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もっと声に出して笑える日本語

ベストセラー『声に出して笑える日本語』がますますパワーアップして登場!「ただいま地震が、地震が揺れています!」「ウチの孫はアメリカにホームレスに行ってるんだ」「あたってくじけろ!」……アナウンサーや有名人の迷言から、街で拾った言い間違い、そして死ぬほど下らないオヤジギャグまで新ネタを満載。著者渾身の書き下ろし!

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 18歳の春に立川談志門下に入り、以来40年以上にわたって落語の世界を生きぬいてきた立川談四楼。噺家として活動する一方、小説やエッセイの著書も多い才人です。とくに〝笑い〟と〝言葉〟に並々ならぬ関心をもって世の中を観察している〝日本語ウオッチャー〟としてもっともっと注目されていい存在ではないでしょうか。

 立川談四楼著『声に出して笑える日本語』(光文社、2013年3月29日配信)は、思わずのけぞるこんなエピソードから始まります。

〈テレビに悲惨な事故現場が映っている。大惨事と言っていい規模の事故である。上空にはヘリが飛び、消防、警察、自衛隊までが出動し、そこへマスコミが大挙して押しかけるから現場は大混乱──とそこでビデオが終了し、スタジオではその後の経過が何人かのリポーターやアナウンサーによって報告される。
 長いコーナーであったがひとまず終了し、次のコーナーへ移るべく、女性キャスターがまとめのコメントをする。で、このコメントにのけぞったのである。女優から転身したその人は、こう言ったのだ。
「御遺族は今、悲しみのズンドコに沈んでいます。謹んで御冥福をお祈りいたします」〉

 著者は「ズンドコ」に傍点をつけて注意を喚起しています――「ズンドコ」と「どん底」。ユニークな語釈や用例で知られる『新明解国語辞典』(三省堂)は、「どん底」を「一番の底。底の底。〔それより落ちるものも無い、最悪の状態の意にも用いられる〕としていますが、一方の「ズンドコ」は言葉として収録されていません。新明解だけでなく、日本で最大の国語辞典、『日本国語大辞典』(小学館)にも「ズンドコ」は収録されていません。
「ズンドコ」は国語辞典的な意味で「言葉」として定義はされてはいませんが、「ズンドコ節」といえば、だれしも流行歌としてその一節や掛け声が頭に浮かぶ耳になじんだ音です。
 氷川きよしが歌って大ヒットした「きよしのズンドコ節」(2002年)――。

 ズンズンズンズンドコ
 ズンズンズンズンドコ
 雨に吹かれて 花が散る
 雨に濡れても 花が散る
 咲いた花なら いつか散る
 向こう横町のラーメン屋
 赤いあの娘のチャイナ服
 そっと目くばせ チャーシューを
 いつもおまけに2-3 枚

 私たちの世代では、ドリフターズの「ドリフのズンドコ節」(1969年)がなじみ深い。

 ズンズンズンズンズンズンドコ
 ズンズンズンズンズンズンドコ
 学校帰りの森影で
 ぼくに駆けよりチューをした
 セーラー服のおませな子
 甘いキッスが
 忘らりょか ソレ

 加藤茶の1番に続いて、2番を仲本工事、3番を高木ブー、4番を荒井注、5番をいかりや長介が歌い、6番に入る前にいかりや長介が「元歌」と叫んで、海軍小唄の歌詞を全員で歌います。

 汽車の窓から手を握り
 送ってくれた人よりも
 ホームのかげで泣いていた
 可愛いあの子が忘らりょか

 もっと前には小林旭なども歌っています。時代は変わり、時は移りますが、どれも男女の恋物語が明るく、ちょっと切なく歌われています。その「ズンドコ」が、悲惨な災害報道の総括コメントの場面で大女優キャスターの口から飛び出したのですから、世間は驚きました。著者も聞き間違いかと我が耳を疑いあわてて友人に電話をかけ、友人もまた著者に電話をかけるところだったという。それで「ズンドコ」と言ったと確信を持つに至った、いや驚きました、と書いています。
「ズンドコ」と「ドンゾコ」。意味も使われ方もまったく違う二つの言葉ですが、カタカナで書いて並べ、音にしてみるとその感じが驚くほどよく似ていることに改めて気づかされます。目を閉じて心の耳で聞いてみるとよく分かります。女優キャスターが言い間違えたのも分かるような気がしてくるのです。ここが日本語の面白いところのひとつで、言い間違いを騒ぎ立てたメディアへの反発もあって、「最悪の状態」の意味であえて「ズンドコ」と言っている知人女性がいます。彼女に言わせれば、「ドコ」は「ソコ」に通ずで、「ズンドコ」はズンと底まで行ってしまうという感じがよく出ているじゃないか――というわけです。今風の「感字」と言えるのかもしれません。
 音が似ているところから起こる言い間違いの例がもうひとつ紹介されています。「海のモズクと消えた」です。え、どこかおかしいの?と思った人は、以下の引用をとくとお読みください。

