陽のあたる坂道

580円 (税別)

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女子大生・たか子は、経営者・田代の娘の家庭教師になった。裕福で幸福そうに見えながら出生の秘密を抱えた田代家は、優等生の雄吉、型破りの信次、足の悪いくみ子が、明るく寄り添って暮らしていた。人生を肯定的に切りひらこうとする信次と、まっすぐな性格のたか子はやがて心を通わせるようになるが――。奔放で闊達、自由な空気に満ち溢れた、胸のすく青春文学の王道!

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女子大生・たか子は、経営者・田代の娘の家庭教師になった。裕福で幸福そうに見えながら出生の秘密を抱えた田代家は、優等生の雄吉、型破りの信次、足の悪いくみ子が、明るく寄り添って暮らしていた。人生を肯定的に切りひらこうとする信次と、まっすぐな性格のたか子はやがて心を通わせるようになるが――。奔放で闊達、自由な空気に満ち溢れた、胸のすく青春文学の王道!

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書店員のレビュー

石坂洋次郎という小説家の存在を知ったのは、中学1年の終わり頃でした。1963年1月に公開された吉永小百合主演の日活映画「青い山脈」を観にいって、原作者・石坂洋次郎の名がスクリーンに映し出されたのを覚えています。60年安保で退陣した岸信介(現在の安倍首相の祖父)に代わった池田勇人首相が「所得倍増政策」を打ち出し、翌64年には東京オリンピックが予定されているという、日本が高度成長に向かって動き始めた時代です。明日(あした)は昨日(きのう)よりよくなっていくと誰もが信じられた時代。日活は石坂洋次郎作品を中心に青春映画を全面に押し出す路線で若者の心をつかみ、石原裕次郎や吉永小百合、浅丘ルリ子、浜田光夫らが青春スターとして時代を象徴する存在になりました。中学生の私が観た吉永小百合の「青い山脈」は3度目の映画化作品で、1949年、1957年の2度にわたって映画化され、さらに1975年に4度目の映画がつくられたという人気作品です。それ以外にも石坂作品は数多く映画化されていましたが、ビデオのない時代ですから、封切りを見逃した作品は、ときおり3本立てで上映される機会に観るか、原作の小説を読む以外には触れることができません。思いもかけない形で「石坂洋次郎」に遭遇した私は、はしかにかかったかのように石坂洋次郎の虜になっていました。『青い山脈』と並ぶ代表作、本書『陽のあたる坂道』もその頃読んだのが最初です。映画は1958年、1967年、1975年と繰り返し作られていることからも人気ぶりがうかがえますが、私は石原裕次郎、後に裕次郎と結婚する北原三枝(石原まき子)の二人が主演した1958年版を封切りからだいぶ時間がたってから観たと記憶しています。とまれ、戦後の日本文学史に独特な足跡を残した石坂作品ですが、いまでは『青い山脈』も『若い人』も入手は困難な状況で、唯一『陽のあたる坂道』が電子書籍化されて読むことができるようになりました。ということで、iPadに入れた『陽のあたる坂道』を久しぶりに再読したわけですが、これは今でいえばライトノベルだったのではないか、という印象を持ちました。第二次世界大戦が終わって10年あまり、活字に餓えていた若い世代に向けた読み物として見れば、主人公が当時売り出し中の石原裕次郎そのものであることもうなずけます。物語の舞台となる田代家は、自由が丘にあります。〈・・・O大学の国文科の三年生である倉本たか子は、緑ヶ丘のしずかな住宅街を歩いていた。自由ヶ丘の駅で下りていく道は、どこもゆるい上り坂の道になっており、南面しているので、その坂道にはいっぱい陽があたっていた。両側には、大きな邸宅が並び、ヒバやサツキやジンチョウゲなど、垣に植えられた樹々の緑が、目に沁みるように美しかった。将来、家庭をもち、子供を生み、年齢にして四十か五十になるころには、自分もこの程度の家に住むようになりたいものだ──。たか子は、そんな思いで、両側の家を、一つ一つ念入りに眺めながら、明るい坂道を上っていった〉陽のあたる坂道を上りつめたところに建つ田代家。一家の主人は田代玉吉。出版社社長だが、元をいえばみどり夫人が家付き娘で、玉吉は婿入りした立場。子どもは3人。長男の雄吉は医学部に通う医師の卵。ハンサムな秀才で品行方正。次男の信次は一風変わった男で、絵を描くのが好き。個性派の妹くみ子は、高校生。幼いとき、兄弟で遊んでいていたとき怪我をして、その後遺症で足がすこし悪い。映画で石原裕次郎が演じるのは、次男の信次。末娘くみ子の家庭教師に雇われ、一家と親しくなっていき、家族の秘密に関わっていく倉本たか子役は北原三枝です。二人の出会いを、石坂洋次郎はこう描いています。〈「僕の憲法って、きわめて簡単なもんだよ。……家へ訪ねてくる若い女の人の身体に、ちょっとばかり触らせてもらうことなんだよ。わけないやね。……僕の憲法、適用してもいいかね」青年は、赤チンを塗った人差指で、鼻の先きあたりを狙うようにして、たか子の身体のまわりを、ゆっくりと歩き出した。「そんな憲法……認めるわけにはいきませんけど……」(中略)だが、たか子の拒否にもかかわらず、青年の丸い指先きが、いまにも、おでこか頬ぺたか首筋の所に吸いついて来そうで、その予感だけでも、たか子の柔かい皮膚は、ムズムズとした反応を覚えた。なんだか、子供にかえって、二人で少しばかりおどけた遊戯をやっているような気もした。そして、(指先きでおでこをつっつかれるぐらいは、この精神薄弱者のために我慢してやってもいいわ)と、思ったりした。青年は、相手のそうした微かな心の動きを見抜きでもしたように、半歩近づいて、指先きをスーッとたか子の顎の所に伸べてよこした。(顎だったのだわ)と思っていると、丸い指先きは、そこから急降下して、たか子の丸く肉づいた胸を、うすいブラウスの上から、強くボクンと押しつけた。そして、二、三歩飛びのくと、「憲法だよ。……ぼくの憲法だよ。ハハハハ……」と、また弾けるように笑い出した。たか子は不意のショックで、まっ青になった。「何をなさるんです! 失礼ですわ! ……私もう帰りますから……」たか子は、目頭が熱く曇るのを意識しながら、門の方に引っ返した。すると、青年は、小砂利を蹴ちらすような馳け方をして、たか子の前にまわり、両手をひろげて通せんぼうをした。「君……君……。そんなことぐらいで怒ってはだめだよ。人生にはもっとつらいことが沢山あって、僕だって、そういうつらいことを堪え忍んでいるんだぜ。ほんとだよ。……よかったら、僕の頬ぺたを引っぱたいてもいいから、帰るのはよし給え。おセンチな女学生のようで見っともないぜ……」〉陽のあたる坂道にある出版社社長の家。四角な石の門柱には「田代玉吉」と記した、大きな陶器の標札。小砂利を敷いた道が、植込みをめぐって奥ふかく通じており、そのさきに聳える、褐色の煉瓦をはった大きな二階建の家。経済的にも豊かで平和そのものに見える家族でしたが、次男・信次の出生の秘密、妹くみ子の怪我をめぐるウソ・・・・・・とりつくろった「家族」の虚飾をはぎとった本当の姿が露呈していく展開の意外さ。そして――妹の家庭教師となった、たか子をめぐる兄と弟の恋のさやあて。「昭和の青春」を描いた石坂エンタテインメントは今も健在です。(2013/12/20)
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