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歩兵の本領

名誉も誇りもない、そして戦闘を前提としていない、世界一奇妙な軍隊・自衛隊。世間が高度成長で浮かれ、就職の心配など無用の時代に、志願して自衛官になった若者たちがいた。軍人としての立場を全うし、男子の本懐を遂げようと生きる彼らを活写した、著者自らの体験を綴る涙と笑いの青春グラフィティ!

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3.11の東日本大震災から1か月が過ぎ去った今も、10万人の自衛官が被災地にある。そこはまさに「戦場」だ。その戦地で闘う彼ら、彼女たちの献身が、どれほど多くの人々の心をうち、勇気を与えてきたか。神戸でも新潟でも、大災害が起きるたびに多くの自衛隊員が急派され、黙々と救援と復興に力を尽くしてきたが、その素顔がよくわからない「顔のない組織」。憲法との関係から「日陰者」とまで言われている。その自衛隊員を生身の人間として描いた異色短編集が本書『歩兵の本領』だ。筆者の浅田次郎自身、高校を卒業後、自衛隊に入隊しており、内部にいたからこそわかる自衛隊員の素顔があますところなく描かれていて、興味はつきない。収録短編の一つ「小村二等兵の憂鬱」にこんなくだりがある。〈「何でおまえ、自衛官になんかなったんだよ」「知るかよ、そんなこと。大学落ちてフーテンやってたら、地連に拾われた。おまえは?」同期生は溜息をついて、少し言い躇(ためら)った。「ここだけの話だがよ、俺、田舎から出てきて、上野でテキヤやってたんだ。ポリバケツでタコ焼きの粉といてたら、地連に肩叩かれて」「へえ。そこまでやるんか。すげえな、地連の勧誘も」「足を洗うチャンスだぞ、って言うわけ。俺もまあ、考えてないわけじゃなかったから、お願いしますって言ったら、たちまち事務所に乗り込んでよ、親分と兄貴たちにナシつけてくれた」〉自衛隊の猛烈なリクルートぶりがよくわかるが、ただかき集めるだけではない点を浅田次郎はちゃんと見ている。小村二士の述懐。〈フーテンもヤクザも家出少年も、力ずくで鍛えられた。社会の落ちこぼれをかき集めたのに、そこから落ちこぼれたやつは一人もいなかった〉リクルートの状況も今はずいぶん変わっているのだろうが、「軍隊」の基本性格にそう大きな違いはないのではないか。本書を読み進めるなかで、思いはいやでも被災地という「戦場」に立つ自衛隊員たちが背負っているものへと向かう。3.11後の日本を考えるとき、読むべき本のリストに必ず加えたい一冊だ。(2011/4/22)
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