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黒の試走車

発売間もない新型車(ニューモデル)と特急「さくら」の衝突!ついで起こる企画一課長の謎の事故死。二大自動車会社を向こうにまわして、業界を制覇せんとする「タイガー自動車」の前途には、不気味な暗雲が漂う。ライバル新型車の機密を探れ!秘命を帯びて企業スパイに身を投ずる朝比奈を襲う試練!情報推理小説の記念碑的名作!

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1962年に刊行された昭和を代表するベストセラー、梶山季之『黒の試走車』。産業スパイを切り口に成長前夜の自動車業界を描いた書き下ろし長編で、企業サスペンスの分野を確立した作品です。企業の生き残りをかけた熾烈な情報戦争――新車開発をめぐる謀略・潜入調査・盗撮、価格決定に至るまでの駆け引きの迫真性が業界のみならず、高度成長前夜の社会全体に大きな衝撃を与えました。物語はこう始まります。〈大阪の街は暮れなずんでいた。夕刻になると、この街は、ふいに黄昏れてくる。それは労働者の汗と、商人のソロバンと、そしてサラリーマンの疲労の匂いとをもった、粘っこい黄昏であった。――淀屋橋を渡りながら、朝比奈豊は、苛立たしそうに腕時計をみた。五時十七分だった。梅田新道の支社で、本社から出張してきた企画一課長の柴山美雄が、彼の帰りを待ちわびている時刻である。二人は大学も同期で、昭和二十五年に仲よくタイガー自動車株式会社に入社していた。(中略)太陽は、すでに沈みかけている。ちょうど退け時なので、歩道には帰宅を急ぐサラリーマンが溢れていた。夕方の御堂筋には、物悲しいが奇妙な活気があった。秋が深まったせいか、街路樹も黄ばみはじめ、風も冷ややかさを増した感じである〉タクシーを拾うことをあきらめた朝比奈が歩いて梅田新道の交差点の傍らに立つタイガー自動車大阪支社が入るビルの前まで戻ってくると、勤め帰りのOLたちがビル1階に設けられたショー・ヤードの窓ガラスに額をすりつけるようにして、展示されている三台の新車に見入っている。社運を賭けて発表したニュー・モデル「パイオニア・デラックス」だ。〈流れるような、スピード感に満ちた車体の力強いデザイン。大型車のような豪華さを与える四灯式のヘッド・ランプ。そして鋭角的なテイル・フィン。塗装は日本で最初の、ツートン・カラー塗装であった。一五〇〇CC・七十二馬力。最高時速百四十キロという、惚れ惚れするような性能を持った、六人乗りの高級車だ〉時代は日本が東京オリンピック(1964年/昭和39年)を数年後に控えて高度成長の道を走り始めた昭和30年代前半です。「マイカーブーム」の本格化は東京オリンピックの後、昭和40年代に入ってからで、その前夜ともいうべき時代に業界3位の自動車会社が社運を賭けて発表した、排気量1500CCのデラックス車。その新車が無人踏み切りで急にエンジンが動かなくなって、立ち往生。特急と衝突、大破するという事故が起きる。その事故の真相調査を命じられた企画一課長の柴山美雄は調査開始の2週間後に箱根乙女峠で不慮の事故死を遂げる。なぜ、不可解な出来事が相次いで起こるのか? その裏で何者かが暗躍しているのか? 急遽、東京に呼び戻された朝比奈豊は、新設の「企画PR課」の課長として秘密の仕事を担当するように部長の小野田から命じられる。業界トップのナゴヤ自動車、2位の不二自動車に開発情報が漏れている形跡があり、その対策、つまり産業スパイからの企業防衛が企画PR課の秘匿された役割であり、逆にライバル会社の「新車」の秘密情報を入手する工作、つまり産業スパイ活動も新組織の重要業務だという。小野田部長が「殺されたのではないか」と疑う柴山の死、仕組まれた可能性のある新型車の事故の真相解明も守備範囲で、朝比奈と彼の若い部下たちは次第に次期戦略車、スポーツ・カーをめぐる情報戦争の最前線に立たされていきます。東京に転勤となった朝比奈を追いかけて上京してきたホステスの宇佐美昌子。朝比奈は週に一度アパートにやってくる関係にある昌子を業界人が集まるバーに勤めさせた。客として店に来たナゴヤ自動車の幹部・馬渡久は外車ショーの開催される江の島に昌子を誘う。昌子は馬渡の誘いに、ただ黙って笑って明確に断ることはしなかった。そのことを昌子から、聞かされた夜――。〈《・・・・・・これは単なる浮気心ではないぞ? 昌子に惚れているんだ・・・・・・。すると昌子には、馬渡は警戒心も持たず、会社の機密を寝物語にしゃべるのではないか・・・》朝比奈は、昌子の体を思い切り、力いっぱいだきしめながら、視線を宙にさまよわせていた。彼は知りたいのだった。ナゴヤのスポーツ・カーの内容を! 心の中には、なんども否定した、さきほどの不埒な空想が、影絵のように黒々と広がってくる。そしてぐるぐる駆け回りだすのだ。《いや、そんなことはできない! 憎むべき敵だ! あの馬渡が、この昌子の体を奪ったとしたら、俺はもう・・・・・・彼女を愛していく自信はない!》 《だが、彼女が、馬渡の女になれば、スポーツ・カーの内容も・・・・・・いや、ナゴヤの最高機密情報(トップ・シークレット)も、労せずして盗めるのだ。絶好のチャンスなのではないか?》昌子は、体を離して彼の唇を吸い、「もう、寝みましょう」とささやいた。朝比奈はうなずいた。「だけど、一度ぽっきりの浮気で、スポーツ・カーがもらえるんやったら・・・・・・魅力やわア・・・・・・」酔った昌子の情欲は、いつになくはげしいものであった。だが、女の体を苛みながら、のたうち、のけぞる昌子を胸の下に組み敷きながら、朝比奈は、ふと、とり憑かれた不埒な計画に邪魔されて、いっこうに燃え立たぬ自分に気づいていた〉ライバル企業の秘密を手に入れるために、結婚を考えている恋人を仇敵に差しだすことができるのか。それは許されるのか? 勃興期を迎えた自動車産業の裏面に見え隠れする「産業スパイ」の蠢動をとらえた本書は、梶山季之が月1000枚といわれた流行作家になっていく最初の一歩となった記念碑的作品です。様々な記事を量産した週刊誌のトップ屋から小説家に転じた梶山の取材力、データ分析力があって初めて書き得たものといえるでしょう。全編を通じて色濃く残る昭和の匂い――若い日本の、元気な時代の日本人がここにいます。(2013/10/18)
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