〈「海のモズクと消えました」
 タクシーのラジオが確かにそう言った。
「運転手さん、それどこの局? 誰? アナウンサー? それともタレント?」
 矢継早に質問したのが悪かったか、運転手はあわててチューナーをいじってしまい、どこの局の誰がそう言ったかわからなくなってしまったが、今、確かにどこかの誰かが「海のモズク」と言ったのだ。いや、「海のモズク」であれば間違いではない。むしろそれは正しい。「海のモズクと消えた」と言ったから私の耳が反応したのだ。
 この話を友人五人にしたところ、三人が「えっ、モズクは間違いなの? 私(オレ)はずうっとそう思ってた」と答えた。実に五打数三安打の六割が、モズクなのだ。これは一体どういうことだろう。私の友人の知的レベルが低いということなのか。すると必然的に私も低いということになり、ええい、告白しよう。実は私も高校二年まで「海のモズクと消えた」でいいと思っていたのだ。トホホ。〉

 モズクは、「水雲」または「海蘊」と書き、北海道から九州まで日本海、太平洋沿岸に幅広く分布する褐藻類モズク科の海藻。三倍酢であえて食べます。ですから、「海のモズク」は正しいが、「海のモクズと消えた」は大間違い、なのです。
 消えるのは――藻屑(もくず)。「海中の、藻の切れ端」のこと。「水難・海戦などで死ぬ」ことを表す時に「海底の藻屑と消える」と言います(『新明解国語辞典』)。
 海蘊(水雲)も海藻なら、藻屑も藻の切れ端。大きな違いではないようにも思えるかもしれませんが、藻屑は、古くは古今和歌集や源氏物語にも使用例が出てくる言葉です。著者自身も高校2年までは「モズク」で正しいと思い込んでいたと正直に書いていますが、それにしてもタクシーの中で耳に入ってきた「モズクと消えた」という言葉に即座に反応した落語家はやはりただ者ではありません。

 大事な場面で緊張のあまりか、酒のせいか、どん引きになる言い間違いも少なくないようです。誰しも一度や二度、冷や汗をかいた経験があるのではないでしょうか。
 娘の結婚式終盤に両家を代表して挨拶に立った新婦の父が酔った勢いで「ふしだらな娘ですが・・・・・・」とやってしまった例。「ふつつかな娘」と言うべきところでしたが、ご本人、ビデオを突きつけられても「俺じゃない」と言い続けたとか。
 NHKのアナウンサーだって、やるときはやっています。朝の天気予報コーナーでのことです。

〈スタジオとのやりとりの最中に、いきなり雨が降り出したという。職務上、この雨に触れなければと思ったか、彼女はこんなことを言い出した。「夕方に降る雨を夕立と言いますよね」
 ここでよしゃよかったんだが、このあとのセリフが命取り(生きてます)になった。妙齢の御婦人の口から「では朝降る雨は朝立ち(あさだち)と言うんでしょうか?」というお言葉が発せられたというのだ。また聞(ぎ)きなのが残念である。ああ、リアルタイムでそれを聞きたかった。〉

 朝のNHKで飛び出した女子アナの〝下ネタ〟。言ってしまってから、何を言ったか気がついて顔を赤らめたかどうか定かではありませんが、著者がまた聞きを残念がるのもわかります。

 最後に、とっておきの笑える日本語――ヨイショの達人の話芸を紹介しておきましょう。古今亭志ん駒(しんこま)師匠のゴルフ三題を引用します。

〈あの杉様こと杉良太郎さんに可愛がってもらい、ある日ゴルフのお供をした。どうしたことか杉様、調子がよくないと見えて、ボールがみな左右の土手に上がってしまう。こういう時に志ん駒師のヨイショは真価を発揮する。志ん駒師、杉様にこう言ったのだ。「いよっ、人気と同じで上がりっぱなし」と。
 スゴイわねえ、その御褒美がレミーマルタン十本だって。今のではない、二十年前のレミーですぞ。
 右翼の大物に誘われ、お供をした。大物氏、ものすごいスライスボールを打つという。こういう時にも志ん駒師はひるまない。「いよっ、大将、憎いね、ボールも右寄りだ」
 このひと言で三万円の御祝儀が出たという。「え、談四楼、この調子で十八ホール回ったわけだから、ウヒヒ」とは志ん駒師の弁だ。
 志ん朝夫妻ともラウンドしたという。志ん朝師は平成十三年惜しくも亡くなったが、当時は押しも押されもせぬサラブレッド、でまあその方面のヨイショをする。グリーン回りへ来ると、「さすが朝サマ。うーん、寄せ(席)が上手い」てなことを言うわけだ。
 問題は夫人である。夫人は私などには少し気むずかしそうに見え、第一おそれ多くてなかなか接近もままならないのだが、志ん駒師はこういう人にも積極的にアプローチする。さて打とうという時にあえて近くに寄り、ボソッと呟くのだ。
「弱っちゃうよなァ、器量がいい上にゴルフまで上手いんだから」 どうなりました? と訊いたら、「家に招かれちゃって大変、もう御馳走攻め」だったそうな。〉

 ちなみに、志ん駒師匠の座右の銘は「される身になってヨイショはていねいに」だそうです。
 日本語を巡る、面白くてためになるエッセイ集。続篇『もっと声に出して笑える日本語』(光文社、2013年3月29日配信)もあわせてお読みください。(2016/4/29)
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