈な「一期一会」の作品集。

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書店員のレビュー

紙の初版は2010年7月。ちょっと前の作品ですが、とても好きな作品なので、ご紹介したいと思います。お坊さん作家、玄侑宗久さんの短編集です。

四雁川という架空の川が流れる東北の町を舞台に、様々な人生模様が描かれた7編が収められています。介護施設で働く結納を控えた女性、暴君であった父を亡くした中年男性、若かりし頃の恋人を見舞う老人、高校生の娘を事故で亡くした夫婦、行方不明になった友を探す予備校生、性の芽生えを迎えた男の子、そして、ヤクザ者の生と死を見つめる僧侶。同じ町で生きながら、交わることのない7つの人生。派手さはありませんが、どれも清冽な空気感と、優しいまなざしに満ちた物語です。

この四雁川流域の町は、生と死が混沌とした町として描かれています。伝承では、この地で鎌倉時代に財をなした長者が、秘密を知った使用人を何人も切り捨てたといいます。そして、恨みに思った使用人の計略にかかり、長者は実の娘を切り殺してしまう……。この屋敷跡からは無数の人骨が発掘されたといいます。また神社では、神輿や天狗や巫女が登場する伝統的なお祭りが続いています。特に都会で生活していると忘れがちな、あちら側の世界ともいうべき世界と、現実世界が混沌と交わった町です。

特に心に残った一編は、「地蔵小路」です。高校生の娘を交通事故で亡くした夫婦の話です。妻は、事故の直前に娘に厳しく当たったことを悔やみ、仕事に復帰後も夜は地蔵小路の飲み屋で深酒してしまう日々を送っていました。学芸員の夫が展覧会のために借り受けた地獄極楽めぐり図、四雁川で発見されたある老人の死、鎌倉時代の長者の伝承……。それらの間を夫婦の意識は駆け巡り、やがてこの悲しみを悲しみのまま受け入れていきます。人が死ぬってのは、いろんなことが絡まってるってことだよ――。娘の死を受け入れていく過程を描く著者の筆の塩梅が、実に素晴らしい。

また、最終話の「中洲」もよかったです。寺の副住職である義洲の視点を通じて、谷さんというヤクザ者の生と死を見つめた物語です。
〈本堂で蝋燭に照らされた本尊さまに向き合うたび、自分だけでなく和尚さんや奥さんも、代々の住職たちも居候だったのだと思えてくる。谷さんも居候なら、陽子さんもクロも居候なのだ。〉
この文章に、著者自身の僧侶としての生き方、死生観が表現されていると思いました。

玄侑宗久さんを「僕にとって別格」と私淑する作家の道尾秀介さんは、文芸誌「文學界」掲載の書評で、「人が知っているつもりで忘れ、忘れているということさえとっくに忘れてしまっているそんな単純な事実に、『四雁川流景』は優しく気づかせてくれる」と評していましたが、まったく同感です。読後に静かな感動に満たされる、そんな小説です。
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