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私の西域紀行(下)

「私の生涯の一書はこれだ」と著者はいう。荒涼たる土の海、天へ舞い上がる沙の渦をおかして探査の旅は続けられ、その困難のさ中に先人スタインの記録の空白が、ここにはじめて埋められる。二度目の敦煌、タクラマカン砂漠の大ドライブ、四日がかりの汽車の旅。間断なく揺れる車の助手席で、あるいはたどり着いた宿舎で、根気よくとりつづけられたメモと、作家の洞察力が、秘境のかくされた顔を正確無比の筆で描き出した。シルクロードは、読者の眼前にある。

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井上靖が京都大学の学生の頃から夢に見てきたという「西域」への旅が実現したのは、1977年(昭和52年)のこと。8月に新疆ウイグル地区に入ったのを皮切りに、翌78年には敦煌へ。そして1979年(昭和54年)まで繰り返した西域行きを綴ったのが、本書『私の西域紀行』(上下)です。70歳になって初めて新疆ウイグルの地に立った井上靖は、次のように書いています。〈とうとう新疆ウイグル地区に入った。ウルムチに入った。そんな思いが、寝台に入った私を、多少寝苦しくさせていた。往古の西域、今日の新疆ウイグル自治区がいかなるところか。(中略)現在この地区に生活している十三の少数民族は、いかなる風貌と、いかなる習俗を持って生きているか。また日本の四倍半の広さを持つ新疆ウイグル自治区が、天山山脈とタクラマカン砂漠の地帯が、いかに古い歴史の翳りを持ち、いかに現代の呼吸をしているか。それからまたその首府であるこのウルムチが、いかに近代化され、国境に近い町としていかなる性格を持っているか、――すべては明日からのことである〉ちなみに、中国側の招待の形で実現したこの旅には、司馬遼太郎や東山魁夷も同行していたそうです。当時の日本にあって、西域に強い関心を寄せていた最良の知識人たちがともに参加したツアーであったことが井上靖の考察に深みを与えていたであろうことは想像にかたくありませんが、本書のもう一つの魅力は井上靖撮影の壁画、仏画といった新疆ウイグル地区や敦煌などの写真が巻頭口絵として収録されていることです。いうまでもなく、新疆ウイグル地区はアフリカや中東の独裁政権が体制変革、民主化の荒波に襲われるなかで、対応が注目される中国の「弱い環」としてクローズアップされている自治区です。「そこで生きる人々とは?」井上靖が自らの目で見つめ、自らの足で確かめた真実は、決して色褪せることはありません。上下2巻。(2011/3/11)
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