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ザ・流行作家

エロ小説の大家・川上宗薫と木枯らし紋次郎の笹沢左保。今や懐かしさすら漂う二人の流行作家。銀座に通い複数の女性と関係を持ちつつ月産1000枚超の小説を書き続けた豪傑たち。今は絶滅した「流行作家」という豪傑種と長年密接につきあってきた著者が、人となりから知られざるエピソードまでを縦横に書き下ろす。

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ザ・流行作家

 私には、一度も小説を書いたことがないのに、小説家志望と自称していた時期がありました。アイデアのメモは一生懸命に作るのに、いざメモが完成してしまうと、もうそれで満足してしまって、原稿用紙にもパソコンにも向かわずに、また次の小説のアイデアを練る。そんなことを繰り返していました。この次には、もっと何かすごいアイデアを思いついて、歴史に名を残すような作品が作れるのではないか。そうすれば、自分が生きた証のようなものを残せるかもしれない。そんな中学生のような自意識過剰にとりつかれていたのです。

 この本に登場する流行作家、川上宗薫と笹沢佐保は、驚異的なスピードと仕事量で、娯楽小説の全盛期を担った二人です。絶頂期は月産千枚。パソコンもワープロも無い時代に、手書きと口述筆記でこれだけの作品を生み出したということには、驚きを禁じえません。私は、二人の小説を好んで読んだ世代ではありません。名前を知っている程度だったので、この本を読んで初めて、二人がどのような作家だったか知ったのです。笹沢佐保など、あの「木枯し紋次郎」原作者だということすら知りませんでした。

 そして、私は何よりもそこにグッとくるのです。二人は、現在ではほとんど知る人ぞ知る作家になりつつあります。二人の主戦場は主に小説雑誌。つまり、二人が活躍していた当時を知らなければ、二人の名前も知る術も無いのです。山口瞳は「流行作家は書かなければいけない。書き続けなければいけない」と語りました。命尽きて、書き続けることもできなくなった二人は、過去の作家になってしまったのです。

 私はむしろ、その生きざまにダンディズムを感じます。生きている間は命を削って書きつづけ、亡くなった後は静かにその名は表舞台から去って行く。これこそが流行作家の格好良さでしょう。

 結局のところ、私は今、小説家になることはなく、出版社に入ることになりました。歴史に名を残すようなことはできないかもしれませんが、一つのことを死に物狂いでやれば、格好良く消え去ることはできるはず。そんなことを、この本に教えてもらったような気がしています。

(2014.08.01)

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